四人芝居『スローライフ』

四人芝居『スローライフ』 作 すがの公

<上演時間>1時間
<あらすじ>妄想癖のニート・みつおは母から物置小屋の掃除を頼まれていた。夜になってやっと片付けをはじめたが自転車の処分の場所がわからなず、妄想癖の妹・しおりに相談する。突然、自称天使の女があらわれ現実なのかよくわからない妄想で遊び出すが、みつおはそれが死んだ父親・ひさみつがと気づく。

<登場人物>
兄: 21歳。ニート。妄想癖。3つで父が死んだ。妹好き。みつお
妹: 18歳。今年の春から大学生。妄想癖。小説家を目指す。兄が心配。しおり
母: 45歳。今はきちんとしたい派。過去で25歳。昔は妄想癖。かなえ
女: 天使=父。母と同じ年。1日だけ現世に。妄想癖。ひさみつ

■01物置、懐中電灯

客入れ最後の曲『星に願いを』あがり、暗。
懐中電灯のあかりが舞台奥からやってくる。
舞台上に自転車が出現している。
ボロいママチャリ。自転車の影がいろいろにうつる。

兄: うわ、まだあったんだ。チャリ(チャリに寄る)
ま、そりゃあるか。ゲホゲホ。ほこり。
もー何年もおきっぱなしだしな。うわ、オンボロ。
(いろんな所に光をあてる)
まだ乗れるんだろか。
(ペダルを手で回す、カラカラカラカラ)
おー、あ、空気抜けてる。パンクしてんのかな。
空気入れ、あったっけ。(光で探す)
、、、は、何探しとんだ俺は。
捨てるんだっつの(ベルをならしてみる。リリン)お?
お、イケんじゃん(チェーンをさわってみる)お?
サビサビじゃん。こういうときは油。クレ556(光りで探す)
、、、は!だから捨てるんだっつの。

月の明りが差してくる

兄: 、、、。

兄、チャリにまたがり、こいでみる

兄: おお、サドル、ギシシシいうけど、なかなか(こぎはじめる)
なんか、ハラハラするな。このまま発進したら、激突だ。
ハラハラするよな、激突。物置のカベに、俺型の穴。

結構こいだのち、ブレーキ。キッ

兄: 、、あぶない。ちょっと興奮した。
なんか、くせになりそうだ。(また、こぐ)

ノックする音。ドンドンドンドン

兄: きゃあ!

外から母の声がする

母声: あったのー?
兄: あ、あった!あった!!
母声: 早くどっかに捨ててきて。今日中
兄: あ、うん
母声: 生返事。あんたまだ使えそうだなとか思って
自転車またがってんじゃないでしょね?
兄: のってないのってない!(おりる)
母声: 空気入れてみようとか、クレ556でサビとりしようとか
兄: してないしてない!
母声: ベル鳴らして「お、いけんじゃん」とか思ってないだろね?
兄: 見てたのか!?
母声: あんた優柔不断だから、こういう時じゃないと捨てないんだからね
兄: 捨てる捨てる
母声: 早くして、今日中。
兄: でもさぁ、
母声: なに
兄: 捨てるってどこに?
母声: しらないよ。
兄: 冷たい母親だ。
母声: なんか言った?
兄: なんでもありません
母声: どうせ冷たい母親ですよ。
兄: 聞こえてんじゃねぇか
母声: お父さんが死んで、女手ひとつで専門学校まで出したんだから、感謝しな!感謝!
兄: してますって。
母声: とにかく物置っ。出てく前にカラにしてよ?
兄: わかったって。
母親: わかったわかったって先のばしにしてるから、
こんな夜更けにやるハメになってんだからね
兄: はいはいはいはい
母声: はいは一回
兄: はいは一回、はいは一回。
母声: かわいくない。誰に似たんだか。
少しは自分の妹見習ってよ?
兄: はーい。
母声: じゃ捨ててね?
兄: どぇーい。

ペダルをカラカラと回す
静かな曲が流れてくる

兄: 、、まだ乗れそうだよな(カラカラカラカラ)
、、でも捨てないとなぁ(カラカラカラカラ)
でもなぁ、、一体誰に似たんだかな
、、、、、、、、、(カラカラカラカラ)

■02なぞの女

舞台奥から声がする。

女: おう
兄: 、、、?

懐中電灯で照らすと、女がいる。
曲があがり、徐々に暗。

■03妹の部屋

懐中電灯の明りが消え、全暗。
妹の台詞

妹: 兄は八頭身。スラっとしてて小顔で色白だけど
どこかワイルドな魅力を合わせ持ち、芸能人でいうと
****と****を足して、
そこに****を少々ふりかけたようなナイスガイ。
小学校から飛び級をくりかえし、
15でケンブリッジの法学部を首席で卒業、
今はベンチャー企業経営のかたわらに弁護士をこなす
クールなビジネスマン。
毎日ミニクーパーでイギリスと日本を行き来している。
妹である私の悩みといえば、
お兄様より素敵な男性はこの世の中に存在しないんじゃないかって事だ。
近々、お兄様はさらなる大地をもとめて旅に出る。
だから今夜は、私の秘密を打ち明ける、
最後のチャンスかもしれない。

妹のセリフの中、じょじょに明。
妹、寝っころがってノートに小説を書いている。

妹: (ノートに顔をうつぶす)
、、だめだ、登場人物に兄とか出しちゃ駄目だ。
本物の兄貴がひどすぎて、
どんどん、妄想のお兄様が現実離れしていく。
イギリスと日本をミニクーパーって。
我ながら意味がわからん。
あいつのせいだ。ニートめ。



