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菊の節句とお月見に寄せて|花の歳時記

先月からはじまった、季節の花をいけばなの視点を通じて、みなさまにご紹介する企画「花の歳時記」。いけばな作家の 新井 麻友さんが秋の花の空気をお届けします。

虫の声が心地よく、月が明るく感じる秋の到来です。
今年は秋の訪れが早かったですね。
今回は、秋の花「菊」そして、お月見のススキをイメージして「パンパスグラス」を取り上げます。

秋の花「菊」のいけばな

9月といえば9月9日の 重陽の節句、別名「菊の節句」です。
もう当日は過ぎてしまいましたが、この節句にまつわる「被せ綿」の風習が好きで毎年この季節になると思い出すのです。

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菊には魔除や長寿の力があると信じられていたため、菊に真綿を被せ、夜露を移してその綿で体を拭う、と言うもの。
菊の香りも移って清らかな気持ちにもなりそうです。
旧暦の9月に重陽の節句ということで、まだまだ菊の季節は続きます。

そこで今回は秋を代表する花「菊」をいけてみました。
取り合わせはスモークグラスと紅葉した雪柳。

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スモークグラスやススキのような穂先が広がった花材をいける時には、それぞれの広がり方をしっかりみていけます。花をいけると、とにかくその姿をまず捉えることが大切だと気付かされます。

まだ十分に広がっていない箒のようなものや、線香花火の姿に似て綺麗に開いているもの、それぞれの咲き具合を観察して開いているものを高く、フワッとモヤがかかっているようにいけます。
写真のスモークグラスは綺麗に開いていますね。

例えばこのような感じに…

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赤く色づいた雪柳が一気に秋の到来を感じさせてくれます。
菊は蕾ですが…時間をかけてゆっくりと咲く姿を楽しむのも生花の良いところ。

9月の花屋の店先はまだ初秋の花々、夏の名残があります。
でも紅葉の葉を合わせれば、一気に秋めいて実りの季節が目前まで来ていることがわかります。

パンパスグラスで秋のリースを

そして、今回はお月見に向けて「パンパスグラスのお月見リース」も作ってみました。

もともと「お月見」といえば、お団子と一緒に「尾花(ススキ)」をいけて、お酒を飲みながら月を愛でるといったイメージがあります。雪月花、花鳥風月、日本人は昔から月が好きなのですよね。その心は現代も変わっていないはず。
そんなお月見を楽しむべく、秋のリースをご提案します。

ススキは秋の七草の一つ。秋ならではの枯れゆくものさびた情感が魅力の花です。ススキとパンパスグラスは全くの別種ですが、柔らかな線が似ているので今回のリースにはパンパスグラスをたっぷり使って迫力のある雰囲気にしました。

「秋の収穫祭」といった見立てで、熟した赤い色をあしらいます。

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ススキの寂しさとは対照的な、刈り取り時期を迎える豊かさのイメージを持つ稲穗も取り合わせてみました。

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パンパスグラスはそのまま器にいけ込んでも穂先がキラキラとなびいて、様になります。

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リース状に仕上げていきます。

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パンパスグラスのお月見リース、いかがでしょう?
秋の夜長、月を見ようと窓を開ければ風になびくパンパスグラス。きっと美しいと思います。

「お月見」は古来から他の五節句(七草の節句、桃の節句、端午の節句、七夕の節句、重陽の節句)のように、毎年みんなが心待ちにする風習だったはず。でも最近はあまり注目されていないような気が・・・。
私が子供の頃にはもう、「お月見だから○○しましょう」のような事はなかったと思います。それが「お月見だから、リース飾りましょう♪」となったら楽しいな、と妄想が膨らみます。

お正月の松飾りや七夕の笹のように、お月見にはススキやパンパスグラスをいけるといった花と結びついた習慣がふたたび定着すれば、季節を感じて自然を大切に思うきっかけになります。
みなさんも、お月見に秋の七草をいけたり、リース作りを楽しんでみてはいかがでしょうか?

creator
新井 麻友 @mayuarai_flower
いけばな作家

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パリスタイルの生花店にて青山、六本木等のウェディング会場装飾、ディレクションを担当。
フリーランスとしてウェディングロケーションフォトのフラワー装飾に携わる。
その後いけばな小原流入門。
​現在は静岡のアトリエを拠点に教室開催、単発ワークショップ、出張レッスンも随時開催している。

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