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NISAのリスク

新聞を読む。盛り上がるNISAについて、識者の対談が記事になっている。

最近、もはや新聞でもネットニュースでもNISAの話題が出ない日はないが、現時点で考えられるNISAのリスクについて、長期的・未来予測的な角度から少し書きつけてみた。

読み返すと、なんだかイヤな目線で見てるな・・という感じが自分でも否定できないが、こうやって未来予測みたいなことをすると、現在の世界に対する認識もリフレッシュできるし、将来何かあっても、「そこまで驚かされないで済む」という効用がある。

大丈夫と思っている前提が実はそうじゃない、あるいは、自明と思っているところに実は検討すべき前提が隠れていた、というのはよくあることで、そういうことに事前に気づけていれば、思わぬ落とし穴に足を掬われずに済むかもしれない。そういう観測のもとで、ひとつの思考の展開として、NISAのリスクについていま一度考えてみる。


1) ほんとうに長期で持てるのか?

NISAは長期運用が前提で、普通の人なら、20年、30年ほったらかしで気づいたらすごい金額が積み上がっていた、というのが理想とされる。

しかし、現代は情報社会である。何かあると「実は危ないオルカンのリスク」「今は売り時」「大暴落に備えよ」「今すぐNISAを売るべき10の理由」「投資なんかおやめなさい」など、とにかく大衆の不安につけ込む言説が大量に流通するので、長期で保有する、時々の下落には踊らされないんだと口では言っていても、やがて「やっぱ売っちゃうか」となるのも人間心理として蓋然性が高い。

最初は「またこんなことで煽ってるよ」と涼しく受け流せていても、そういう情報ばかりになってきて、アプリを開けば毎日含み損が増えているという状況になれば、知らず知らずのうちに心の余裕を失い、「情報に踊らされず長期で保有し続ける」という当初の動機を維持することが困難になってくる。というか、長期だとそもそも、「あれ、どういう戦略でやってたんだっけ?」と失念する可能性も高まる。

それどころか、「NISAをやめてみて損益に一喜一憂しない平穏な心を取り戻せました!」と、新世代のマインドフルネス系ミニマリストが現れて、NHKのあさイチあたりでも取り上げられ、30、40代の女性を中心に「NISA断捨離ムーヴ」が起きる展開も予測できる。将来のためにお金を増やすより、「いま・ここを生きる人生」へ(!)

NISAは「ほったらかすのが一番」などとも言われるが、そもそも投資をやり始めれば、株式市場や金融政策に興味が出てくるもので、いまいち現実味がない。投資関連の情報を検索・閲覧した履歴はしっかりGoogleが把握しているので、ますます「ユーザーの関心に合わせた」情報がご丁寧にもキュレーションされてくる。

「いまNISAを始めない理由なんてないでしょ」「やらない奴はバカ」と、NISA一辺倒な情報環境で始めた人は、将来、逆に「NISAがやばい」一辺倒の情報環境になったときに、果たして耐えられるのか。耐えるという生活習慣そのものに耐えられるのか。少し懐疑的であったほうがいいように思う。


2) なんだかんだ他人と比べる

それでも長期投資に成功した。しかし、「月2万積み立てて、20年で1000万円になってた、わーい」とはならない可能性も少なくない。なぜなら、「月10万積み立ててたやつは5000万なのか・・」と不平等感に苛まれるパターンもありがちだからだ。

ずっと預金だけしてた世界線の自分と比べるのではなく、「もっと儲かっている他人」と比べてしまう。

実際、働き方改革やジョブ型雇用、ギグワークの流れが今後加速していく中で、「そもそも投資に回す余剰資金の時点で格差が出てしまう問題」が、次第に取り沙汰されていくだろう。雇用が流動化すれば、そもそも投資に回す資金を欠いて、かつかつで生活せざるをえない人々も増える。結局、「投資したから儲かる」ではなく、「投資できる人が儲かる」、つまり、「富める者がますます富んでいく」だけに終わる公算も低くないのだ。

そういう差が如実に出てくるのは早くても10〜15年はかかるので、累進課税的なものの導入も、20〜30年したら実現してしまう可能性がある。当然、ポピュリスト政党はこの不満を汲み取る。

何か陰謀を巡らせなくても、「NISAで儲かってるやつは許せん」という世論が自然と出来上がっているので、政治家はそれに乗っかるだけでいい。上で述べたように、NISAを途中解約してしまった人も多数いる状況であればなおさらだ。

複利の効果が大きいだけに、自分のお金が増えた云々より、他人のお金があんなに増えていることの方に、社会的関心が向きやすくなる。格差の是正という正義の鉄拳によって、永久非課税だったはずの制度が取り崩されると。ガクブルな展開であるが、しかしNISAのような長期投資を実践していく上では、こうしたネガティブ・ケースを想定に入れておくことが必要だ。転ばぬ先の杖として。

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