兄: ニートばかにすんなよぉ
妹: うわ!ノックしてよ!(小説をかくす)
兄: ノックしてほしきゃ、ニートばかにすんなよぉ
妹: 意味わかんない。出てきなさいよ
兄: 出てってほしきゃ、ニートばかにすんなよぉ
妹: しつこい。くどい。じゃまくさい!
兄: 何言ってんだ水臭い。
今日は兄妹水いらずで語りあえる最後の夜じゃんか
妹: 別に話すことなんてなんもないです。
兄: 綾波レイのことどう思う?
妹: どうも思わないから。
兄: おいおいエヴァンゲリオンの話をしようよ
妹: 最悪だ。ニートでアニおた。
兄: うたおうよ。アニソン
妹: きもちわるい
兄: 冷たいなぁ、ほら、ビールでいいか?(どっかから出す)
妹: どっから出してんのよ。未成年だから。
兄: 固いこというんじゃないよ。もっと人生楽しもうよ。
妹: ニートでアニおたでアル中に人生説かれたくないから。
兄: ちがうよ。俺は明日から変わるんだ。
妹: どうせすぐ戻ってくるんでしょ
兄: 固いよ。俺の決心。まるでカチカチに凍った豆腐だ。
妹: すぐとけます
兄: うまいこといううねぇええ、ヒック
妹: ヘタクソ!なんの用?
兄: 俺の永久就職を祝してカンパイだ!カンパイ!
妹: 物置片付けたの?またお母さんにおこられるよ?
兄: てやんでぃ。おふくろが怖くて酒がのめるか。
こちとら江戸っ子よ。
妹: どさんこでしょ。ココ北海道。
兄: コンサドーレってどさんこをひっくり返して「ーレ」つけたって知ってた?
妹: 忙しいんだけど。
兄: 小説か。どれ(取る)
妹: わあ!(取り返す)
兄: なんだ?照れるな。
妹: なんでそんな信じられない行動すんの?
プライバシーとか、知ってる?
兄: しらん。
妹: 知っててよ!早く物置片付けなさいよ、じゃまくさい。
兄: 妹に邪魔といわれたのは初めてだ!
妹: さっきも言ったよ。
兄: 兄に向かってなんだ!?これでも俺はな?年上だぞ?!
妹: あたりまえ!
兄: そんなに嫌うな。俺はな?おまえが産まれた頃にはすでに、
おまえの兄だったんだぞ?
妹: あたりまえ!あーもう、ウザイ!
兄: ドラゴンボールがハリウッドで実写化だ。ひどいなあれは?
妹: しらない。
兄: クリリンはハナの穴がないじゃないか、どうする?!
妹: おかあああさあああああああん!!
兄: こら!!すぐに母親にチクリという切り札を出すのは感心できんぞ
妹: うるさいよぉお
兄: どら(小説をとる)
妹: だから!(とりかえす)
兄: 一体何がのぞみだ!?
妹: こっちの台詞だから!!!
兄: あー一理ある。一理。
妹: おかああさああああああああ
兄: こらあ!

妹の口をふさぐ

妹: もごが
兄: しずかにしろ。言うことをきかないと、ひどいぞ。ヒヒヒ

妹、背負い投げ

兄: うふぁん!
妹: 何がひどいって?

兄、立ち上がり

兄: 、、、、、今日はこのくらいで勘弁したらぁ。

兄退場

妹: 何か用?

兄登場(おずおずと)

兄: あのぉ、自転車はどこに捨てればいいんですか。
妹: そんな質問しにきたの?!
兄: だってお前、こんな夜更けだぞ?
妹: 引っ越しの前の日まで先延ばしにするからでしょ
兄: 一体何時だと思ってんだ!
妹: 23時。逆ギレしないで
兄: まさかおまえ、放置自転車させようという魂胆じゃなかろうな?
そりゃおまえ、ダメだぞ?防犯登録してあるんだからな?
ちゃーんと持ち主のもとへ戻ってくるんだからな?なめんなよ?
妹: じゃー雪ん中にでも埋めてくれば?
兄: オニかおまえは!?春になって雪が溶けて、
ピカピカになって出てくるといいのか?!
妹: 良かったじゃない!
言っとくけどあたしツッコミとか苦手!ツラい!
兄: おちつけ、一個ずつ問題を片付けよう。
妹: 無視しようっと。
兄: おいたのむよ。妹だろう?
妹: 無視
兄: オレンジジュース買ってこよっか?
妹: 無視
兄: じゃ、虫さされに塗るのは?
妹: 、、、
兄: そう、ムヒだね。
妹: 、、、
兄: (ニヤニヤ)

妹、殴りかかる。

兄: おちつけ!話せばわかる!なにごとも!
妹: 、、、、、

妹、ふと、殴りかかるのをやめ、座る。元気がない。

兄: あれ?今日は狂暴さが足りないな。
妹: 忙しいって言ってんでしょ。
兄: 小説どこまで進んだ?
妹: 全然

妹、小説ノートを渡す

兄: でもお前天才だから大丈夫だよ。
妹: ああ、ちがう人にホメられたい
兄: たいしたもんだよほんとに。
妹: また落ちたよ。今日
兄: 審査員がバカなんだよ
妹: そんなこといったら応募すんのもバカバカしくなる。
兄: いやいやあきらめんな。
俺は逆立ちは出来てもこれはできん。
妹: どーも。
兄: せっかく大学受かったんだからな。
妹: 、、なんかごめんね。
兄: なに?
妹: あたしが大学受かったせいで、お母さんがお兄ちゃん追い出すみたいで。
兄: 関係ねーよそれは。
大学がんばれよ。天才なんだから。
妹: 別にがんばるとかじゃないし。
兄: ま、がんばれ。
妹: 、、うん

兄、いつのまにか、ノートにはさまっていたラブレターを読んでる

兄: 私は1年生のころから、葉月くんのことが気になって
妹: ?
兄: 2年生のころにはたぶん、好きになって
妹: 、、、
兄: 3年生にはもう葉月くんしか見えなくなりました。
妹: お兄ちゃん
兄: ラブレターかこれ?

妹、ノートでなぐる

兄: いて!
妹: いっぺん死ねや!
兄: なんでよ?!
妹: 人の手紙を読んでたよ?!
兄: 良い書き出しだぞ。
妹: どう生きてきたらそこまでデリカシーのない生き物になれんの?!
兄: いやいやおまえがどことなく元気ないから
妹: 出てけ!物置で凍死しろ!
兄: なんで殺したがる?相談にのってやるよ兄が
妹: 役たたずのニートに相談なんかないから。
おまけに人のプライバシーに土足であがりこむような
人でなしはもういらない!
兄: よんで欲しいのかと思って。
妹: 人に手紙よまれて平気?
兄: いやいや、俺なら怒る!
妹: 、、、、、
兄: もしかして、、怒った?
妹: 怒ったよ。
兄: さっき俺幻に話しかけられた話聞かない?
妹: きかない!

妹、兄をおしだし、兄退場。
ビールをのむ、妹。ぐびび

妹: 、、あぁ、、。あんなのがいる限り、
白馬の王子さまはあたしん家を素通りだ。

妹、ラブレターをみてる

■04なぞの女、ホワイティと登場

女登場

女: パカラ、パカラ、パカラ、パカラ、ヒヒーン、どうどう
よーしよし、ホワイティよーし。よし、放牧!いっぱいくえよー草ー

妹には、女が見えないらしい

妹: (ビールをさらにのむ)
女: おいこら未成年じゃないのか
妹: (のみほした)
女: あ、いいのみっぷりっすね。
妹: よし、無理。

妹、ラブレターを思いきりやぶく。

女: ああ、もったいない
妹: 葉月くんなんて高嶺の花だ。

小説ノートをやぶこうと構える

女: あ、おいおい。
妹: 、、、、、

しかし、やぶれず。

妹: どうせ根暗女ですよ。ヒック。
女: あ、酔った。
妹: ヒック
女: わ、へたくそ
妹: ちくしょう(よろよろ歩く)
女: あ、ちどり足。
妹: ♪ちゃーらーへっどちゃらー、あーたーまうーるとーら
女: ドラゴンボール、アニソン。

女ひとりになりラブレターを拾い

女: 恋をしてる。そういうお年ごろなわけか
なんかいいなぁ、恋文とか。なつかしい。
今ドキのガキは電子のメールですますかと思いきや、
なかなか見所のある娘に成長してるじゃないか。うんうん。
、、あ。さて。

