見出し画像

童話小説「ガルフの金魚日記19」

 夏さんは、青い顔をしてうずくまってしまいました。
どういって、なぐさめればいいのでしょうか。ぷくー。

「秋ちゃんは、ぷくのことでケンちゃんと、ケンカをしてしまったんです」
「ケンって、秋をすてた男か」
「すてたとか、そんなんじゃないと思います。男の子のお友だちです」

「それでその男とけんかをしたのか? そん原因が、ガルフなのか。どういうこと?」
 冬さんは顔をあげ、ぷくを見ました。

「たぶん、秋ちゃんは、ぷくがおしゃべりできることを、ケンちゃんにしゃべったみたいなんです」
「ガルフのこと、しゃべった! そうだったのか。それで、ケンとけんかになったのか…」
 いつのまにかに、男の子のこと、ケンになっています。ぷく。

「ぷく。秋ちゃんに、おはなししてっていわれたんだけど、だまってぷくぷくしてたんです」
「わかったよ。秋には、ガルフのこと、秘密だって、いっとくよ」
「ありがとうございます。秋ちゃんに、うまくいってください」

「春のはなしだと、夏のやつ、そうとう悪ガキ、やってるみたいだなあ。ガルフは、いたずらをされなかったか」
「それは、口にできないほどたくさん、やられましたけど…」
 それでこれまでのこと、ひとつふたつ、みっつよっつ、気がつけがすべてのことを、つらつらとはなしていました。

「そんなにか。悪かったな。ぼくはこどものころ、家でじっとしている方だったから、ガルを棒でつついたり、ひっかきまわすなんて考えもしなかった。ただ、夏が元気よく遊んでくれていたら、それでいいと思っていたんだ。どうやら、そういうわけにもいかないようだなぁ…」
 冬さんは、腕を組んで、考えこんでしまいました。

 ぷくは、夏くんが家の外で飛び回るようにしてあそんでいる姿をみると、うらやましく思うこともあります。
 ぷくは金魚鉢からひと泳ぎも、外へは出られませんから…。ぷく。

 眉間(みけん)にしわをよせて考えこんでいた冬さんでしたが、腕をほどくといいました。
「こんど、夏がいたずらしたら、納屋に閉じ込めることにする」
 冬さんは、うん、とうなずくと、それがいい、といいました。
 
「どうして納屋なんですか」
 ぷくは思わず、きいてしまいました。
 冬さんは、遠い目をするとにがい顔をしました。

「熱帯魚を買うのにこづかいがいるだろ、それで学校の教材を買うのにお金がいるって、ウソをついたんだ。それがバレて、こっぴどくしかられて、そのあと納屋にほうり込まれた」
 ははぁー、それで納屋ですか、プクプク。

「それからぼくは、ウソをつきそうになると、そのときの記憶がよみがえり、鼻がピクピクするようになった」
「鼻が、ぴくぴく。どうしてですか」
 冬さんはゲラゲラ笑いだしました。
 なんなんでしょう。ぷく。

「四季ばあさんが、小屋でぬか漬けを作っていて、その臭いで。鼻をつまむと息ができないだろ。だから空気をいっぱい吸って、鼻をつまんで息を止めていたら、目の前がクラクラしてきて、倒れそうになったとき、扉がガタガタ開いて、四季ばあが助けてくれた」
 それいらい、鼻がピクピクさぁ、と冬さんはいいました。
 ブブブブ、ブクブク。ブブブブ…。
ぷくは、大笑いしました。

「そんなに笑うことないだろう」
 冬さんは、海にいるという、フグのように頬をふくらませています。
でも、冬さんにそんなことがあっただなんて、長いつきあいなのに、ぜんぜん知りませんでした。ぷく。

     明日の金魚日記へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?