便が漏れちゃう
「全く気づかないうちに、ころっとした便が出ていることがよくある。」
そんなことを主訴に高齢の女性が受診されました。診察をした上で補中益気湯(ホチュウウエッキトウ)を処方しました。便失禁に関してはそれほど期待していなかったのですが、まずは体全体の元気をつけてあげようと言う思いで処方したのです。
補中益気湯は、お疲れさんの人に元気を出させてあげる処方です。虚弱体質傾向の人で消化機能が衰え倦怠感などがある人に使いますが、普段元気な方でも疲れがたまっているときに使えます。ところでこの処方の保険適応の中には、実は脱肛があるのです。脱肛はいぼ痔の影響などで、痔核や周囲の肛門皮膚が、肛門の外に飛び出てしまうものです。補中益気湯には昇堤作用といって、体のゆるみを引き上げる作用があると言われています。このちからで脱肛をよくしようといことです。補中益気湯で脱肛が良くなった経験はこれまでありませんでしたが、ひょっとしたらしまりが良くなるかもしれないという思いはありました。
2週間後にこの方が診察室に入ってくるなり、「先生、あれ良いです。」とおっしゃる。飲み始めて3、 4日経った頃から全く失禁がなくなり快調だと言う。どうやら予想通り、肛門の閉まりが悪くなった人の締まりをちょっと良くしてあげる力はあるみたいだ。
内臓から体を元気にしてあげる力と、力なく垂れ下かがったものをちょっと引き上げてあげる力とで、どうやらうまくいきました。その2週間で、この漢方薬を服用すること以外、なにもそれまでとは変わっていないのですから、この方の場合補中益気湯で便失禁が治ったといってよいと思います。処方しておきながら、私も不思議です。漢方が効く様子を見ていると、いつも不思議な感じがします。効く理由の解析は、今後の科学の進歩を待つしかないでしょうね。
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