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シンカンセンスゴクカタイアイス

 この夏、娘とふたりで新幹線に乗った。
 コロナ禍に入る前に行く予定であった旅行に、やっと出かけることができたのだ。

 行きの新幹線はこだま号。
 乗車率は6~7割と言ったところで、並ばずにお手洗いも使えて、荷物棚に旅行鞄を気がねなく置けて、なかなか快適であった。

 10時過ぎに東京駅を出発し、目的地には13時半頃到着予定だったので、お昼は車内で食べようと乗車前にお弁当を買うつもりだった。
 しかし、久々の旅行に私も浮かれていたらしく、東京駅の人混みの中で、お土産や持ってこなかった旅行グッズなどに手をのばして時間をとられてしまった。

 私以上に出発時間を気にする娘に、「もしお弁当を買えなかったら、新幹線の中で買おう」と言うと、車内販売の存在を知らなかったようで、驚きつつ嬉しそうにしていた。
 結局はホームの売店にお目当ての天むす弁当があったので、それを買って乗り込んだ。

 ところが、乗車して新幹線が動き出すと、「当新幹線では車内販売はありません」とのアナウンス。
「お弁当買えてよかったねー」と娘と言い合いながら天むすをいただいた。

 そんなことがあっての帰りの新幹線はひかり号。
 満席に近い状況で停車の度に乗客の乗り降りも多く、お土産で膨らんだ荷物は棚に全部は置けなかった。
 ちょっと密だなあ、などと思っているとアイスの車内販売員が歩いてくる。ワゴンではなく、クーラーボックスを抱えた女性が近くの席で呼び止められていた。

 子どもの頃、めったに買ってもらえなかったあの固いアイス。久しぶりの新幹線で食べられたら、さぞかし喜ぶだろうと「アイス食べる?」と娘に声をかけた。
 販売員の女性に声をかけ、娘が希望したバニラアイスをお願いすると、売り切れ。
「少々お待ちくださいませ」と女性は、座席番号をメモする。

 そうそう、こうやって持ってきてくれるんだよね。となぜかそれも嬉しくなったり、後からやってきたワゴンの女性が「お弁当にアイスクリーム~」と言うのを聞いて娘と笑いあったり。

 届いたアイスに「固いね~」とスプーンを刺す娘は嬉しそうで、家に帰るまでが旅行! を満喫できた。

 家に帰って数日後、JR東海で車内販売の終了のニュースを聞く。
 あら、あれが最後の機会だったのなら、私の分も買って食べればよかったなと少し後悔した。

 今後も自動販売機で買えるらしいけれど、ホームで買って座席に落ち着く頃には食べ頃になっていそうだな。
 出張に行った夫が行き先以外の銘菓をお土産に買ってきてくれることもなくなるな。
 車内販売の女性の独特のしゃべり方、好きだったな。

 いろいろな思いが出てきてちょっぴりしんみりするけれど。

 いつか娘が、「昔は車内販売でかったいアイス買えたよね」とか言ってくれたら、今回の旅は大成功だったということにしていいと思った。

これまでに、頭の中に浮かんでいたさまざまなテーマを文字に起こしていきます。お心にとまることがあれば幸いです。