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賃貸マンションの素人経営やってます ~古アパート編②~

父の跡をついで、賃貸マンション、アパートの経営もしています。
これは、その #実録

◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇

築50年になる古アパートの住人のおはなし。
今回は、1階77号室。

77号室の住人

77号室は、75歳-80歳ぐらいのおっちゃんの一人暮らし。

おばちゃんに続いて「おっちゃん」というのも、
なんだか、芸がなく、というか、
ボキャブラリー不足の感じがして、
あれこれ考えたのだけど、
やっぱり、「おっちゃん」がしっくりくる。
ご容赦ください。

生活保護受給者

おっちゃんは、生活保護受給者だ。
入居当時は、仕事をしていたんだけど、
いつの間にか、生活保護を受けるようになり、
最近は、フラフラ出かけてる。

おっちゃんの趣味

おっちゃんは、会うとなにか、文句をいう。

ゴキブリが出て困るから、駆除せよ。
排水管が詰まった。
玄関ドアが閉まらなくなった。
天井から水漏れしてきた。
玄関に水漏れがする。
給湯器の点火がおかしい。
浴室ドアの塗装が剝がれてきた
風通しが悪いので、玄関ドアがもっと開くように
ドアチェーンを長くせよ。

なにそれ?

なんだか、だんだん要求がエスカレートしてゆく。
しまいに、管理会社の担当も
「勝手にやってください、って言っておきました~」

ちょっと、すきっ歯を見せながら、
次に何を言おうか、ニヤニヤしてる。

なんで、そんなにおっちゃんの部屋ばっかり
具合が出るのかわからん。 
使い方が荒っぽいのと違うん?
大家を困らせるのが趣味なのかしらん?

ありそうな話だ。

日常生活

おっちゃんは、仕事でもないのに、
朝早めに出かける。

「おっちゃん、おはよう。」

「おお、ええところにおった。 
あのな、玄関のな・・・」

「はい、はい。 自分でやっといて。 
それよか、朝早くから、どこいくん?。」

「朝一番に、医者に行って、薬もろうてくんねん。
でな、そのあと、銭湯に行くねんわ。 
毎日、朝の一番風呂やー。」

へええ~、それはまた、いい御身分で。

ここらあたりは、結構いい銭湯が2軒ほどある。

昼前になると、さっぱり、すっきりした顔で
帰ってくる。

異変発生

そんなおっちゃんから、しばらく苦情が来ない。

「どうも、あまり体調がよくないようですよ。」
と管理会社から聞いた。

それで、この間会ったときも、
文句も言わずに、通り過ぎたのか・・・

そのうち、入院した、という知らせが届いた。

どうやら、おっちゃんには、兄弟がいるらしい。
その兄弟は、ごくたま~に、年に1-2回、
トラックに乗ってやってきて、
食事をしたりして帰るらしい。
その兄弟が入院の手配をしたようだ。

復活?

しばらくして、おっちゃんは、
一日だけ帰ってきたらしい。

だんだん具合はよくなってきている。
もう少し入院は必要だけど、
家賃の支払いや着替えもあるから
帰宅させてもらったらしい。 
それで、家賃を払ってくれたようだ。

意外と、律儀やん。 

「帰るところがなくなっとったら、困るからな。」と
ちょっと、はすっぱな歯で言っていた、と
管理会社から聞いた。
「今月末には、戻ってこられるそうですよ。」

おっちゃん、大丈夫かなぁ、と思っていた矢先、
「亡くなられました」と連絡が。

ええ?? 退院する予定だったんじゃないの?

本人も戻ってくるつもりだったらしいが、
容態が急変したようだ。
果たして、大家ってだけで、赤の他人だから、
詳しくは教えてもらえない。

大家の負担

おっちゃんの場合は、
兄弟が、葬儀や墓の手配をしてくれたようだ。

だけど、生活保護者なんで、
部屋には、大家より管理会社より、
真っ先に役所が入り、
金目のものは全部持っていく。

持っていくなら、金目といわず、
ごっそりと全部持っていってほしいんだけど、
金目のもの、つまり現金やら預金通帳やらは、
においが嗅ぎ分けられる特殊な役人鼻でもあるのか、
ごっそり持って行って、
あとは、良しなに・・・ってなわけ。
といっても、さして金目のものがあったとは
思えないけどね。
 
おっちゃんの兄弟にも、
部屋の片づけまでは放棄された。

おっちゃんの部屋

京橋パンション77号室(1)

古い入居者は、
敷金をある程度いただいているので、
そのお金で、足は出るけど、
おっちゃんの部屋の整理をすることにした。 

部屋に入って驚いた。 
ものすごく、きちんと整理されている。 

若者仕様の、いかつい財布群が
びしっと並んでいる。もちろん中身はないが。 

壁には、帽子掛けがあり、
おしゃれな帽子がいくつか、きちん置かれている。 

趣味らしき歌謡曲のカセットテープも、
きっちりと整理されている。

狭い部屋なので、
モノはキチキチに大量に置かれているが、
急に具合が悪くなって入院した人とは
思えないキッチンと冷蔵庫の中。 

へ~、そうだったのかぁ、と感心。

秘められた性格

そういえば、
「上階から水漏れがする。
押し入れの中が濡れてしまっている」と
連絡があったとき。 

部屋に入らせてもらったけど、
きちんと片付いていたな。 

業者を含め、何度見に行っても、
気前よく入れてくれた。 

押し入れが使えない状態だったのに、
衣類や布団も、被害はないので、
水漏れを止めて、
押し入れを使えるようにしてくれればいい、という。 

いつもはあれこれ細かくうるさいのに、
えらく寛大な対応で、ちょっと驚いた。 

扱いが乱暴だからではなくて、
きちんとしているから、
ガタが来ているところが目立ってしまって、
修理してくれ、と言っていたのかも。

本当の気持ち

思うに、おっちゃんは、
生活保護を受けていることを、
悔しく思っていた風があった。

昼間からいいだろう、と見せつけながら、
笑い飛ばしながら、どこか寂しそうだった。

昔の契約だから、
エアコン、照明器具なども賃借人もち。
まだ使えそうなものもあったけど、
片付けの業者は、すべて持ち去った。
当たり前か・・・

何一つなくなった部屋は、
主を失って、寒々しい。 

もう一回ぐらい、
おっちゃんのすきっ歯から
憎まれ口を聞きたかった気もするな。


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