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【ショートストーリー】 LIZARD

あまり人が乗っていない地下鉄から降りて
静かな感じのまま外に出たから
蒸し暑く 騒がしい街の空気に息が苦しくなって
僕は下を向いて 何度も 何度も 深呼吸をした

何度目かの深呼吸の時
トカゲと目が合った

トカゲ ?こんなところに ?
地下鉄を上がって来た
こんな街中の 人通りの多いところに ?

数秒息が止まっていたと思う
辺りを見回したけれど
忙しそうな人達は 足元なんて見ていないから
誰ひとり トカゲに気付いていないようだった

もう一度見る
やっぱりいる 目が合ってる
何故か逸らせずにいると
向きを変えて去っていく
と思ったら 振り返り また前を向く

え 振り返った ?
トカゲって振り返るの ?
おとぎ話のように ついてこいとか ?

まさかね と思いながらも
何度も振り返るので気になってしまって
僕はトカゲの後を 追っていった
息が苦しかったのも忘れて

ちゃんとついてきているか確認するように
立ち止まり 振り返り 歩き( 進み?)だす

なんか 騙されてるんじゃないだろうか
何に ? と心で突っ込みを入れながら
ついていく

と それまで まるで僕を待つように
ゆっくり歩いていたトカゲが 急に足を速めて
ビルとビルの間にスススっと入ってしまった

僕は走り出し その隙間を覗くと
トカゲがいない
辺りを見回しても どこにも
そしてもちろん
小さな扉も 異空間へ繋がる入り口も
何もなかった  なんにも

歩道には相変わらず人が多く
ボーっと突っ立っているように見えた僕は
きっと邪魔だったのだろう
立ち止まっている僕にぶつかる人がいた
舌打ちする人も

ただ その隙間を見ると
もう呼吸は乱れなかった
息も苦しくない
うん 大丈夫
そう確認して 見上げた空は
なんだかやけにキレイだった

トカゲくん ありがとう
よくわかんないけど 助けられたよ

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