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童話小説「ガルフの金魚日記10」

 今日は、昨日の嵐が嘘のように太陽が、キラキラと輝いています。
 そのキラキラが、金魚鉢の中にも降りそそいでいます。
「お陽(ひい)さんのぬくもりが、なんともいえず、気持ちいいなぁー」ぷくぷく。

 ぼんやりと景色をながめていると、窓の向こう、ベンチの上で黒と茶色のブチネコが、ぼくをじっとにらんでいます。
 ある日、ふらりとやってきた風来坊のネコです。

 のどをゴロゴロ鳴らし、今日はいつもより不気味に目を光らせています。
 何をする気でしょう。知らず知らずのうちに体が硬直し、ブチネコから目が離せなくなりました。

 そんなとき、むこうの方からひょこひょこと、腰の曲がったおばあちゃんがやって来ます。スエさんです。いつもこのベンチに座って、日向(ひなた)ぼっこしているおばあちゃんです。
スエさんは、自分の席を取られたとでも思ったのでしょうか、シッシッ、と手を振り、ブチネコを追いはらいました。

 ブチネコは、ビクンと体をふるわせると、こともあろうことか、ぷくの方に向かってジャンプしてきました。
「バカ! ビヒャヒャー。ブグブグブグ…」
 急いで金魚鉢の底に身をひそめました。

ブチネコは窓を飛び越え、棚の上に飛び移り、置いてあったエサ箱をひっくり返し、どこかへ逃げていきました。
ひっくり返ったエサ箱は、金魚鉢の水面に浮いています。
あーあ、水面がエサだらけになっています。

いくらなんでも…、こんなには食べられませんよ。それに、このままだと水も汚れちゃうし、困ったなぁ…。
ぷく、ぷく。
 
 そう考えていたのですが、食べはじめたらやめられません。とまりません。ぱくぱく、むしゃむしゃ、ぜんぶきれいに食べてしまいました。
 これなら水も汚れません。エサもむだになりません。
お腹もパンパンです。もう、ひと粒たりとも口をとおりません。
ゲップをしたら、口から出てきそうです。
ブップ…。

 ブチネコににらまれたときはどうなることかと、おそろしくて体が震え、どうしようかと思っていました。
だけど、こうしてお腹いっぱい食べることができ、ブチネコもいいことがあるんだなと、そのときはそんなふうに、のんきに思っておりました。
明日の金魚日記へつづく

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