ため息の行方はとてもありふれた
「”漸近線”って言葉があるじゃん?」
美桜のネタふりはいつも突然だ。
「ん? あの、数学というかグラフとかの?」
孝徳はひっくり返りそうになった声をなんとか乗りこなしきって何とか聞き返した
「あれってさ、なんか『救い』に見えたんだよね。『低空飛行墜落せず』みたいな感じで、無にはならないんだな、みたいな。こう、時間がどんどんスローモーションになってどんどん遅くなっても全く動かなくなるわけじゃないんだな的な」
また突然訳のわからないことを言い出した。
でも言ってることがわかるような気もする。
あ、キッチンで何かしてるなと思ったら、コーヒー淹れてたのか
相変わらず、きかずに作り始めるやつだ。
いや、たいてい断らないけど。
それでもさぁ。
暖かい、湯気とかおり
座りながらその小難しいことをどんどんと積み上げていく美桜がフニャッと笑ったのを見て、俺はこの時間の意味を確信した。
ゆるゆると、部屋中に広がっていく香り
一緒に広がっていくのは、心地よさと楽しそうな彼女の声
これで、いいのだという満足のため息が漏れる。
サポートいただけたらムスメズに美味しいもの食べさせるか、わたしがドトります。 小躍りしながら。