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〔介護を学ぶ37〕「自宅」か「施設」か? 自宅のメリットは「秘密」

介護は「自宅」か「施設」か。
一般に、介護を受ける人(要介護者)は自宅を望みます

その理由の一つは、自宅は自由がきくからです。
もう一つの理由は、人間の「私秘性」にあります。

私秘性しひせいとは

私秘性とは、英語のプライバシー(privacy)と同義と言われています。
「知られたくない」「秘密にしておきたい」という性質のことです。
「自由」と「私秘性」は、人間を人間たらしめる重要な要素です。

自分のことを自分でできるうちは、秘密を保つことができます。
しかし、体が思うように動かなくなると、
身の回りのことを他人に依頼しなければならなくなり、
秘密がおびやかされます。

◆施設はガラス張り

施設では、多くのことがガラス張りであり、
趣味や嗜好が、職員や他の利用者に知られてしまいます。

韓国ドラマを見るのが楽しみという女性も、
「年甲斐もない」と思われるのはイヤでしょう。

読んでいる本によって、その人の悩みが分かります。
遺産相続の本を読んでいると、「ずいぶん持っているのか」と思われそうで、人前では読みたくないでしょう。

自分の趣味や悩みは、知られたくないことが多々あるのではないでしょうか。

親が年ごろの娘の日記やスマホの記録、部屋の引き出しや押し入れをすべて調べたら、どうなるでしょうか。
娘は激怒して、しばらく口をきかなくなるでしょう。

人はたわいのないことでも、「知られたくない」「秘密にしておきたい」ものです。

◆素顔

通常、朝、顔を洗って、男性ならヒゲをそって、
女性なら化粧をして、人に会います。
寝起きの顔は、家族にしか見せたことがないでしょう。
施設では、素顔が知られてしまいます。

特に、「入れ歯を外した顔」は見られたくないそうです。
女優の樹木希林さんは、
「入れ歯を外した顔を見せることは、ヌードを見せるより恥ずかしい」
と述べていました。

◆入浴

施設では、自分で入浴できない人はもちろんですが、
体力のある人も、安全とスピードを理由に介助が付きます。

裸を見られること自体が恥ずかしいことですが、
自分の体にコンプレックスを持っている人が少なくありません。
太った体型、曲がった腰、手術のあと、人工肛門など、知られたくない姿を見られることは、耐えがたいことでしょう。

◆トイレの失敗

くしゃみをしたら、尿が漏れてしまった。
トイレにたどり着く前に、小便や大便が出てしまった。
高齢になると、このようなことが増えてきます。
自宅だと自分で洗濯できますが、施設だとそうはいきません。

施設で、利用者さんの部屋の押し入れを掃除していたら、
粗相した下着が出てきたという話があります。

◆おむつ交換

トイレの失敗が続くと、おむつを履くようになります。
自分でおむつの着脱ができなくなると、
他人の手を借りなければなりません。

おむつ交換は、乳幼児のとき、母親にしてもらって以来のことです。
その相手が配偶者ならいいのですが、赤の他人となるとどうでしょう。

施設では介護士がおむつ交換をします。
見せたくないものが、白日のもとにさらされるのです。
「老醜はさらしたくない」と命を絶ったお年寄りがありますが、
本人にとっては屈辱的な出来事でしょう。

◆知られたくない心を理解する

動けなくなっても「施設に入りたくない」と固執する人の心には、
「醜い姿を知られたくない」という思いがあるに違いありません。


人間が人間たるには、「自由」と「私秘性」が必要ということでしょう。
要介護者の「知られたくない心」を理解することが、
良い介護への一歩ではないでしょうか。

参考文献
1)村田久行,長久栄子:『せん妄』,日本ン評論社,2014

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