小さくて濃密なコミュニケーション

頬をかすめた風に冷たさが乗り、思わず肩があがり身震いをする。温かいコーヒーでも飲んで暖を取ろうと、たまたま近くにあった全国チェーンのカフェに足を運んだ。どの店舗も同じ造りやシステムなので注文しやすく、コーヒーやカフェに詳しくないのでありがたい。

レジでは30代後半くらいの黒髪ショート、綺麗な顔立ちの店員さんが「いらっしゃいませ~」と明るい笑顔で出迎えてくれた。ホットコーヒーを手短に注文すると「かしこまりました~」とハキハキした声が返ってくる。その刹那。

あ!

と普段の接客では聞かないような一言が出た。私は財布からお金を出す手を止め、思わず店員さんを見た。しかし店員さんの「あ!」が何を示しているのか到底想像できなかった。顔にハテナが浮かんでいたのだろう。店員さんは明るい声で

「もしかして!親指の爪が一緒です!」と言って自分の親指を私に見せてくれた。その瞬間、私も思わず

あ!

とおどろいた。私の右手の親指は、所謂「短指症(まむし指)」といって指の第一関節が短く爪も横長になっている。親の遺伝で小さい頃からコンプレックスだった。整形するなら親指!と何度嘆いていたことか・・・。気づいたら私も店員さんを真似て親指を出し、お互いの親指を見せ合っていた。

店員さんは会計をしながら「同じ爪の人がいて嬉しい!この指、整形したいとか思いませんでした?」と笑う。私も自然と笑顔になり「全く同じこと考えたことあります」と短くも楽しい会話が続いた。「でもね、この指って器用な人が多いらしいの。それ聞いてから自信になって」とお釣りを渡しながら少し大人な口調になる。店員さんの素の部分がちらりと垣間見えた気がした。「仲間がいると勇気出ますよね」に、私も満面の笑みで頷き会計が終わった。

レジの最中だけの短い会話だった。だけれど気の知れた人と数時間も語り合った後のような幸福感と満足感に似た感情で心がいっぱいになった。人と人との暖かさに包まれ、ホットコーヒーを両手に持ち外の席に座る。先程は感じなかった冬のにおいを感じながら、暖かな温もりを確かに心に感じながらコーヒーをすすった。


#一駅ぶんのおどろき

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