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創作ショート#1

夢の幻

夢を、見ていた。彼女の夢を。
彼女は音楽が大好きだった。いや、愛していたと言っても過言ではない。
それと同時に彼女は音楽に愛されていた。私も彼女を愛していた。

私と彼女はよく街へ出かけた。そこには様々な音楽が溢れていた。クラッシック、ジャズ、ポップス、何処か遠い国の民謡、才能溢れる作曲家たちの名のない曲。どれもこれも素敵だった。

夢の中の彼女はいつもそこにいた。快晴の日は空を見上げながら音楽に合わせて鼻歌を歌っていた。大雨の日は雨に打たれながら踊っていた。雪の日は銅像のようにじっと佇んで音楽に耳を傾けていた。
いつも私は何も言わずに彼女の傍にいた。彼女も何も言わなかった。その時間が永遠に続くように感じて私は幸せだった。

けれど、その時間は永遠ではなかった。彼女はもう私の隣で空を見上げながら鼻歌を歌うことはないし、雨の日に踊ることも雪の中をじっと佇むこともない。わかっていた。

夢を見る度に思い出す。時間が経つとまた忘れてゆき、また夢を見る。いや、きっと忘れてはいないのだろう。覚えていると生きずらいのだ、この世は。こんなにも素敵な夢だというのに。夢が覚めた途端に悲しくなるのだ。たまらなくなる。もう夢を見たくなくなる。素敵だからこそ辛くなる。
もう見たくないと思うのに、


けれど、きっと私はまた、
彼女の夢を見る。

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