ひたいに指

女: 瞬間移動、、えーーと

■05物置に瞬間移動

SEミョミョミョミョミョミョミョ
音とともに、月明り。ゆっくりと兄が後向きに登場。

女: ばしゅーん

兄、懐中電灯で女を照らす。物置。

兄: わぁ!
女: おっす。
兄: どっからきた?
女: 人をゴクウみたいにいうなよぉう。
兄: いってねぇよ
女: チャリどこに捨てることにした?
兄: いや、、ちょっと、その、、
女: まさかこの地球環境問題が叫ばれる世の中に
不法投棄をもくろんでるわけじゃあるまいな。
兄: ギクリ
女: わかりやすい。
兄: そ、そんなことな、ないよ(ヘタクソ)
女: ヘタクソ。
兄: すいません。

■06サロマ湖で魚をとろう

女、ボートにのる。

女: ま、楽にしろ。のれ。
兄: あのう
女: ちょっと秘密の話があるから。だからのれ。
兄: なにに?
女: 見ればわかるだろ。
兄: 、、なんだろ
女: (ボートこいでる)ちゃぷちゃぷちゃぷ
兄: ****!
女: ボートだ!
兄: あ、ボートか!
女: 秘密の話があるとすればボートに二人だろ。
兄: ああ、そうか。(乗る)
女: 素直だな。
兄: はぁ、それだけが取り柄なもんで。
女: 誰にいわれたそれ?
兄: ちいさいとき、おやじに。
女: 、、そっか(泣きっ)
兄: どうかしたんですか
女: なんでもない。あ、音楽。
兄: え?

クラシック音楽が聞こえてくる

兄: なんだ?どこからともなく音楽が。物置なのに。
女: 世の中には言葉では説明できないことがぎょうさんあるんだよ
兄: 瞬間移動とか?
女: 瞬間移動とか。
兄: ボートとか。
女: 湖の中心までれっつらごうー。
兄: わぁ、広々してきた。

明りがひろがる(色がかわる)

兄: お、魚だ。
女: 想像力もたくましいな。
兄: ニートなもんで。
女: 関係あるのか
兄: 想像力だけで生きてるし。
こうなったらのれるだけのろうかと
女: なるほど。
兄: (モリでつく)えい。ザク
女: なにした?
兄: 食べますか。コイ。
女: くわん。どろくさい。逃がしてやれ
兄: でもモリ貫通したからな。瀕死だ。
女: キズばんがあるだろ。
兄: その手があったか。あります?
女: あるよ。何枚いる?
兄: 3枚。
女: ああ、モリだからな。
兄: よく悪魔がもってる、こんなの。
女: 早く手当てしろ
兄: ちょっと押さえて。ピチピチ暴れてる
女: あ、わるい気付かなくて(おさえる)
兄: うーんぬるぬるしてるな。
女: こまかいな
兄: 貼りづらいです。
女: ちょっとふけば大丈夫
兄: でも魚にとってこのヌルヌルは重要なのでは?
女: ああ、チョウチョにとってのリンプンみたいなこと?
兄: そう、皮脂によってガードしてるのでは、お肌。
女: いや、よごれ。めんどくさいからよごれ。
兄: じゃぁ、安心だ(ふく)
女: 明日からなに?就職だって?
兄: ええ、ニート卒業しようかと、いい機会だし。よし、一枚。
女: きかい?ああ、妹か?
兄: あ、キズバンむいといてくれます?あと2枚。
女: あ、全然おっけーい。(むく)
兄: 片側だけでいいですから。フィルムみたいの片方残して。
女: こまかいな。
兄: 大事ですから。くっついたらアウトです。
女: あ、しまった。そんなこと言うからくっついた。
兄: 言ったそばから。
女: 言ったからだろ。
兄: そうなると復活不可能だから、キズバン。
女: こっちはできた。はい。キズバンもうないよ。
兄: じゃ、2つだった事にしよう、魚の穴。
女: テキトーだな
兄: モリのツノが3つ刺さるのはむしろ不自然だ。よし。
女: ぐったりしてるぞ。白目になってる。
兄: ほら、仙人の豆だよ。あ、黒目が戻った。よし、放流。ちょぽんっ
女: 仙人の豆?
兄: 全回復するマメです。
女: せんずじゃん。
兄: よおし、ちょっと立ってみます。湖のど真ん中のボートで。
女: 突然チャレンジャーだな。
兄: 落ちてもしらんよ
女: おまえがいうな。
兄: よっと。ほっと。
女: おおすごいすごいけど、バランス悪いんですけど。
兄: トラストミー、イエス、トラストユー
女: なにしてんの
兄: タイタニックごっこ。
女: 古いよ。船でかいよ。
兄: さーって、自転車どこにすてようかなぁ。
女: なんで捨てんの?
兄: さぁ。捨てろって母ちゃんがいうから
女: 大変だねぇ。
兄: ま、全然乗ってないし。
女: まだ乗れるでしょ。
兄: でももう乗らないかもしれんし。
女: 乗るかもしんないのに。
兄: そうだけど。捨てた方いい気するし。どうしたもんか。
女: 優柔不断。すてろすてろ
兄: でもどこに捨てれば?
女: しらないよ。
兄: だれもおしえてくれないなぁ。
女: 自分で探せよ
兄: どこをさがせば?
女: しらないって。
兄: 打つ手なしだな。
女: あきらめんの早いよ?
兄: よく言われます。



女: あのさぁ、
兄: はい?
女: 実はさぁ。
兄: はい。

■07物置

ドンドンドンドン、物置に戻る。暗。

母: 捨てたの?
兄: あ、まだ。
母: 何ぼやぼやしてんの夜中になっちゃうよ?明日朝早いんでしょ?
兄: あーうん。今何時?
母: 11時。さっさとどっか捨ててきてよっ
兄: 、、あ、あのさぁ、
、、なんで捨てなきゃいけないんだっけ?
(返事がない)
あれ、、いっちゃったか。

月明りが差し込んでくる。

兄: おろ?、、、あの人もいない、、うーん。やっぱ妄想だったか。
雪山で遭難して、まぼろしが見えてくるようになったらもうおしまいだと、
なんかで言ってたなぁ。
ほんとに社会人やってけんだろか、、おれ。
なんて会社だっけな。あ、内定書内定書。

ポッケから内定書。懐中電灯で照らす。

兄: 株式会社アンダーグラウンド。本社勤務。
なんて名前の会社だ。俺業務内容もわかってないんだよな。
でかい会社なんだろうか。
持ちビルとかあったくらいにして。
移動にエレベーター使ったりして。
いかん、また妄想が。

