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蹴撃手マモル

 今年は例年に比べて忘年会・新年会の類いが少ない気がする。単に私が声をかけられていないだけなのかもしれないが。だとしたら、近年は出席率が低くなっていたから仕方のない話だ。

 いずれにせよ、こうした席にフリーランスの出版関係者が集まると必ず出るのが健康に関する話題。ダラダラ酒を飲みながら健康について心配しているのだから世話ないのだけど、人生も折り返し地点を過ぎると、みんな身体のことは切実なテーマになるのである。

 特に健康問題に敏感なのはデザイナー陣だろう。取材などで出歩く編集者やライターと違い、忙しいときは本当に家に引きこもりっぱなしになる職業だ。ちょっと気を抜くと速やかに運動不足に陥るため、意識してジムなどに通う人が多い。これは漫画家やミュージシャンにも同じことが言えるのではないか。

 フリーになったときに痛感したのは、通勤電車に乗らないことのデメリットである。毎日2回、下手したら1時間以上をかけて電車で会社に通う。実はあれって相当な運動量になっている。失って初めて知る恋人のありがたみ的な想いを、今の私は通勤電車に対して感じているのだ。あるいは『ドラえもん』6巻の最後的な感傷と言ってもいいかもしれない。

 現在、私は近所にあるムエタイのジムに通っている。行けるときは夕方から顔を出し、子供の保育園迎え時間まで1時間ちょっと汗を流す。ムエタイとかキックボクシングというと、とかくハードコアなイメージがつきまとうかもしれないが、自分が通っているのは子供や女子も大勢在籍する、わりとゆるめのところ。そこが自分に合っているのだと思う。

 ただ矛盾するようだけど、もっと本格的にやりたいという気持ちも同時にある。自分は初心者ということもあって、今はミット打ちやサンドバックがメニューの中心。というか、ほぼそれしかやっていない。本音を言うと、そろそろスパーリング……せめてマススパーくらいはやりたいという気持ちもある。非常に怖いですけどね。

 以前に寝技を習っていたときは、とにかくすぐスパーをさせる感じだった。グラップリング・柔術系はどこも似たようなものだと思う。寝技のほうが対人練習が多いので、それでやる気が出るという面は確実にあると思う。

 私が一般的なスポーツジムを毛嫌いしているのもまさにそこで、無機質な機械に命じられるままひたすら走らされたり、重いモノを上下させられるなんて虚しすぎる。チャップリン『モダンタイムス』みたいな気分で身体を鍛えるなんて、まっぴらごめんだ。

 少し前、木村拓哉が「ブラジリアン柔術を続けたい」と発言したことがジャニオタの間で話題になった。天下のキムタクと一緒にするのはおこがましすぎるが、私も気持ち的にはまったく同じだ。ムエタイを続けたい。

 もっと技を覚えたい。ワイクルー踊りたい。タイ語も覚えたい。健康になりたい。……嗚呼、強くなりたい。

(2020-01-10:初出)

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