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花丸恵の漫筆日和

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思いつくままに書き留めたジャンルなしの日記やエッセイです。
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2021年11月の記事一覧

魂カムバック

 たましいの、抜けたひとのように、足音も無く玄関から出て行きます。  これは、太宰治の小説「おさん」の冒頭の一文である。  私はこの書き出しが好きで、これを読んだだけで、ブルブルっと痺れてしまうのだ。そして満面の笑みでウインクをし、親指を立て、 「太宰先生!今日も絶好調ですね!」  とアメリカンな感じで声をかけたくなってしまう。太宰にとっては、大変迷惑な読者だ。  しかし、魂が抜けるとまではいかなくても、何だか疲れ果ててしまい、それこそ魂が抜けたようにうなだれてしまうこと

午後5時55分55秒

 今、ふと電波時計を見たら、  午後5時55分55秒  だった。 「おーほっほ、見てみて、今、午後5時55分55秒だったよ!」  私は思わず、25年近い付き合いのぬいぐるみ、スヌーピーに話しかけてしまった。一人、部屋で盛り上がる四十路女。不気味である。  しかし、こういうことで喜べるようになれたこと自体が、私の中で成長とも言えるのかもしれない。  以前は、「おっ!」と思っても、こんなことで喜ぶなんて、お気楽な人間だな、と自分を恥じた気がする。せっかく「おっ!」と喜んだの

散歩ができない

 散歩が趣味、という人がいる。  いいなぁ、と思うと同時に、私も散歩したい!と思う。散歩をすれば健康にもいいし、精神面においても良い。きっと散歩をすれば気持ちのもやもやも、自分が気づかないところで解消されていくような気がする。  しかしである。  私は散歩ができないのだ。ただ歩けばいいだけじゃないか。そう思われるかもしれないが、私の場合、ただ歩くということが非常にもったいない気がしてしまうのだ。  元々、恐ろしいまでの出不精である。散歩に行くために、部屋着から外着に着替える