■08株式会社アンダーグラウンド

妹: チーン
兄: あ、

メガネの妹登場。明、エレベーターに妹が乗ってくる

妹: あ、エレベーターからおりますか?
兄: いえ、このままのります。
妹: なにしてるんですかエレベーターで。
兄: すみません不慣れなもんで。ぼく新入社員です。
妹: 何階ですか?
兄: えーと、(内定書)地下15階(2度見)15階?地下?
妹: 15階。ウーーーーーン
兄: すごいぞ、アンダーグラウンド
妹: ちなみに私は地下20階です(ほこらしげ)
兄: どうしてほこらしげなんですか
妹: ええ、そりゃもう
兄: でかい会社なんですか?ここ?
妹: ええ、下にね。
兄: 下?
妹: ウーーーーーーン

メガネの女登場。折りたたみ椅子をもってくる

女: チーン
兄: お。
妹: 何階ですか?
女: 100階。
兄: 地下?
女: 当然。(ほこらしげ)
兄: どうしてほこらしげなんですか
女: ウーーーーン

女、折りたたみ椅子を設置しはじめる。

妹: (こそこそ)この会社はね、下にいくほどえらいのよ
兄: (こそこそ)あの椅子は?
妹: 地下100階だと1時間はかかるから。
兄: なるほど。

メガネの母。毛布と枕をもってくる

母: チーン
兄: お。
女妹: おはようございます。
母: おはよう。

すぐに枕と毛布で寝にはいる。

兄: 何階ですか?
女: (こそこそ)なにいってんの社長よ社長。
兄: (こそこそ)アンダーグラウンドの?
妹: (こそこそ)社長室は地下300階よ
兄: じゃ、えーと、3時間?!
妹: あたしもいつか、仮眠をとりながら
エレベーターに乗りたいものだわ。
女: がんばって。
全員: ウーーーーーーーーーーン
兄: あ、チーーン
妹: 15階よ。
兄: あ、すんません

兄、出ていこうとして立ちどまり、

兄: あの、社長。
母: なに?あたしは忙しいのよ。
兄: エレベータ替えた方よくないですか?早いのに。

兄退場。

母: 、、、、
3人: ウーーーーーーーーーーン

じょじょに暗。

全暗と同時に、ブリッジ音楽

■09母45歳の寝室、白熱灯

妹: おかーさん、ねぇってば。

母の寝室のマクラもとの白熱灯。クリップライト

母: 眠いんだけどー(母、ふとんをかぶってる)
妹: やっぱ、お兄ちゃん。無理に働かせない方よくない?
母: なにいってんの今さらー、あんた酒くさい。
妹: 専門学校出て、一年もニート志してた人間に
社会生活はもう無理だよ。
母: それじゃぁ日本はどうなっちゃうの
妹: お兄ちゃん妄想癖がすごいんだよ。
母: しってるよ。それ血筋だから。
妹: さっきとうとう幻をみたらしいよ。話したって。
母: 大丈夫、母さんも夢をよくみるから。おやすみ。
妹: どんな夢?
母: お金ほしいなぁとかお金ほしいなぁとか、
もう寝かせてほしいなぁとか。
妹: それは叶わない夢のはなしでしょ?
母: ひとつくらい叶えてよ。ねむたいの。
妹: あたしのせいで、おにいちゃん死んだらやじゃん。
母: 死なないよ。なんで死ぬの。
妹: お兄ちゃんには今、3つの問題があるの。
母: えー、3つもあんのー?ひとつくらいでいいよー
妹: 1つは就職ね。ニートからの脱却ね。
母: (生返事)うんうん
妹: 2つ目は、ママチャリを捨てるという大役ね。
母: (生返事)はいはい
妹: 3つ目は母親からの愛情不足
母: ZZZZZZZZZZZ

妹、ふとんをたたく。

母: いたい!なに?!
妹: 真面目にきいてよ。
母: はい、ききます。3つめ、はい。
妹: だから、母親からそそがれるべく愛情の
母: ZZZZZZZZZZZZZZZ
妹: (叩く)わざとやってる?!
母: きいてた!きいてた!愛情ね!母のね!
妹: どうしてお兄ちゃんに冷たいの?
母: 冷たくないよ。すっげーかわいがってんじゃん
妹: そーはみえないけどなぁ。
母: 愛情表現のひとつなの。教育方針おやすみなさい
妹: (揺らす揺らしまくる)寝ないで!寝ないで!
母: 酔う!酔う!
妹: ねぇ。
母: なに
妹: ママチャリ、なんで捨てるの?
母: もう乗らないから。じゃまくさいから。
妹: お兄ちゃん出てかなきゃだめなの?
母: 自分で寮に入るって言ってんだからいーじゃん。
妹: なんかなぁ。
母: はい、はなし終わり。

母、白熱灯を消す。全暗。

妹: ああ!おにいちゃん様々なストレスで
別人のようになってゆくのかもしれないよ?
あたしはまだニートでいてくれたほうが
社会のためにもいいと思うんだけど?

■10兄とろうそく

(暗の中、母は女と入れ替わる)

妹: さっきお兄ちゃんとけんかしてさぁ。
もしかしたら本気で物置で凍死を試みてる可能性もあるよ?
頭がおかしくなってさ。

舞台の奥をろうそくをつけた兄が

妹: 、、、、

通りすぎる。

妹: 、、お母さん、今、何か通らなかった?
女: ZZZZZZZZ
妹: おきてよちょっと

再び、舞台の奥にろうそくをつけた兄があらわれ、
ゆっくりとこっちをみる。

兄: ここにも、、ない。
妹: わわわわわわわわわわ

通りすぎる
白熱灯をつける妹。

妹: 見た?!見た?!見た?!見た?!
女: ZZZZZZZZ
妹: おきてぇ!
お兄ちゃんがおかしくなったよ!
お兄ちゃんがおかしくなったよ!
お兄ちゃんがおかしくなったよ!わああああ!!!

と妹、走って退場。

兄: なんだ?母ちゃん、ろうそくってこれだけ?
懐中電灯どっかやっちゃったんだけど?

女、もぞもぞする。

兄: おーい。

女出てくる。ガバ!

兄: え?
女: ハラへった。
兄: おおおおおおおう!!?
女: なんかくうもんないか?
兄: 喰ったのか!?うちの母ちゃん喰ったのか!?
おまえ!赤ずきんちゃんで言うところのオオカミか!
女: なにいってんの?
兄: 喰ったのか!?喰ってないのか!そのへんはっきりさせないか!!
女: くった、ない。
兄: どっちだ!?
女: ま、喰ったといや、喰ったよ。その昔。
兄: なんだって?
女: そうして、おまえたちが産まれた。
兄: なに?
女: ちょっとアダルトだったな。
大人のジョークだ。
兄: 自由すぎるぞおまえ!母ちゃんを喰った分際で!あつい!
女: 音楽。

■11ワイキキビーチに流れ星

エルヴィスのブルーハワイ。

女: 明りなんて今は消しなさい。
夜空の星ぼしに失礼じゃないか。

星空(ミラーボールに明りをあてよう)

兄: わあ、、すげえ。(消す)
女: ここはハワイのワイキキビーチ。
今は夜中で周りはアベックでいっぱいだ。
兄: いつのまにこんなとこに。
女: サロマ湖のやろう、なぜか海とつながってたから。
兄: あれサロマ湖だったのか。
女: こんなところにツキチッチ
兄: なにいってんだ。
女: あ、流れ星。
兄: え?どこ?
女: ほら

舞台奥の下袖から上袖へサイリウムが飛ぶ

兄: ああ!ほんとうだ!
女: もっかいくるぞ。見逃すな

舞台奥の上袖から下袖へサイリウムが飛ぶ

兄: わぁ!なんかクダらない!
女: そういうな。予算が少ないんだ
兄: 願いごとしなきゃ。
女: 一瞬だからがんばれ。星に願いを!

