見出し画像

『河童が覗いたインド』妹尾河童 インド旅行に持っていきたい本

本の概要

『河童が覗いたインド(かっぱがのぞいたインド)』
・1985年初版、新潮社、「河童が覗いたシリーズ」の一冊
・1978年と5年後の1983年、それぞれ1か月半の単身インド旅行記
・著者:妹尾河童せのおかっぱ(1930~)舞台芸術家、エッセイスト
・妹尾氏は『少年H』などで小説家としても著名。”知の巨人”立花隆(1940-2021)の事務所、通称「猫ビル」の猫の絵をデザインした。

スケッチブックと巻き尺を持って


凝り性で知りたがり、抑えられない好奇心、そして高いところに登りたがるという河童さんの習性が、いかんなく発揮された本です。
本書は、そこまで書くかと思うほど緻密なイラストと、手書き風のフォント?と思うほど整った手書きの文章で構成されています。

河童さんがインドで行った場所ごとに、10~15頁くらいのレポートになっているので、どこからでも読めます。

インドに行ったことがない人でもインド読本として、イラストを見るだけでも楽しいと思います。私のようにインドを旅したことがある人なら思い出を共有し、また河童さんの観察眼を通して、そうだったんだと改めて知ることも多いでしょう。
40年近く経っても色褪せない独特の面白さがあります。

中国を超える人口と英語が公用語であることなどで、今世界で注目されているインド。2026年には新幹線が開通する見通しだそうです。

変わりゆくインド、しかし、きっとこれからも変わらない素顔のインドの一面を感じられる本です。

河童さんが訪れた場所


コルカタ(カルカッタ)・ガンガ(ガンジス川、バラナシ)・カジュラホ・アグラ・デリー・ムンバイ(ボンベイ)・ハイダラーバード・チェンナイ(マドラス)・カーンチープラム・マドゥライ・コーチ・マイソール・バンガロール・アジャンタ・エローラ・ウダイプール・ジャイプール・スリナガル、インド最南端のカニャクマリほか

▼旅行当時の河童さんの年齢は50歳前後で、2回の旅行、約3か月でのべ20か所ほど回っているのは驚異的。インドは広いので移動時間を考えると、一か所に滞在できるのは正味2~3日だったのではないでしょうか。
その短い間に、巻き尺であちこちサイズを測り、これだけのスケッチとレポート(下書きと思うが)を書き続ける体力、気力、行動力がすごい。
「のんびりすることに慣れていない(86頁)」ため寸暇を惜しんでスケッチしたそうです。

新潮文庫

2000年ころに買った新潮社のこの文庫本を今でも持っています。表紙がぼろぼろになり、透明テープで張って、それも黄ばんでますが、中は紙の質が良いせいか、黄ばんでいません。

私がはじめてインド旅行したのは1990年ごろです。しかし1985年に出たこの本のことは知りませんでした。当時はインターネットが一般に普及する前で情報が少なく、バックパッカーのアジア長期旅行だったために、河童さんのように旅を楽しむ余裕がありませんでした。町から町へ国から国へ、お金をかけずにかつ騙されず(騙されそうになったこと多数)に、どうやって移動するか、四苦八苦したことを思い出します。
その後輸入関係の会社に就職し、インドに年に2~3回出張するようになり、よくこの本を持っていきました。

タージ・マハール(Taj Mahal、1653年完成、ムガル帝国皇帝シャー・ジャハーンの妃ムムターズ・マハルの墓 世界文化遺産)

驚くほど緻密なスケッチ


本書は、建造物やホテルの室内が詳細にスケッチされています。何か、写真で見るより臨場感があります。
アグラタージ・マハールを上から見た図が本の表紙になっていますが、直接見たわけではなく、見える部分からの予想で描いたということです。
本文中にタージ・マハールの、コーランが図案化されたアラビア文字が大理石に彫られた部分のイラスト(51頁)があります。絵の上手さはもちろんですが、その緻密さに驚嘆します。いったいどれだけ時間がかかったのでしょうか。

私は絵に詳しくないのですが、ホテルの室内は上から見た図、俯瞰で立体的に描かれています。調べたら、こういう図をパースというんですね。
⇒英語 perspective を略して日本語化
家具だけでなく、カーテンやベッドカバーの色、デザイン、ついでに室内温度まで詳細に描かれています。

「下痢もインド体験の一つ」


河童さんの好奇心は、インドのカースト制度、宗教をはじめとする文化・歴史・建造物・料理・町ゆく人々・動物・乗り物などから弁当箱に至るまで、とどまるところを知りません。
あちこち巻き尺で採寸しまくり「君はスパイだろう」とインド人にからかわれたり、サリーの着方を教わって自分で着てみたり。
驚くことに、家族から「ガンジス河へ入らぬこと」と禁止されていたのに、なんでも現地人の真似をするのが信条の河童さん、せっかく来たんだからとバラナシで早朝の沐浴に挑戦。
さすがに口をすすぐことはしなかったが、「インチキ教徒であったことがシヴァ神の怒りにふれたのか(28頁)」その後3日間激しい下痢になったそうです。ところが「下痢もインド体験の一つ」とどこまでも前向き。

私もバラナシに行ったことがありますが、「聖なる河ガンガ」はあらゆる排水や水葬などで水質汚染が深刻。清潔な環境に慣れている日本人は絶対入ってはだめです。

ガンガ(ガンジス)バラナシのガート

なんでも「No problem」


インドは個人旅行の場合、空港に到着した瞬間から戦いが始まります。
目的地までの交通手段で悩み、物乞いや強引な客引きをやり過ごし、タクシーやリキシャに乗る前に値段交渉で揉め、着いても金額が違うとまた揉めることも。外国人価格はある程度仕方がないですが、とんでもない金額をふっかけられることもあります。どこへいってもお金をめぐって交渉しなければならず、良くも悪くも日本では経験することがない緊張感があります。もちろんいい人も多いですが。

本書にもありますが、インド人がよく言う「No problem」をいいように信じてはいけません。また日本での常識を言っても通じません。舐められてもだめですが、正義を振りかざして結果的に犯罪被害者になってしまうこともあります。

さまざまな民族、宗教、言語が同居する国


インドの人口は14億人を超えたそうです。
公用語は、ヒンディーと英語。ほかに公認言語が21もあるため、田舎に行くとインド人同士で話が通じないことがあり、英語の方が便利なようです。
宗教はヒンズー教・イスラム教・キリスト教・シーク教・仏教・ジャイナ教と多様です。(参考:外務省、インドの基礎データ)

ありとあらゆるものを包摂するインドには、一方輪廻転生思想に基づくカーストが根強く残っています。
本書には、市井のインド人たちとの興味深いやり取りが、会話内容を入れて細かく書かれ、カーストという微妙な問題に触れたところもあり興味深い。

ほかにも「暑い、アツイ」と言ってたら「インドの本格的暑さはこんなもんじゃない」とドライバーに言われ、以後「暑い」の代わりに「寒い」と言うことにしたという話(180頁)や、何にでも「ございます」をつける日本語ガイドの「ございます氏」の話(228頁)とか、面白すぎる小話がたくさんあって読んでいて飽きません。

ガイドブックにはない河童さんが覗いた素のインド読本、おすすめです。

注)本文中にある両替レートやホテル料金など、現在では大きく変わっている情報があります。

***END***
読んでくれてありがとう。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?