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附子について トリカブト殺人事件

 昔、トリカブトを用いた保険金殺人事件が世間をにぎわせたことがあります。私が大学を卒業して数年したころのことで、まだ漢方に興味を持っていなかったのでトリカブトなどといわれてもピンと来なかったし、大学の授業で習ったこともありませんでした。しかし、そこらへんに自生している植物に、それほどの毒があることに驚いた記憶がある。しかもフグどくのテトロドトキシンを一緒に使うことにより、トリカブトの毒の効果発現時間を遅らせることでアリバイ工作をするという巧妙さにも驚かされた。

 また韓流ドラマのチャングムでは、附子湯(ぶしとう)というのが毒薬として登場した。昔の韓国では毒殺というのが多いのでしょうか。女官などが無理矢理附子湯を飲まされたりするシーンもありましたが、それって史実にもあるのでしょうかね。

 トリカブトを摂取すると、口やのどの灼熱感、手足のしびれ、めまい、酔ったような感じ、汗が出る、顔が赤くなる、動悸がするなどの症状がまず出ます。進むと心悸亢進、よだれを流し、吐き、下痢を起こし、ものが飲み込めなくなり、体の力が入らず立ち上がれなくなり、呂律が回らなくなるなどの症状となります。いよいよ悪くなると、血圧が下がり、低体温傾向となり、痙攣を起こし、呼吸ができなくなり、不整脈を起こし、死にいたるというなんとも激しい変化。死にいたる場合は、摂取から1〜6時間でこれらの変化が起こっていくわけです。

 トリカブトはキンポウゲ科の植物で、毒性の強いアコニチン系アルカロイドを含んでいるようです。しかも、全草が有毒ということで、全身に毒を纏っているわけですね。こんな植物を薬草として利用してしまうところが漢方の凄さですね。さらに最も毒性が強いとされる根の部分を使うという念の入れようです。根を乾燥させたものを附子と呼びます。

もちろん加工して弱毒化したものを使うわけですのでそこそこ安心です。そこそこというのは、やはり体質によれば副作用が出てくるからです。頻度は少ないのですが、心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等がお薬の添付文書に記載されています。ただし、これらの症状を認める頻度はかなり低いと思います。またこれらの症状が出た場合は、服用の中止のみで消失することがほとんどです。何か気になることがあればまず服用を中止する、というのは附子を含んだ処方に限らず、漢方薬を使うときには心がけたいことです。

生薬としての附子は、体を温めて痛みを除き、消化管と腎を暖めてくれます。ですから、悪寒、手足の冷え、冷えによる関節痛、水分代謝の不調などを改善することを目標に使われます。附子を含む処方とすれば、桂枝加朮附湯、牛車腎気丸、真武湯、麻黄附子細辛湯などが挙げられますが、附子による温めるという効果がその薬効に大切な影響を加えてくれています。また処方の効果を高めるために、附子末のみを加えて処方することもあります。

ところで、狂言に「附子」というのがあります。この場合は「ぶす」と読むそうですが、附子が猛毒であるということが題材となった一曲です。







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