胃の手術を受けた後の貧血

 長く胃がんの手術をやってきました。30年位前は胃がんの手術と言えば必ず輸血を準備して行っていました。しかし1990年代ごろからは準備をしなくなりました。というのも手術で出血する量というのがとても少なくなったからです。特に2000年代初め頃から腹腔鏡下手術を行うようになってからは、術中出血量がおちょこ一杯もない程度と言うのが普通となりました。ですから胃の手術を受けた後の貧血と言うのは多くの場合出血が原因ではありません。

 胃の切除範囲は、部分的に取るものから全摘までバラエティがありますが、切除することによってその働きは様々な程度で落ちてしまうことになります。といっても切除後の残胃や食道と腸をつなぐ方法の工夫によって、食事量が極端に減ると言う事はほとんどありませんでしたし、術前と同じように食べられる人も多かったと思います。それでも消化吸収能がどうしてもしてしまう場合があるわけです。赤血球を形作る上で重要な鉄とビタミンB12の吸収能力も落ちる場合があるのが貧血となる原因として大きいとされています。

貧血 

ところで、貧血と言うのは何でしょうか。少しフラフラして貧血だと言う人がいますが、これは多くの場合脳の血流の問題だったりしますので貧血と言うのとは違います。貧血と言うのは、1マイクロリットル中の赤血球の数が基準より減ったり、1デシリットル中のヘモグロビンのグラム数が減ったりした状態を指します。赤血球が減ると酸素の運搬脳も減り、めまいや立ちくらみ、などを起こすこともありますが最初に述べたクラッとくると言うとと貧血と言うのは分けて考えなければいけません。

貧血の原因

 貧血の原因とすれば出血、材料不足、骨髄の病気、赤血球を壊す機能更新などがあげられますが、胃切除後の貧血は多くの場合材料不足ということになります。時に癌が骨髄に転移して赤血球などを作れなくなるということもありますが、それほど頻度の高いものではありません。

鉄欠乏性貧血

 この貧血は書いてある通り鉄の欠乏によって貧血となったものです。胃を切除すると胃酸分泌が減ったり無くなったりします。すると鉄イオンの電荷の関係で鉄吸収が行われにくくなるのです。この貧血を起こした時には、吸収されやすい鉄剤を服用していただくことになります。

大球性貧血

 胃壁から内因子という物質が分泌されているのですが、これはビタミンB12の吸収に重要な働きをします。胃を全部取ってしまったときなどは、徐々に体内のビタミンB12備蓄が減っていき、重度の貧血を引き起こすことがあります。そんな時はこのビタミンを注射することによって速やかに貧血が改善します。この時赤血球の大きさが標準より大きくなる傾向があるため、大急性貧血などと呼ばれます。ただ、胃がんの術後経過として5年を過ぎるとがん再発の危険性が減るために、手術を受けた病院に通わなくなることがあります。そんな時このタイプの貧血の原因検索に時間がかかってしまうことがあったり、むやみに輸血をされたりなどと言うことが起きますので注意が必要です。

漢方という選択

 はっきりした原因がわからなくても、貧血傾向ということが術後に認めることがあります。そんな時には漢方薬を使ってみるのも一つの手です。有名なのは十全大補湯です。元気をつけるとともにジワリと貧血傾向が改善したりします。術後や大病の後の元気づけの処方です。その他、帰脾湯、加味帰脾湯、人参養栄湯などもよい選択肢です。これらの処方は、貧血を目標にというよりも、体全体の体調を整え、気持ちも元気にすることを目指しています。

 私は、胃の手術は受けていませんが、若いころから検診で貧血傾向を指摘されることがありました。しかし、漢方薬をちょくちょく利用するようになって以来、貧血を指摘されることはなくなりました。まあ、あくまで個人の感想ですが…。

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