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嗚呼、愛しのワンタンメン

 私はワンタンメンが好きだ。
 ラーメンの具の花形といえば何と言ってもチャーシューだが、私にとってワンタンは、チャーシューよりもお得なトッピングなのだ。

「いや、そこは塊肉のチャーシューの方が得だろう」

 と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、そこには私なりの理由がある。

 私は恥ずかしながら大食いなので、できれば何でも大盛りで注文したい。いっぱい食べたいのだ。しかし、私にだって人並みの羞恥心がある。いかにも大盛りを食べそうな見た目の女が、大盛りを食べるという、お決まりの行動をとるのが恥ずかしい。
 店員さんから、

(ああ、やっぱりこの人、大盛り食べるんだ)

 そう思われてしまうのではないかと思うだけで、地面に穴を掘って入りたくなる。店員さんだって、毎日何十回と注文を受けるのだから、大きな女が大盛りを頼むなど珍しくもないとは思う。しかし、私は一日に何十回も大盛りを注文するわけではないので、いつだって恥ずかしい。毎回、ウブな気持ちで注文に挑んでいるのだ。自意識が邪魔をしすぎて「私、ラーメン大盛りで!」の一言が言えない。何ていじらしいのだろう。

 そんな私とは逆に、夫は小柄で小食だ。注文時には、夫が普通サイズ、私が大盛りという状況になることも多い。これが更なる羞恥心を生む。そういうとき、夫に、私が食べる予定の大盛りメニューを注文させ、私が夫の普通サイズのメニューを注文するという裏技を使ってきた。そして到着した丼を、店員さんの目を盗んで交換するのである。
 今まで食べている途中に、

「あら、やっぱりあなたが大盛りだったんですね!」

 などと店員さんに言われたことはないが、きっと横目で、
(あ、やっぱり…)
 と思われていたんだろうなと思うと、掘った穴が、日本の真裏のチリにまで到達してしまいそうだ。

 そんな羞恥心から免れるための苦肉の策が「ワンタンメン」だったのだ。麺を多く食べたい私にとって、麺と同じ小麦粉が原料であるワンタンを乗せることは、自分の脳に「大盛りを注文したんだぞ」と錯覚させるための、ひとつの秘技なのである。つまり、ワンタンメンを食べると、私は大盛りを食べた気になれるというわけなのだ。

 しかも、このワンタン。お店によって、具の入れ方にも独自の味があって楽しい。具たっぷりタイプのワンタンは、食べ応えと満足感が味わえる。ワンタンの具を噛んだ瞬間、肉に練り込んだごま油の香りがしてきたときなんざ、

「おお!神よ!」

 と、思わず天を仰きたくなってしまう。ごま油の香りが鼻に抜けたことに感謝の念が沸き上がってくる。この喜びは他のラーメンでは味わえない。

 だからといって、具が少ないタイプのワンタンが、駄目というなわけではない。むしろ、ワンタンの魅力は、具以上にその生地の滑らかさにある。幅広の麺のような生地を、チュルリと啜り上げるように食べることができるワンタンは、麺とは違った、スープとの一体感を味わえる最高の逸品だ。

 これがチャーシューメンだと、チャーシューの厚みが薄いととか、枚数が少ないなどで、目くじらを立てることになりがちだ。隣の客に端っこの厚めのチャーシューが入っていたりすると、もう少し早く来店しておけば!と地団駄を踏むほど悔しい気持ちになる。

 しかし、ワンタンメンだと、具の多さや少なさに左右されることなく、それぞれの楽しみ方があるので、心穏やかでいられる。まさに雲を吞むような、安穏とした気持ちでいられるのだ。

 そんなワンタンメン好きの私が、憧れにしているお店がある。山形県酒田市にあるワンタンメンの名店、満月のワンタンメンだ。

 山形県酒田市は、満月以外にもワンタンメンの名店が多い。
 やはり雪が降る寒い地域は、心が欲するような優しい見た目のラーメンや中華そばが多く、見ているだけでお腹が空いてくる。
 東京の三鷹市にも、満月の支店があるそうだが、できればワンタンメンの聖地、山形県酒田市で、ワンタンメンのはしごをしてみたいものだ。

 このとろけるようなワンタンの写真を見ているだけで、私はお風呂の湯船に、肩までつかっているような安らぎを感じる。寒い日に、ふうふう言いながら、ワンタンをすすり上げ、麺をほじくり返す快感を思い出すだけで、身体がほぐれてくるような気がするのだ。

 私にとってワンタンメンは、まさに心の湯船なのである。



 憧れの名店、満月のワンタンメンを、ゆうゆうさんがレポートして下さいました! ぜひ、こちらの記事にある写真をご覧ください。
 箸が透き通って見えるような滑らかなワンタン! 嗚呼、できることならこのワンタンに包まれたい!

ゆうゆうさん、素敵なレポート有難うございました!



お読み頂き、本当に有難うございました!