舞台奥の下袖から上袖へサイリウムが飛ぶ

兄: ああ!さっきより早いんだけど!
女: 流星だからな、いろいろあるんだよ。
兄: なんでこう、右左順番に飛ぶんだろう。
女: いろいろあるんだよ。くるぞ。

舞台奥の上袖から下袖へサイリウムが飛ぶ

兄: カネカネカネ!
女: なんて夢のない家庭に育ったんだ。
兄: すんません
女: たとえばだな。
「死んだお父さんと会いたいです。どうかひとつ、よろしく。」
を3回とかな。
兄: 長いよ。どうかひとつとかいらないよ。
女: いるだろ、ちゃんとお願いしろ
二つ: 「どうかひとつ、よろしく」
女: いるだろ。
兄: なんかおっさんくさいし
女: やれ。会いたいだろ。
兄: いや、別に。
女: (なぐる)こら!
兄: いて!
女: 天国のお父さん悲しむぞ。そんなこと目の前で言われたら!あやまれ!
兄: でもべつに
女: (なぐる)
兄: だけど
女: (なぐる)
兄: 、、、あ
女: (なぐる)
兄: 、、、すいませんでした。
女: くるぞ!がんばれ!
兄: だから無理だって、長すぎる。
女: 星に願いを!

ぼっこについたサイリウムがゆっくりとながれる。

兄: 死んだお父さんと会いたいです!どうかひとつ!よろしく!
あれ?死んだお父さんと会いたいです、、どうかひとつ、、よろしく
、、なんかあれずるいよ。
女: はやくいえ!あと一回。
兄: だって今、ほぼ止まってるよ
女: サービスしてくれてんだ文句いうな
兄: 死んだお父さんと会いたいです。あ、ちょっと戻った。
女: 大サービス!星が!いえ!
女兄: 「どうかひとつ、よろしく」
女: おめでとおおお!!!!

■12おやじ映像と星に願いを。

音楽『星に願いを/ディズニー』
音楽とともにプロジェクターの映像
たくさんの「お父さん」の映像。

兄: ?

脈絡無く、めっちゃ笑ってるどっかのお父さんの顔。
めっちゃ酒のんでるどっかのお父さんの顔。
めっちゃ酔いつぶれてるお父さんの顔。
曲消え、明。

■13ルート66

女: 泣けるな。
兄: 泣けねぇよ!なんだ今の!ラビット関根さんとか。
女: 一生懸命作ったんだぞ!いろんなお父さんの映像!
兄: いろんなお父さんだすな!駄目なんだぞ!著作権とかあるんだぞ!
女: いいんだよ無料公演なんだから。
兄: 何のはなしだ。あれ?明るい。
女: 見ろ日差しが暑いな。
兄: ここは?
女: われわれは今アメリカのド田舎、
ルート66におる。
見ろ、どこまでも続く一本道。
兄: わぁ、アメリカはでっけぇな。
女: 慣れてきたな。
兄: だいぶ。
女: しかもどこに続くかわからない。
どうだ、まるで人生じゃないか。
さぁ、歩こうか若人よ。あてどなく。

二人歩き出す。
兄、携帯をいじりはじめる。

女: なにしてる?
兄: えーと。ルート66は***から***に繋がってます。
女: ぶちこわしだ!
携帯版ウィキペディアで調べるな!
貸せ。
兄: あ。(うばわれる)
女: こんなもの!

女、捨てる。

兄: あああ!!
女: ふん。携帯なんぞアメリカの犬にでも喰われろ。
兄: ああ、たくさんのアメリカ犬が群がって!
携帯を中心に円になって!
女: GO!docomo!GO!GO!
兄: その声で一斉にうばいあっている!
片目の犬が勝ちそうだ。
女: アメリカン*****片目のジャックだ。
兄: ジャックが勝った!ボスになった!
女: たくましい妄想力だな。
兄: 今までつまはじきにされてたのに、ジャック。
おい、俺の携帯返せ!
女: 長すぎたノリツッコミだな。
兄: あーあ。まいっか。
女: いいんだ。
兄: 友達少ないし。
つきあいわるいから。
女: そうか、つくづくニートだな。
兄: さ、歩きましょう。
女: おっけい。

二人歩く。

女: さぁ、悩みでも聞こう。
兄: え?悩み?
女: 聞こう。
兄: ないけど。
女: 隠すな。あるだろうひとつくらい。
兄: ないです。
女: じゃあ少しくらい悩め。
兄: 無茶言わんでください。
なにものなんですか、あなた。
男言葉だし。
女: これは世をしのぶ仮の姿だ。
兄: へー。
女: 当てて当てて。
兄: 妖精!
女: そんなかわいらしいのじゃない。
兄: 宇宙人!
女: そこまでいかない。
兄: わかった!神様。
女: そんなすごい人じゃない。
兄: 妖精でも宇宙人でも神様でもないの?じゃなに?
女: すごくいいにくいな。あまり期待されると。
兄: 答え答え。
女: いや、いいや。
兄: はやく。
女: いや、いい。
兄: すげぇ驚いてみせます。
女: いや、いいよ。

■14裂け目の怪物と父の記憶

兄: あ、こんな所にクレバスが。
女: え?
兄: 地震の影響で出来る地面の裂け目ですね。
ああ、こりゃ深い。底が見えないぞ。
亀裂は10メートル以上ありますけど、飛びますか?
女: 飛べねぇだろ!
兄: 困りましたね。行き止まりだ。
女: 勝手に妄想を進めるのやめてくれんか。
兄: さ、座って座って。
じきに救助が来るやもしれません。

兄、座る。

もしくは、裂け目から怪物が出てきて
闘うことになるかもしれません。
女: 勝手な妄想を進めるな!めんどくさいから。
兄: ほら、深い谷底に光る無数の眼がこっちを見ています。
女: やめろ。
兄: クモ系のモンスターですね。よくいる。
女: いない。やめろ。
兄: 勝ったあかつきには村人が橋をかけてくれるかも。
女: 頭だいじょうぶか?
兄: はい。
女: お前、家でどんな生活してるんだ。
兄: ごろごろしたり。コンビニいったり。
テレビみたり。ゲームしたり。たまにメールしたり。
妹としゃべったり。母ちゃんに怒られたり。
の繰り返しかなぁ。
女: 人生に目的とかないのか。
兄: うーん。無いなぁ。
女: 明日から就職だろ?
兄: はい。
女: なんて会社だ?
兄: 株式会社アンダーグラウンド
女: 、、やめた方がいいんじゃないか?
兄: 妹にもいわれたなぁ。
女: 母親はなんて言ってる。
兄: 別に。せいせいするって。
女: 、、、ふーん。
兄: にしても暑いなあ。アメリカは。
女: 色々なもののとらえ方がざっくりしてるな。
兄: はい。おおらかだって、言われます。
女: 長所か?
兄: どうですか?
女: 知らん。
兄: 誰に似たんだか
女: え?
兄: 母ちゃんの口癖。

