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ガルフの金魚日記8

 夏くんがのぞいています。夏くんは秋ちゃんの弟で、この春から幼稚園にかよう、ガキ大将です。
 小さいときから子分を連れて、外で遊びまわっている、元気いっぱいの男の子です。

 ぷくなんか自慢じゃないけど、この金魚鉢の中からひと泳ぎたりとも、出たことはありません。
 夏くんのあの自由さが、うらやましくなるときもあります。

あれれ、右手に棒を持っています。何をする気でしょう。いやな予感がします。
この前は、あの棒を金魚鉢に突っ込み、ぐるぐる引っかきまわされました。
たまたま春さんが通りがかり、「なにやってるの! やめなさい」、と止めてくれたからよかったものの、もう少しで目を回して、死ぬところでした。

今日は友だちと一緒です。ふたりとも細い棒を持っています。棒の先には糸が付いています。
「キヨシ、きんぎょつりをしよう」
 夏くんが言うと、ふたりは釣りざおの糸を、ぷくの目の前にたらしました。

糸の先にはキュウリが付いています。金魚はキュウリを食べません。少なくともぷくは、決していただきません。

 目の前にキュウリが垂れてきましたが、知らんふりをして横をむくと、今度はキヨシくんのキュウリが目の前に現れました。左を向いても右を見てもキュウリです。息をつめてじっとしていると、
「つまらない。やーめた」
 夏くんとキヨシ君は釣りざおを金魚鉢に突っこむと、そのままどこかへ行ってしまいました。

 ホッとしました。だんまり作戦がうまく行ったようです。
ぷく、ぷーくぷーく。

金魚鉢に近づいて窓から外を眺めると、窓の下にはベンチが置かれています。
ここは気持ちのいい風が吹き、とても見晴らしがいいのです。金魚鉢のガラスに近づくと、窓越しにすっきりと晴れ渡った青い空、紺碧(こんぺき)の海、そして深いみどりに覆われた島々が見えます。

目の前は道路で、道端にはベンチが置いてあります。タバコ屋だったころの名残です。
四季ばあちゃんが言っていました。夏の夕暮れ時になると、近所の男の人や女の人、じいちゃん、ばあちゃん、それに子供たちも一緒になり、線香花火をして遊んだそうです。
大人たちはビールを片手に、子供たちはスイカをほおばり、わいわいがやがや、おしゃべりして、楽しかったそうです。

今でも近所のおばあちゃんたちがこのベンチに腰を掛け、日長、ぽくぽくと話しをしています。ぷくはのんびりとおばあちゃんたちの話を聞いています。

道の向こう側は防波堤になっています。その先は白い砂浜が広がり、夏になると子供たちの泳ぐ声でにぎやかです。
ここはイチジクの実のなる、ほのぼの島です。

前に見える海は瀬戸内海というそうです。波は静かでまったりとした時間が、とろとろと流れているだけです。
そういえば、泳げたいやきくんが泳いだという海は、どこだったのでしょうか。
♪ぷくぷくぷくぷく、ぷくぷくぷっぷっぷー。
             明日の金魚日記へつづく

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