世の中に絶えて桜のなかりせば〜青空と桜とドラえもん〜
世の中に絶えて桜のなかりせば
春の心はのどけからまし
by在原業平
毎春、朝の情報番組やワイドショーで桜の開花予測が流れ始めると、この歌が頭に浮かんでくる。
日本人みんなが、いまかいまかと桜の開花を待っている雰囲気は、なんだか面白い。
全国ニュースではもうとっくに桜の時期は過ぎてしまったようだけれど、わたしの実家のある地域では、いままさに桜が満開だ。
北日本の桜シーズンはまだまだこれからが本番。
ようやく、長い長い冬が終わる。
どうして桜は、こんなにも人間を魅了するのだろうか。
まず、花の色が完璧だと思う。
純白の百合、鮮やかなひまわりや椿も凛としていて好き。
でも、やつらは少し気が強そうな感じがする。笑
一方で、桜のあのピンク色は、優しくて慎ましくて、儚い。
枝の隅から隅までいっぱいに花を咲かせた木の立ち姿は、神秘的にすら思えてくる。
一輪で己を表現するのではなくて、全体の美しさで魅せるところも、なんとなく好感がもてる。
東北の冬は特にそうだが、雪が積もっていて、毎日曇っていて、色がない。
春の訪れを告げる花は、いきなり強い色の花よりも桜のような優しい色のほうが、安心する。
そんな桜が魅力的すぎて、結局心は乱されてしまっているのだけれど。
在原業平の歌には、返歌がある。
散ればこそいとど桜はめでたけれ
憂き世に何か久しかるべし
詠人不知
桜は散るからこそ美しい。間違いない。
そして、散り方も素敵だ。
青森出身の父は小さい頃、弘前城の桜吹雪に巻かれて迷子になりそうになった、と言っていた。
自分がどこにいるかもわからなくなるほどの桜吹雪が舞っている場面を想像する。
わたしはきっとポカンと口を開けて、その景色に圧倒され、見惚れているのだろうなと思う。
さらに桜は、散った後も人間を魅了する。
花筏のように、あたり一面をあの優しい色に染め上げて、最後の最後までわたしたちの心を乱すのだ。
こんな風に、桜は、優しく大きく咲き誇って命の芽吹く春を彩り、散っていくそのときにも、散ったあとでさえも人々を惹きつける。
自分も、そんな風に咲いて散っていきたい。
そう思わせてくれるから、人間は昔からずっと、桜に魅せられているのではないだろうか。
【余談】青空と桜とドラえもん
職場の階段の踊り場には、窓がある。
だいぶ高い位置にあって、時々階段を降りながらふと見上げることがある。
この前なんの気無しに見上げたら、よく晴れた空をバックに花をつけた桜の枝の一部が窓枠に切り取られていて、絵画みたいになっていた。
青とピンクってなんか合うなあ、と思いながら階段を降りていくと、ふと思い当たった。
ドラえもんのロゴと同じ組み合わせだ。
なるほど、どうりで親しみを感じるわけだー。
わたしは小さな発見にほっこりして帰路についた。
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