女: お父さん、懐かしかっただろ。
兄: え?
女: さっき、映ってたろ、一枚。
兄: そうなの?
女: え?
兄: ちっさい時に死んだから顔覚えてねぇーし。
女: まじで?!写真は?
兄: ないよ。
女: まじで?!!!
兄: 母ちゃんが焼却処分したらしい。
女: なぜ!?それはなぜ!?詳しく説明しろ!
兄: 何ムキになってんの?
女: ムキになんかなってないやい
兄: ないやいって
女: いいから教えろ!なぜ写真が焼かれた?
兄: おやじがなんかやらかしたんじゃないのかなぁ?恨まれるような事を。
女: 恨まれる事?たとえば?
兄: 賭けマージャンで借金とか。
女: まさか!
兄: いつでも浮気とか。
女: まさか!
兄: 犯罪者だったとか。
女: まさかまさか!本気で言ってんのかお前は?!
兄: なんで怒ってんの?
女: 怒ってないやい!
兄: あくまでも俺の予想。
女: 勝手な予想をするな!
私は誠心誠意一生懸命清廉潔白だったはずだ!
兄: え?何言ってんの?
女: おまえ、相当にぶいな。
兄: そう?
女: よし、乗れ。

女、バイクに乗る。形になる。

兄: どしたんですか?
女: 行くぞ。キュルキュルキュル
兄: どこに?
女: 会わせてやろう。お前の素晴しい父親に。キュルキュルキュル
兄: え?死んでんだけど?
女: だから、死ぬ前のおやじに会わせてやるよ。乗れ。キュルル。
兄: でもママチャリ捨てないと。
女: ゴミ箱にでも捨てろ。キュルル。あれ?バッテリー上がったか?
兄: そんなでかいゴミ箱はありますか?
女: ばか。
兄: あ。
女: ばか。
兄: あ。
女: ばか。ばか。
兄: 3、いや4回も!
女: 探すってのはなぁ!?
あるかどうかわからないものを探すってことなんだよぉお!!
兄: はう!

エンジンかかる。SEドルルルルルル!!!

女: よしかかった!
兄: なんか感動~~!!!
女: はい音楽!!!!

ノリノリの音楽が聞こえ、照明が変わる

兄: どっから音楽~~!!
女: のれ!2ケツで行くぞ!タンデムだ!
兄: だから何に!?
女: 見ればわかるだろう。ブルンブルーン。
兄: えーと、なんだ今度は。
女: ぶるんぶるーん!!
兄: えっと******!
女: バイクだろ!
兄: ああ!バイクか!
女: カワサキZZR改!おれさまバージョンだ!のれい!
兄: はい!
女: ゆくぞ!われわれはこれより風になる!
兄: でも、ママチャリ捨てなきゃ!
女: つくづくにぶいなお前も。ポケットを見ろ。
兄: は?
女: ポケットにあるだろ?!
兄: ポケット?

兄のポケットから小さいママチャリ

兄: 小ーさくなってます!
女: ゆくぞ若人!
レッツファインドマイアナザーロード!

SEブロロロロロ!!

兄: 物置のカベにぶつかりませんか!?
女: カベは!ぶっこわすためにあるのだあああああ!!
兄: 物置の壁に俺型の穴ぁあああああああああ!!!!

曲あがり、二人ストップモーション
舞台奥に妹が走りこんでくる、妹だけに明り。手に小説。
舞台前の二人はシルエットになる

妹: 『お兄様!』そしてお兄様は不思議な旅に出かけたのでした!
謎の人物とともに!夜をぬけ!星空のかなた!
まだ見ぬ新しい大地をもとめて!!
あたし天才!(ガッツポーズ)

■15若き母登場ダンス

曲があがり、若き母が登場、
そのまま行進のようなダンスとなる。

■16幼稚園の若き母

母、ピノキオを読む。

母: 女神は言いました。
「ピノキオ、どうして学校へいかなかったのですか」
ピノキオは答えます。
「それはその。途中で、おばあさんが重い荷物を持って、
『どうして東豊線はこんなに降りなくてはいけないのだろうか』
という疑問を持って右往左往していたものだから、
『それは、一番最後に出来たから地中深くに穴を掘ったんですよ』
とぼくがいったら
『じゃあどうして南北線は途中から地上に出るんだい』
とばあさんがいうので
『南北線澄川には地下都市があるんです』
とぼくがいったら、学校にいけなくなったんだい」
ピノキオの鼻はみるみる天まで伸びて行きます。
そしてロバになりました。
みんなギンギンに目ぇ覚めてるねぇ。先生シンキングタイム。



兄: めちゃくちゃだ。
女: めちゃくちゃだな。

女、兄の顔のお面をかぶっている。

兄: わぁ!俺が二人!
女: ちょっと違うぞ。ここにホクロがある。
兄: ほんとだ。でもなにしてんの?
女: リアリティを追及した結果だ。
兄: 変装?
女: もはや変身に近いな。
兄: 変質者だろ。
女: やぁ!かなえさん!

母、振り返る

母: 、、、、
女: やぁ、かなえさん
兄: ほら、絶対あやしいって。
女: 、、やぁ、、、かなえさん
兄: 自信なくなってねぇか
母: 、、、、

母、手招き。

女: あ、はい。

女、母の方へ。

母: 久光さん、職場にこられては困ります。
女: どうもすみません。
兄: あれ?
母: わたし幼稚園児たちを寝かしつけなくちゃいけないのに。
女: いやはや、申し分けない。
どうしてもあなたに会いたくて。
母: いやだわ、子供たちの前で。
兄: にぶいのか、あの人。あれ?かなえって、、まさか。
母: それになんですの?あの不審なお方は?
兄: え?おれ?
女: さぁ、さだめし変質者かなにかでしょう。
兄: こら!
母: それじゃあたし、お仕事がありますので。
女: この前の返事、考えてくれましたか?
母: わたしからご連絡さしあげますわ。
女: わかりました、ごきげんよう。かなえさん(手)
母: ごきげんよう。久光さん(手)
兄: なんだあの昼ドラのような会話は。

女、戻ってくる。

女: 成功。
兄: かなえって、あれ、もしかして

母、ポッケから5円玉に糸がついたものを出す。

女: 若き日の
兄: 母ちゃん、、
女: 正解。
母: はい、眠くなーる、眠くなーる。眠くなーる。
女: 子供を催眠術で寝かしつけようとしてる、若き日の母だ。
母: 眠くなーる。眠くなーー
兄: じゃ、あなたは、もしや、、
女: 大きくなったな、みつお。
兄: 久光って、つまり
女: そう、わたしは、おまえの、
母: はい、ZZZZ
兄女: あ寝た!

