菊枕と秋の色|花の歳時記
10月は秋も少しずつ深まり野の草花の雰囲気も変化しています。
同じ花材を選んだとしても、取り合わせでいろいろな表情を引き出すことができます。
日本の秋の花といえば、菊。
先月とは趣きの異なる菊のいけばなをいけてみました。
今の季節だけの美しさを。
家の近くの、手入れも何もされていない景色。
まだ緑の枝、入り混じるススキに夏と秋、入り混じる季節を感じます。
虫や蛇が出てこないことを祈りながら、このススキを何本か頂いてきました。
この時期にはまだ立ち枯れているものは選びません。冬に近づいたら、もしくは年明けくらいにはそんなススキもいいかもしれませんね。
ススキは秋の七草の一つ。
別名、尾花と呼ばれています。動物の尾っぽに似ているからこの名前がついたのだそう。
花の取り合わせはオレンジ味を帯びた菊(ディズバットオレンジ)、そして木苺の葉を合わせました。花瓶に刺すだけでも絵になりますが、今回も菊を主役に、剣山を使って盛花をいけました。
菊にまつわる昔の風習はたくさんあってどれも面白いです。
前回のコラムでご紹介した「重陽の節句」で摘んだ菊。
それを乾かして詰め物にして菊枕を作るという風習もあったそうです。
枕にするくらいの菊の花びら、すごい量だったはずですよね。それに、花をいける方ならご存知の通り、菊の花はしっとり水分を含んでいます。乾燥させるのにも、それなりの時間がかかったはず。そんなことを考えながらいけるのも楽しい時間です。
ススキは穂先が多少開いているものをいけた方が秋の風情が出ると思います。
1日経てば穂先がふわふわとして姿がだいぶ変わってきますが、近所に出ればまた新しいススキがたくさんあるのだと思うと毎日生け替えてもいいかもしれません。
葉の虫食いや傷みも、自然のものならではの表情です。
青々とした緑とススキの穂、花びらの美しい菊の花。
この瞬間だけの美しさです。
色で表現する秋のいけばな
もう一つの生け花は、色で表現する秋。
色のニュアンスで季節を感じることもできます。
秋から冬になるにつれ、深くてドラマティックな色合いが好きになります。
皆さんはどうでしょうか?
今回はポンポン咲のダリア(ラッテ)をメインにアイビーオータムブラウンを合わせます。こちらにも深いブラウンの小菊を登場させてオレンジ〜ブラウンのグラデーションを。
器は田中太郎さんの片口。
ざらざらした土器の質感は温かみがあって素朴な佇まいです。
秋の深まりを感じる暖かな色合いの花にぴったり。
アイビーの蔓で窓辺の光に向かうように動きを出して、それに呼応するようにもう1本のアイビーを。夕焼けのような色合わせになりました。
今年もあと2ヶ月と少し。
そんな深まる秋の雰囲気をまとった花になりましたでしょうか。
creator
新井 麻友 @mayuarai_flower
いけばな作家
パリスタイルの生花店にて青山、六本木等のウェディング会場装飾、ディレクションを担当。
フリーランスとしてウェディングロケーションフォトのフラワー装飾に携わる。
その後いけばな小原流入門。
現在は静岡のアトリエを拠点に教室開催、単発ワークショップ、出張レッスンも随時開催している。