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アルミホイルの中の愛


子どもの頃、父に連れられて兄とわたしと3人でよく山に登った。
母はいわゆるワーママで、休日は疲れていたからなのかわからないが、山登りに参加していた記憶があまりない。


下り坂は苦手だったが、登り坂は得意だったわたしは、父と兄を抜かして得意げにどんどんと先へ進んだものだった。父に「凄いな!」と言われるのが嬉しかった。


山頂に着くと、決まってお弁当を食べた。と言ってもおかずなどはない。
アルミホイルに包まれた、どでかい父特製のおにぎりのみだった。
これが塩がよくきいていてボリュームがあり、具は鮭やおかかが多かったように思う。
ほどよく汗をかいて、心地よい疲労感の中、見晴らしの良い場所で食べるおにぎりは格別に美味しかった。水筒の麦茶をがぶ飲みしたら、苦手な下り坂を慎重な足取りで下山した。

わたしの記憶では山登りイコール父おにぎりのセットだったのだが、別パターンもあることをのちに知った。


推定年齢5歳ごろ。超ミニワンピに身をつつみ、大きな岩の上に腰かけて、父おにぎりを頬張るわたしの写真が見つかったのだ。
いっちょまえに足を横に揃えて座り、アイドル気取りでポーズをとっている。


ミニスカートな訳だから、山登りスタイルではない。
どこにいるのか定かではないが、ぷくぷくの丸い頬の横に掲げているのは、まぎれもなくアルミホイルに包まれた特大おにぎりだった。


よっぽどおいしいのだろう。笑顔が『おいしい!』と言っている。
撮影係もおそらく父だったけれど、カメラ越しの彼はどんな表情をしていたのだろう。
きっと笑ってしまっていたに違いない。

現在、両親はふたり暮らし。
遠い昔子どもたちより早く起きて、一人おにぎりを握ってくれていた父。
彼は今、5歳年上の母のためだけに毎日料理を作っている。


今日は父の79回目の誕生日だった。


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