お笑いで用いられる「例え」が古い件について
今年のM-1に関する評も大方出尽くした感のあるこのタイミングで、後出しジャンケンのようにM-1の話をすることをご容赦いただきたい。
今年のM-1、見取り図の2本目のネタで、モハメド・アリVSアントニオ猪木の伝説の試合が、ボケの1つに用いられていた。
実は、僕はこれがずっと引っかかっていた。なぜこのボケを入れたのか。
今年の5月にEXITの兼近が
「いま活躍している芸人たちがドラゴンボールやプロレスでよく例えるけど、若者には伝わってない」
という発言をして大いに話題になった。
そう、今どきのお笑い芸人は、例えが古いのだ。
このような指摘が話題になった半年後、M-1で見取り図がモハメド・アリVSアントニオ猪木の話を持ち出したのだ。
モハメド・アリVSアントニオ猪木の試合が行われたのは、1976年。見取り図の2人は当然まだ生まれてもいない。リアルタイムで見ていたのは、今の50歳以上の層であろうし、今の10代、20代はそんな試合の存在を知らない人も多いのではないかと思う。
おそらく、見取り図の2人も、そういう世情は承知していたはずだ。でも、彼らはこのボケを用いた。何故なのか。
そこには、競技化する「M-1」の弊害を見て取ることができるのではないか。
まず、今のM-1において、どのような点が評価されやすいのかを考えた場合、テクニカルな部分については以下のような点に集約できるのではないか。
(もちろん、「会場のお客さんがウケている」という前提はありつつ。)
・ボケ数の多さ
・テンポの良さ
・後半でのギアチェンジ
・声の大きさ、勢い
これに加えて、新鮮さや意外性など、見る側にとっての良い意味での裏切り要素があると優勝に近づくのだろう。
ここで問題にしたいのは、この中で「ボケ数の多さ」という点である。
これがM-1では非常に重くのしかかっているのは間違いない。
和牛はあんなに面白くても、スロースターターである彼らのネタは、どうしてもボケ数で後れを取り、結果、そのハンデを巻き返すために決勝では持ち時間の4分を大きくオーバーするようなネタを投下し、それでも優勝に届かなかった。
つまり、長距離走のように大きなストライドで後から追い上げる、というスタイルは、M-1で結果を残すのが難しいのだ。
このように重要な要素である「ボケ数」だが、持ち時間4分という中に詰め込むには、かなり効率的に詰め込まなければならない。つまり、1ボケを笑いとして回収するまでの時間をいかに短くできるのか、という戦いに陥る。
1ボケを短時間で回収する近道は何かといえば、説明しなくても分かる分かりやすいボケ、ということになる。
分かりやすいボケとは何かと言えば、その典型が、すでに使い古されて記号化されたボケである。
その記号化されたボケこそ、ドラゴンボールであり、キン肉マンであり、古き良き時代のプロレスであり、王・長島の頃の野球の話なのだ。
これらは、使い古されたボケであるから、大笑いは生まない。が、説明の必要なく、効率よく笑いを回収できる。
特にしゃべくり漫才では、どうしても、振ってボケて突っ込む、という一連の動作を経て回収をしなければならないために、ボケ数を担保するためにはこのような記号化されたボケが必要になってしまう。
また、審査員が慣れ親しんでいる話題の範囲でないと、点数に反映されないという問題もある。
東京ホテイソンのネタは、ちょっと他に無いボケとツッコミのスタイルであるだけに、オーディエンスが着いてこれるように非常に丁寧な話の運び方をしているわけだが、それでも審査員から「分かりにくい」と言われてしまう。また、錦鯉のパチスロネタは「パチンコに弱い(からピンとこない)」と言われてしまった。
審査員にとっての分かりやすいボケを多数盛り込むということは、一定程度記号化されたボケを散りばめていくしか無いというのが現実なのだろう。
こうなってくると、M-1は、もはや漫才の面白さを競うイベントではなく、400mハードルみたいな競技になってしまっているよなぁという印象をより強めた。
が、それを全く別の方法でぶっ壊したのが、優勝したマヂカル・ラブリーではなかったか。
マヂカル・ラブリーはボケ数を増やすという戦略をやめて、始まってから最後まで途切れずずーーーっとボケのまま突っ走る、というスタイルで挑んだ。
野田がR-1で優勝した時のネタは1個1個のボケが明確に独立していたし、従来のマヂカル・ラブリーの漫才も1個1個のボケがツッコミとワンセットになって独立して存在していた。
それが、今回の決勝ネタは2本とも、ツッコミのツッコミを無視した一連のボケ、切れ目のないボケ、というスタイルだったわけである。
こうでもしないと、見取り図が陥ったボケ数のジレンマに陥ってしまうのが分かっていて、このスタイルになったのではないか。
以上、素人の妄想である。
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