音楽。『yellow center line/ゴダイゴ』
ストップモーション。ゆっくりと暗。
奥から妹、ろうそくの明りをもってくる。
ろうそくの明りの中、3人退場。

■17物置、妹と母

妹、物置に寝っころがり、自分の小説を読む。

妹: 『たぶん君にはその勇気がある。
この道の先に何が待っているか
不安になって足を止めることもあるだろう。
一本道だと思っていたら、枝分かれしていることもあるだろう。
そこでひとり足を止めることだって、
とても勇気がいることなんだ。
まわりの奴らはどんどん追い越してゆくだろう。
でも君は君のことをすればいい。
道の真ん中に座り込み、
寝っころがって星ぼしを見上げ、
夢の中で大事なものを数えはじめれば、
不思議なことが起こるもんだ。
いつのまにか片方の先に明りが見えたり、
いつのまにか片方の道が消えていたり。
そうして自分の歩みをコントロールできるなんて
とても素晴しいことなんだからね。
本当に好きなものを人に打ち明けるのと同じくらい、
それは勇気のいることだ。』

妹、小説を閉じる。立ち上がる。
曲消えていく。

SE犬の遠吠え。わぉーんわんわん

妹: だめ。才能ない。犬にも笑われる。
、、お兄ちゃん。
どこいったんだろ。自転車もないし。
ホントに捨てに行ったのかな。
頭おかしくなって、不法投棄で捕まって、
病院にいれられていたらどうしよう。

ろうそくの明りで照らすと、箱がある。

妹: なんだこの箱?、、、ゲホっ、、ほこりっぽい。
、、、おもちゃのゆびわ。
あ、これ、、、

ねじを巻き、鳴らす。
『星に願いを』

妹: オルゴールだ。
なんだっけな。この曲。

戸口に母。母の声。

母: あんた寝ないの?
妹: あ、起きてきたの?
母: あんたがあんまり騒ぐから。
妹: だって、保健所で消毒されて中東に輸出されるかも。
母: だれが。
妹: お兄ちゃん。
母: あんたもぶっとんだ妄想するね。
妹: そうかなぁ。
母: 誰に似たんだか。
妹: あ、また言った。
母: 、、、

間。

母: そんなんまだあったんだねぇ。
妹: おかーさんの?
母: うん。
妹: 子供ん時の?
母: 大人ん時の。
妹: なんて曲だっけ?
母: ほら。ディズニーの。
妹: ディズニー?映画?
母: うそつくと鼻がのびる。
妹: ダンボ?
母: それ耳。ダンボは嘘つかない。鼻。
妹: はな?
母: 人間になりたいあやつり人形の話し
妹: あ、ピノキオかぁ。観たっけ?
母: 観てるよ。でもしおりちっちゃかったな。
妹: いつ?
母: 産まれたて。ゼロ歳。
妹: そりゃ覚えてないよ。お兄ちゃんと3人で?
母: 4人で。
妹: 、、、

間。

妹: これは?
母: なに?
妹: おもちゃの指輪。
母: あー。
妹: 子供ん時の?
母: 大人ん時の。
妹: もしかして。
母: そう。
妹: 100均?
母: そのころ100均なんてなかったから。
妹: でもおもちゃかぁ。
母: そのころもお金なんてなかったから。
妹: げー。あたしとお兄ちゃんはおもちゃの指輪で産まれたのかー。
母: そういう事になるね。
妹: でも奇麗。
母: うん。
妹: いい人だったんだね、
母: まーね。
妹: ねぇ?
母: なに?
妹: なんで写真ないの?
母: 、、、
妹: お父さんの
母: それは、、えーと。
妹: 、、あ、いやごめん、いんだ。別に。

妹、ろうそくをふっと消す。青い光り

■18瞬間移動2

青い光りの中、兄の声

兄: 瞬間移動!

SEミョミョミョミョミョミョミョ
音とともにゆっくりと兄と女登場、妹退場
(すれちがいざまに指輪を受け取ってね)

兄: ばしゅーーん。うわ。出来た。
もう、なんでもありだな。
女: どうだ「父から教わる瞬間移動」は。
これぞ父と息子の対話だろ。
兄: いや、そんな家庭みたことねぇよ。
女: 父ちゃんって呼んでね。
兄: お面をとれ。話しにくいんだよ。
女: (首をかしげる)なぜ?
兄: 馬鹿にされてる気になるから。
女: せっかく作ったのに。
兄: いいから。
女: (首をかしげる)なぜ?
兄: 早くしろ!
女: くわばらくわばら親にそんな口を叩くようになるとは思わなんだ。

しぶしぶお面を取る。

兄: あきらかに不満そうな顔やめろ。
女: で、どこに飛んで来た?
兄: あれ?しおりんとこに瞬間移動したつもりだったのに。いないな。
女: バカかお前は。もっとストーリーを追え。
今は過去だもの。まだお前ら産まれてないし。
まずタイムスリップしなきゃ。基本だろが。学習しろ。
兄: なんでそこまで言われなきゃいけねんだよ。
女: 父ちゃんって呼んでね。
兄: 無茶いうな。なんで女の顔してんだ。
女: 見ろほら。

女、背中を見せる。ちょびっと羽がついてる。

兄: あ、羽。ちょびっと。
女: 生まれたてだからな。ちょびっとなんだ。
兄: 生まれたて?
女: まだ俺、数えで1歳の天使だ。天使と言えば女だ。わかったな。
兄: わかんねぇよ。説明少ねぇよ父ちゃん。
女: 輪廻転生。わたしは今ビューティフルエンジェルだ。
兄: 、、、ビューティフル。
女: 美しいだろ。
兄: 、、、、
女: キレイって言ってよ!
兄: キレんなよ!
女: いいか、人前に晒されるってのは、
お前らが思ってるよりも勇気のいる事なんだぞ?
兄: 誰に言ってんの?
女: ほら。

女、兄にお面をかぶせる。

女: そっくりだ。
兄: いや、なんかおかしいだろこれ。
女: いんだよ。
兄: 俺に俺かぶせてどうすんだ。俺on俺だろ。
女: ちがう、お前on俺だろ。そっくりだ。
兄: あ、ほくろ、いやいやいやいやいや
女: がんばれよ。
兄: なにを。

女、おもちゃの指輪を渡す

女: 母さんにプロポーズしてくれ。
兄: は?!

女、小林寺的に構える。

兄: ん?
女: 瞬間移動プラス時間旅行!

SEミョミョミョミョミョミョ

女: かー、めー、はー、めー
兄: それかめはめは!
女: 飛んでけ!波あああああ!!!

