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母、懸賞応募を疑う

 「あれは、本当に当選してる人がいるの?」

 そう母が言った。
 一体、何の話かというと、ある企業が頻繁に開催している懸賞応募の話である。豆腐や納豆を扱う企業なので、私もその懸賞に応募したことがある。毎年結構な応募回数になるので、すぐはがきに印刷できるように宛先が登録してある。それくらい、懸賞を頻繁にやっている企業だ。

 今年もその懸賞が始まった。普段は納豆商品のみ、豆腐商品のみのバーコードを送る懸賞が多いのだが、年末はその企業の豆腐製品、納豆商品、両方のバーコードを送れる懸賞が始まるのだ。

 母も何度もこの懸賞に応募したらしいのだが、いまだに当選したことがなく、とうとう本当に当選している人がいるのか、疑り始めたのだ。せっかくマメに懸賞をやっているのに、疑われては企業も気の毒である。

 私の母は、懸賞に関してはなかなかの強運の持ち主だ。マメに懸賞応募をしているからなのかもしれないが、過去に結構な数の懸賞を当てている。

 実家にいたときに当たった懸賞の中で一番高額だったものは、カップヌードルの自転車である。赤い自転車で、カップヌードルのロゴがビシッと入った、なかなかかっこいい自転車であった。少々小さめのサイズだったが、私はこれに乗って中学時代、こっそり自転車通学していた時期がある。当時161センチの身長で横幅広めのわがままボディだったせいか、その自転車に乗っていたとき、通りすがりの小学生から、

「サーカスのくまみたい」

 と言われ、深く傷ついたのは苦すぎる思い出だ。

 一番テンションの上がった当選品はなんと言っても「由貴のモーニングキューブ」である。これは当時、斉藤由貴がCMに登場し、バンバン放映されていたので、記憶にある方も多いかもしれない。

 今調べてみたら、資生堂のヘアケア製品の懸賞だったようだ。これは名前のとおり、キューブ型の機械で、それぞれの面に、ラジオ、温度計、アラーム機能付き時計、懐中電灯、鏡、が設置されていて、画期的だったのは、アラームをセットすると、ラジオの音声が鳴って起こしてくれる機能だった。
 CMで斉藤由貴がこの商品を使っているのを見た途端、家族で「欲しい!」となった夢の商品である。

 おそらく当時、激戦だったであろう懸賞に、なんと母は当選したのである。

 私と姉のテンションが上がりに上がり、大興奮。しかし、モーニングキューブは問答無用で姉のものとなった。こういうとき、妹というのは大概不遇な目に遭うものらしい。当時からラジオっ子であれば、奪ってでも使ったのかもしれないが、さすがに小学生低学年でAMラジオを楽しめる渋さは私にはなかった。姉も当時ラジオには興味がなかったので、時の流れとともに、モーニングキューブは母の目覚ましラジオとなった。

 このモーニングキューブ、そのキューブ型の白いボディーが経年劣化で黄ばんでも壊れることなく、長く活躍してくれた。家族全員で、モーニングキューブから流れるラジオの落語に、家族みんなで思わず笑ってしまった光景が、あまり安穏ではなかった我が家の幸福なワンシーンとして強く記憶に残っている。
 今はそのモーニングキューブも、その頃住んでいた家も無い。

 母が当てた懸賞品で一番可愛かったものは干支の格好をしたキューピーの人形である。戌年だった母は、犬の着ぐるみを着たキューピー人形に大層喜び、今も部屋に箱に入ったまま飾ってある。

 そんな母なので、宝くじももちろん買っている。

「買わなきゃ当たらないからね!」

 と鼻息は荒い。今年も買うのだろうか。
 母のことだから、そのうち高額当選を引き寄せる気がしないでもない。そうなった暁には、是非ともお気楽に、悠々自適な生活を楽しんでほしいものである。

 さて、私も納豆、豆腐製品のバーコードが結構溜まっている。
 今年こそは当ててみたい。
 牛肉、蟹、果物、当選商品は色々あるが、私はその企業のキャラクターが印刷されている赤いエコバックを狙いだ。
 なんと、今年は当選人数を6,000名増加したそうだ。チャンスが増えて何よりである。
 とりあえず、母か私のもとに、いち早く懸賞品を届けて頂かないと、母の疑惑は深まる一方なのだ。
 おかめ納豆のタカノフーズさん、今年こそ!どうぞ宜しくお願いします。





 

 


 

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