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スマホって、何かね。
この平べったくて重たい板に、ひと月近く右往左往していたが、先日私はついに、スマホデビューを果たした。
私のガラケー使用期間は21年。
その間に使った携帯は3台である。
その内の2台は気に入って使っていたカシオのG'zOneという機種だった。
夫は黒、私は赤。
丈夫な機種なので、2機種とも本当によく頑張ってくれた。TYPE-Rは、CDMA 1Xのサービス終了まで使ったあと、同シリーズのTYPE-Xを購入し、ほんの数日前まで使っていた。今思えば、携帯をかざすだけで、ピピッと支払いができる快感を教えてくれたのが、このTYPE-Xであった。
TYPE-Xを使っていた10年ほどの間に、スマホはどんどん幅を利かせていった。貯めていたユニクロのポイントカードは、スマホアプリの登場により廃止され、他にも徐々にスマホでないと受けられないサービスが増え始めた。
ユニクロで会計するとき、スマホのアプリをどうたら言われるたびに、
私は印籠のようにガラケーを取り出し、店員に見せつけ続けた。毎度毎度、店員は申し訳ないことをしたかのような表情で、
「すみません…」
と小声で謝る。
なぜ謝るのだ。
もし謝りたいのなら、私にではなく、この頑張って動き続けている、赤い塗装の禿げた、このガラケーに謝ってくれ。
そんな気持ちで私は、店員の謝罪を耳にしていた。
無論、店員さんは一切悪くない。
しかし毎度「ガラケーなんで」とアプリを断り続けていると、無駄に反骨精神が湧いてくる。天の邪鬼な私と夫は、スマホの波にどこまで乗らないでいるか、意地になっていた。
何よりも、通信費に夫婦で1万円以上支払うのは、さすがにもったいない。元々パソコンがあるので、苦しいほどの不便を強いられることもないと思っていた。とはいうものの、スマホでお得、スマホアプリでお得。などという単語が当然のように飛び交い始めると、
みんなして、スマホスマホってなんなんだよ!
という思いが湧き上がり、私の表情はこの上なく憤然とする。そして脳内の菅原文太がいぶし銀の表情と声で、こうつぶやくのだ。
「あんたらは、さっきからスマホスマホと言っている。あんたらにとって、こうやってスマホアプリを入れさせて、お得に買い物できることが精一杯の誠意かもしれんが、ガラケーユーザーの側からは誠意にとれん。スマホって、何かね?」
北の国からの名セリフのように私の気持ちを代弁する文太。
しかし文太の応援も虚しく、私のガラケーで使えてきたサービスは、次々と剥がされるように使えなくなっていった。
最初に私に反旗を翻したのは、モバイルSuicaであった。
「後3ヶ月で、オレ、お前と別れるから」
そんなメールを藪から棒に送りつけてきたのだ。
あのペンギン野郎、随分じゃないか。
私の頭に「怒」の文字が浮かび上がる。
ペンギンだけではない。nanacoも楽天Edyも何もかも、当然別れを告げ、私のガラケーから去っていった。
とうとう、私の赤いガラケーは、通話とEメールとショートメールが使えるのみとなったのである。
それでも私達夫婦がスマホに変えようと思わなかったのは、スマホにするのと、買い物などで得するのと、どちらが出費が上かを考えると、スマホを持たない方に軍配が上がっていたからだ。
夫とのやり取りは通話もショートメールも無料であるし、何も困ることはない。
3Gケータイのサービス終了がauから通知されても、ガラケー契約くらいに安くなるまでは、スマホにしないと心に誓い、ギリギリまで耐えるべく、夫と歯を食いしばってきた。
だが、とうとう我々はスマホに負けたのである。
来年3月の3Gケータイサービス終了を待たずして、21年の長きに渡ってお付き合いしたauさんとお別れし、私達夫婦はスマホに乗り換えた。
スマホになれば、かつて使っていたサービスも復活できる。
また付き合おうと思えばペンギンとも付き合えなくはないが、スマホに何もかも機能を入れてしまうのは面倒な気がしてしまう。便利さと面倒臭さは、どこか表裏一体なように思える。
私のガラケーはあまりに古い機種なので、microSDカードによるスマホへのアドレス帳の移行もできなかった。ちまちまアドレスをスマホに手入力しているので、まだまだガラケーの充電は必要だ。
手入力が終わったら、もうこのガラケーは使わなくなるのだろうか。電波時計の機能やアラームは、通信機能ができなくなっても問題なく使えている。
しばらくは、目覚まし時計として使い続けようかな、、、
そう思いながら私は、明日起きる時間に、ガラケーのアラームをセットした。
お読み頂き、本当に有難うございました!