SEどしゅううううん

女、手をふりながらゆっくり退場。
兄、ひとりマトリックス。

■19お父さんは小説家、シーソー。

照明、夜。

兄: ああああああああ

SE鈴虫の声、夜。

兄: ここはどこだ?
鉄棒、ブランコ、シーソー。
夜の公園。
なんてプロポーズにふさわしい場所だろう。
とりあえず、落ち着こう。ブランコ。

兄、ブランコに乗る。

兄: 男らしく、立ちこぎ。
だめだ難しい。座りこぎ。

座りこぎ。

兄: 展開が早くてついていけん。
妹を怒らせる。
父ちゃんは天使。
俺、母ちゃんを口説く。
、、、だめだ!理解できん!
これは全部、俺の妄想なのかしら?

母登場、小さな紙袋を持っている。

母: 呼びだしてごめんなさい、久光さん。
兄: ああ、なぜ騙されるんだこの人は。

母、シーソーにのる。

母: ま、乗って。
兄: え?
母: ま、乗って。
兄: え?なに?
母: シーソー。
兄: あ、シーソーか。

二人、シーソーに乗る。母、上がる。

兄: どうぞ。次。
母: 久光さん、デブですね。
兄: は?なに失礼なことをさらっと。
母: 釣り合ってなくてギッコンしないです。
兄: あ、そうか。どうすれば。
母: 一つ前に乗ってください。
兄: その手があった。

兄、一つ前に乗る。釣り合う。

母: 打ち明けるかどうか、迷ったんですけど。
兄: うちあける?なにを?
母: 黙ってるのもへんだし。
兄: こうなったらなんでも教えてください。
母: ちょっとショックかもしれないですけど。
兄: もうなんでも受け入れられる気がします。
母: 実はあたし、プロポーズされて。
兄: え?いや、まだしてないですけど。(指輪)
母: これ。

名刺

兄: 名刺?
母: バリバリの営業マンで、
最近会社を立ち上げるって。
兄: 社長さん?
母: 「これからは地下だ」って。
兄: え?
母: それ、その人の名刺。
兄: は!有限会社アンダーグラウンド!
母: 知ってる?
兄: この会社は伸びます。いずれ株式会社になります。
母: え?
兄: なんでもないっす。えっっとつまり。
母: ごめんなさい。
兄: え?
母: モテるんですね。あたし。
兄: わ、自分で言っちゃった。
母: あなたは、夢みる小説家。
兄: 小説家?そうだったんですか
母: あなたは、自称小説家。
兄: え?そうなんですか
母: あなたは、無職。
兄: あちゃー。
母: 悩んだんです、あたし。
兄: どーやら話が見えてきたぞ。
母: だから。よっ

母シーソーから突然降りる。

兄: おう!

しりもちをつく兄。
小さな紙袋からオルゴール。

母: これ、どうもありがとう。
兄: なに?
母: オルゴール。
兄: オルゴール?
母: この前、誕生日プレゼントって。
兄: あ、ああ、あああ、ねぇ、、ああ。
母: お返しします。
兄: へ?
母: 私、幸せな家庭を築きたいんです。
あなた小説書いては雑誌に投稿を繰り返して一喜一憂。
いつもなんだか可愛そうで。つい母性本能がくすぐられて。
でもそれって少し違うと思うんです。
やっぱり結婚って、
経済的な基盤の上に成立すべき社会的共同体系だと思うのです。
兄: とたんに難しいですねぇ?!
母: あなたとおつきあいしているくせに
こんな風に気持ちがグラつくなんて
あたしどうかしてると思うんです。
もしかして私はあなたを愛していたわけじゃなく、
あなたに同情をしていただけなのかもしれないのです。
ほっとけなくて!
兄: なんてスキの無い自己分析!
母: だから、私、あの、
兄: ちょちょちょちょちょ!ちょっとまった!
母: でも、あの、
兄: タンマ!タイム!ストップ!(ポーズをたくさん)

■20タンマタイム

SEカキーーーーん!!!
照明かわる。

兄: あれ?なんだ今の音。
あ、ですからね。
ちょっとついてけてないもんで、
もう少しゆっくりお話を、、あれ?

母、固まってる。

兄: あれ?、、もしもし?、、母ちゃん?

眼の前で手をひらひらする。

兄: 、、、、し、死んでる!!!
女: 死んでねぇよ!!
兄: あ。

女登場。

女: 殺すな勝手に。
兄: だって。
女: おまえすごいよ。才能あるよ。
兄: なんの?
女: エンジェル奥義48手のうちの一つ。
「タンマタイムストップ」を自ら繰り出すとはな。
兄: どこまでくだらねぇんだ俺の頭のなかは。
女: じゃ、がんばれよ。
兄: おい!
女: ん?
兄: このままだとやばいぞ?
女: そうだね。
兄: プロポーズの前に断わられるぞ?
女: ま、いいじゃんそれでも。
兄: どっかの社長と結婚しちゃうぞ。
女: ま、いいじゃんそれでも。
兄: 俺としおり、生まれてこなくなっちゃうぞ?
女: ま、いいじゃんそれでも。
兄: ええ!?よくないじゃん!
女: 特に目標もなく生きてんだろ?ニート。
兄: 俺はともかく、しおりは天才なんだから!
女: ほら、ジャイ子としずかちゃん取り替えても、
せわし君は生まれてくるっていう理論もあるし。
兄: のび太のお嫁さんの話はどうでもいいよ!
女: どらえもんが言ってんだよ?
兄: ぐ、ぐぬう。
女: じゃ、がんばれよ。
俺はまぁ、過去の人だから。
兄: 待て!ちょっと待て!

兄、お面をはずす。

兄: あれ嫌いなんだよ俺!
女: え?
兄: ジャイ子の立ち場がないだろうって思うんだよ。
女: 、、
兄: ジャイ子、一時期、結構のび太の事すきだったし。
女: 、、
兄: のび太だって、嫌々結婚したとは思えないし!
女: 、、うん。
兄: ああ、なんでマンガの話で熱くなってんだ俺。

女、母の手にあるオルゴールを巻きはじめる。

兄: うちに写真ひとつもないけど、
母ちゃん色々考えたんだと思うんだよ。
俺のほんとの予測聞く?妄想!
たぶん母ちゃんは考えた。
俺は、おぼろげにあんたの記憶あるけど、
しおりはゼロ歳だったから、きっとまったく記憶がない。
だからほら、可愛そうだから!不公平だから!
女: でも俺、
別に俺父親らしい事なんもしてないしねぇ。
兄: いや、したよたぶん。
女: なんか覚えてる?
兄: 、、、、えっと、、
女: 覚えてないじゃん。
兄: 、、、いや、、ある。なんだっけ。
女: チャリのことも忘れてるし。
兄: チャリ、、、
女: あれ、唯一父親っぽかったのになぁ。
兄: なんだっけ、チャリ
女: ま、捨てといてよ。
兄: あれ、ママチャリ。
女: じゃ、頑張れよ。
兄: タンマ!タイム!ストップ!
女: だめだめ。
兄: ヒントくれよ。
女: タイムアップ。
兄: ちょっと待てよ!

女、ゆっくりと退場。

ここから先は

2,435字

¥ 100

たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。