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ころころした便に潤腸湯(じゅんちょうとう)

 小さなコロコロした便が出る、と訴えるかたが時々おられます。大腸内の乾燥傾向や、腸の緊張が強すぎることとかが原因と言われています。このような時によく使われるのは麻子仁丸ですが、これでは強すぎて、お腹が痛くなったり、下痢になってしまう事があります。そのような時には、潤腸湯を使います。潤腸湯は、含まれる大黄の量が、麻子仁丸の半分なので効果が穏やかになります。

 潤腸湯は、腸を潤してあげる煎じ薬という意味を表しています。腸の中で乾いて硬くなった便を潤してあげて、便を柔らかくし、排便を促すわけです。このような下剤を潤下剤と呼びます。

 保険適用病名は「便秘」です。しかし漢方薬ですから、単に便秘の薬としてだけ捉えるのは少しもったいないことになります。

 潤すのは腸の中だけではありません。体内の水分(津液:シンエキ)不足を補い潤す意味合いもあります。お肌がカサカサとなる傾向があり、口の中が渇き、便が硬くてコロコロっとしている傾向があるといった方の便秘に使うわけです。このような状態は比較的高齢な方に多いので、高齢者の便秘にはよく使われます。

 潤腸湯は、地黄(じおう)、当帰(とうき)、黄芩(おうごん)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)、大黄(だいおう)、桃仁(とうにん)、麻子仁(ましにん)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬から構成されています。杏仁、桃仁、麻子仁が便に潤いを与え、その脂肪成分が便の滑りを良くして排便しやすくすると言われています。当帰と地黄が血を補うとともに体を潤します。大黄が腸を刺激して排便を促します。厚朴と枳実は気の巡りを良くして、便秘に伴う腹部膨満感を軽減してくれます。黄芩は熱を冷まし、甘草は生薬全体の調和をはかるとされています。

 体が乾燥傾向になると、水による体温調整が効かずに手足が火照ったりすることがあります。潤腸湯はこのような症状にも効果を表してくれます。

 ところで、構成生薬の中の麻子仁の原料は大麻取締法の対象となる麻ですから、麻子仁は熱処理されて発芽できないようにしているそうです。

 潤腸湯で効果が不十分な場合は、最初に述べた麻子仁丸に変更すると良い場合があります。逆に潤腸湯が効き過ぎる場合には、桂枝加芍薬大黄湯に変方することもあります。これらはいずれも大黄が含まれていますから、まだ強すぎるようであれば大黄を含まない桂枝加芍薬湯などを利用することとなります。

 なお、通常便秘に使う漢方薬でなくても、その漢方薬を使うことによって体調が良くなると、便通が良くなったと言われるようなこともあります。結局は個々の症状と言うよりも体全体の調子を整えてあげることによって、漢方薬は様々な体の不調を整えていってくれるようです。

 便秘1つをとっても、様々な漢方処方が選択肢に挙がってきます。そして、体調に応じた処方を選択できる漢方薬を利用することによって、便秘以外の不調も改善してくれることが少なくありません。いろいろな場面でぜひ漢方薬を試してみてください。


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