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今日もまわり道をする私は幸せなのか

「こんにちは。お久しぶり! お元気でしたか?」

電話の向こうから、懐かしい声がした。
私が尊敬する中小企業診断士のT先生からの電話だった。
私はある経済団体で地域の小規模事業者の経営支援を行っているが、まだ駆け出しの頃、ご縁があり先生にご指導をいただくようになった。
先生にはいつも叱られていた気がする。大人になるにつれ、叱ってくれる人は減っていくものだけれど、先生には会う度に叱られていた。
私にも言い分があるから反論したが、聞いてもらえたためしがない。後から良く考えると、先生がおっしゃっていたことが私の奥の方にじわじわ効いてきたように思うし、併せて自分の考えをうまく説明できていないことにも気づかされた。
その先生からの電話なので、自然と背筋が伸びるというものだ。

「こんにちは。ご無沙汰をしております」
そう言いながら、この一瞬に「なに? なんの用事だろう? 私何かやらかしたか?」と考えていた。
叱られると思っていた私をよそに、先生は「早速ですが」と本題に入られ、私と同じような仕事をしている全国の方々との勉強会があって、先生は幹事をされているらしく、その勉強会に私をお誘いくださったのだ。

勉強会の名称は「まわり道(みち)研究会」
タイトルを見た時、その内容がどんなものなのか想像ができなかった。
けれども、仕事でもプライベートでも空回り気味の私にはピッタリなお題目だと思い、出席させてもらいたいと返事をした。

 研究会当日、会場に向かう新幹線の中で、研究会がどのような内容かよくわかっていない上に、この後私に起きる悲劇も知らない私は「学ぶ」ということがうれしくてワクワクしていた。
 私は会場の最寄り駅に勉強会開始の2時間近く前に到着した。早く到着するにはちゃんと理由があって、それは私の方向音痴が昔から人並外れたものだからだ。
 ある時は、道がわからなくなって京都ナンバーの車について行き、その方の自宅らしきところまで行ってしまったし、またある時は、高速道路のジャンクションでわからなくなり他府県へ行ってしまった。地下から地上に出れば真逆の方向に進んでしまう。
 そんな私なので、今回も会場へのアクセスについては、当日を迎えるまでの間に何度も確認し、かなり余裕をもって到着することにしたんだ。今日に限っては絶対に大丈夫と会場に向かって歩いた。私にはGoogle先生という強い味方がついているから、指示通りに行けば迷うことはない。(後から考えるとGoogleに頼った時点でアウトだった)
会場に一番乗り......のはずだった。ところがどういうわけか、スマホは「あと3分」と表示したまま全然会場に近づかない。グルグル同じ辺りを回っているとさすがに私でもわかった。「やばいな」時間が迫ってきている。これはもう聞いた方がいいかも。そうだ、私には立派な口があるんだもの、と地元っぽい人(どんな人よ?笑)に聞いてみた。
すると「地下鉄でひと駅行くとすぐですよ」と教えてくださったので、慌てて地下鉄に乗ることにした。 
「おかしいな......駅前だったはず」
疑問に思ったけれど、ちょうど到着した地下鉄に飛び乗り、確認のためにもう一度ビル名を検索したら、地下鉄に乗ってはいけないことをスマホは教えてくれた。
えー?! 違うやん! とたんに汗がタラタラ、心臓はドキドキ。結局研究会には遅刻してしまった。
 内容をよくわからずに参加した上、代表幹事さん、幹事さんの最初のごあいさつを聞くことができなかった。
しまった……ボテボテのゴロを捕球できずにトンネルしたようなものだ......痛恨のエラー。サイアクだ。

 私が到着した時、すでに自己紹介は参加者の半分ぐらい終わっていて、席に着いた途端、私の番がきた。息も上がっていたし、頭の中は真っ白になるし、遅刻をお詫びするのがやっとだった。トホホだよ。

さて、研究会はというと、
キーワードは「人のイノベーション」ということだった。これまでは「経営のイノベーション」を一生懸命やってきたが、これからは「人」ということだ。

人生100年時代、自分はいったいなにを目標として生きていくのか。

幸せになるためになにが必要か。

徹底して「人のイノベーション」についての話をした。
せっかく休みを返上して参加したのだから、私も何かを得たいし黙って座っていることだけは避けようと思っていたので、今自分がやっていること、困っていること、悩んでいること、そして将来への思いなど、恥ずかしいという気持ちを捨てて割とセキララに話をした。
私が感じている現実と理想のギャップを、皆さんは真剣に聞いてくださって、励ましや共感、いろんなお言葉をいただいた。
でも、私はなんとなく過大評価を受けた気がして気まずかった。

 研究会は1泊2日だったため2日目の最後に全員が、自分のこれからの決意表明をすることになった。私は宿泊先のホテルで宣言する内容を考えていたが、結局具体的な何かを決めることが出来なかった。

結局宣言したのは「書くことを続ける」だった。

日記をつけて、その日感じたことや読んだ本から学んだことを書き続ける。
私が最大にパフォーマンスできるなにかを見つけ、人の役に立つことができるよう勉強を続けたいと締めくくった。
発表しながら、これからが少し楽しみな気持ちになっていた。

最後に次回開催について立候補を募られたが、誰も手をあげることはなく、会場はシーンと静まり返っていた。先輩方がたくさんおられるこの場で、自分が関係することはないと思い、その様子を眺めていたが、次の瞬間、私はポカンとする。

「手があがらないので、今回担当した私が指名したいと思います。花倉さん、お願いします」

「は? なに? なんて? 私? えーーー?!」

全く想定外な状況にあわあわしている私をよそに拍手がおきている。
わたしはパニックになりながらも、「やらない後悔よりやった後悔を選ぶ」という信念のもと受けることにした。
自分が思う日ごろのモヤモヤを話したら、なぜか評価をいただき、参加者の中でも経験の浅い私が次回幹事になってしまい、一体なにがどうなったのかさっぱりわからないが、ただ言えることは、またもや挑戦ということ。
 あと十数年で定年を迎え、穏やかな老後をなんて思っていたが、平均寿命まで生きると想定すれば人生はまだまだ長い。これから幸せに生きることを期待して、明日からまた新たな気持ちで成長していきたいと強く思った研究会だった。

これからもきっと私のまわり道はつづくのだろう。

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