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心に風が吹いた

高校時代、とても好きな男の子がいた。
恋という気持ちはなかったけれど、その子の近くにいると、
自分の心に風が吹いたみたいになって、気持ちよかった。

一度、文化祭の打ち上げで、私とその男の子を入れた数人で
ファミレスに行ったことがあった。
私がその子の隣に座ると、彼がこう言った。
「俺、左利きだから、食べてる時、腕が当たっちゃうかもしれない。」
私は、当たってくれたらいいな、と思ったけれど、
彼と私の腕が触れることはなかった。

高校卒業後、彼と一度だけ、二人きりで出掛けたことがある。
東京日野市の高幡不動尊だ。
真っ赤な色が目に飛び込んでくる。不動明王の気配を感じた。
久々に会う彼は、少し雰囲気が変わっていて、
その日、私の心に風は吹かなかった。

あの時ファミレスで、
もし袖摺れあっていたら、腕と腕が触れていたら、
今でも彼は、私の心に風を吹かせていただろうか。
― もしかしたら
そう思う度に、あの風が私の心をくすぐっていく。

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