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シングルマザーのお泊まり会

毎年夏休みに一回だけ会う仲間がいる。

シングルマザーとその子供たちだ。

宿泊施設に夕方ごろからゆるやかに集まり、レストランで食事をして、共同浴場に入り、男子部屋、女子部屋、母部屋と別れて泊まるだけ。年齢も職業もバラバラ。子ども達が寝た後、母達はビールを飲みながら誰にも言えない悩みを語りだす。

子どものこと、ママ友のこと、元夫のこと、障がいのこと、イジメのこと、不登校のこと、お金のこと…。

眠くなった人から離脱していき、夜明けまで話し続ける人もいる。

子ども達は普段と違う環境に置かれて、年上の子は年下の子の面倒をみることを覚え「全員お父さんがいない」ことに安堵し、すぐに仲良くなる。

当初この会は大きな団体の一イベントだった。しかし、幹事の負担が多い割にお金にならないため、団体からは廃止するよう求められた。その代わり他団体と協賛してバーベキューや川遊びを日帰りでするようにと強く言われた。助成金の分け合いとかあるのかな?私達には1円も援助はなかったけど。

シングルマザーは日々仕事や子育てを一人で担い、疲れ果てている。子どもを喜ばせようと日帰りイベントに行きたいのは山々だが、遊び疲れて眠ってしまった子どもと大荷物を抱え、電車やバスに乗って帰って来て、夕食や風呂の世話に追われるのは想像を絶するほど大変だ。

シングルマザーが一番欲しいものは、ひと時の休息であり、同じ立場で頑張っている仲間との語らいだ。それは日帰りでは叶わない。ほぼ毎年集まるメンバー達に意見を聞くと、「自分達も出来る限り手伝うから、どうにかして存続して欲しい」と言われた。私もこの場所だけは守りたいと思った。

団体からは「名前も住所も使うな。今後会報で募集もさせない。」と伝えられたが、私は「全部一人でボランティアでやります」と言い切り、幹事を請け負うことにした。その後、子ども達の成長とともに自然消滅していくと思ったが、もう10年近くもひっそり続いている。赤ちゃんだった子どもも中学生、高校生になり、年に一度しか会わなくてもその成長ぶりが愛しい。あかの他人だった母達も、相変わらず仲が良い。やはり母にとっては貴重な拠り所だったのだ。

一人で予約から書類作りまで担うのは大変だったが、続けてきて良かった。他では得られない、かけがえのない仲間ができた。

子ども達が巣立ったら、老後の生活を相談しあって生きていこうと思う。







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