四人芝居『アイドゥーアイドゥー』

四人芝居『アイドゥーアイドゥー』作すがの公

<あらすじ>
雪の降る田舎の色街の子供らにおばけ屋敷と噂される家。その屋根裏で、耳の聞こえない弟はゆり椅子にゆられながら、ずっと絵を描いている。兄は賭け事を仕事と呼び、弟を邪魔にしながらも弟の絵を売っている。女は優しい娼婦で、兄とは1ヶ月前にこの街で会った。女は弟の耳をモグリの医者に治してもらおうとする。モグリの医者は「普通の人になるがいいのか?」と女に聞く。

<登場人物>
弟白。耳が聞こえない。屋根裏に何年もひきこもり。父親と同じく絵を描く。
兄黒。賭け事を仕事と呼ぶ。金が欲しい。弟がじゃまで屋根裏に住まわせてる。
女赤。兄の女。娼婦。優しい。幸せになりたい。1ヵ月前にこの街で兄と会う。
医師灰。モグリの医者。弟の耳を治している。兄を憎んでいる。鼻の軟骨が無い。

<舞台>雪の降る田舎の色街。
子供らにおばけ屋敷と噂される家。屋根裏部屋。上からはだか電球。
上手に斜めの壁。そこに窓。深く暗い色の壁。
下手に降り口、階段。木の手すり。作業台。上に酒の瓶。
上手手前、一番天井の低いあたりにテレビ。
真ん中にゆり椅子。その前に絵を描く三脚
サイドテーブル。上に画材。くれよん。
床にちらばるたくさんの絵。

<客入れ>テレビの明りと、窓からの月明りに照らされた
ゆり椅子だけがはっきり見える。
客入れ最後の曲があがり、客電暗くなる
テレビの電源と曲が突然切れ、
今まで聞こえてなかったテレビのノイズ。
SEサアアアアアアアアアアアアアアアアア
月明りが強くなり、誰も座ってないゆり椅子が一瞬揺れ、舞台暗。
音楽。

■1、オープニング。絵本。

音楽の中、弟、ゆり椅子に座り、その絵本を楽しそうに描いている。
1★プロジェクターでうつる絵本の映像。
「絵本。色を探しに、ぼくはたびに出た」
窓の外に歓楽街のネオン。
ピンク、黄色、緑。人工的なネオンが瞬く。

■2、朝

朝。チュン、チュンチュン。朝日。
ゆり椅子で寝ている弟。
両方の手首に黄ばんだ包帯をしている。
見るからに娼婦の女、
テーブルにパンと牛乳を用意している。
壁の下のペンキに気付く。

女:今度は白くする気なのかな?壁。
今日中に塗ってくれないかな。
ラッキーカラーは白だって朝のテレビが言ってたし。

壁、手の届く範囲で白くなっている。
弟はよく壁の色を手の届く範囲で塗り変える。

女:風邪ひくよ?

弟をゆらす

女:おきない。

女、弟の顔を軽くひっぱたく

女:かぜひくよ!!

女、弟の顔を強めにひっぱたく

弟:?!??!!!
女:おはよお!

女、ジェスチャーで話す。

女:おはよお!いい朝!いい朝だね!朝!

女、頑張る。女、頑張る。女、頑張る。
が、全然通じない。弟、ぼやぼや笑っている。

女:無理かぁ。手話くらい覚えれたらいいのにね。

階下より兄の声

兄:おい!こっちの飯まだか!!
女:あ。はーい!
兄:てめえ捨てるぞ!
女:今行く!あ、食べてね!!
ちょっとカビてっけど!

女、元気に階段を降りていく。
弟、一人で本当にカビかけているパンを、
牛乳につけておいしそうに食べる。
食べながら、「隠し場所」に向かう。
屋根の壊れた場所から描きかけの絵を出す。

弟:♪

舞台下手に作業台。
そこに作りかけのいびつな額縁。
トンテンカントンテンカン

弟:♪

トンテンカンガンガンガンガン!

兄が上がってくる。弟の肩をつかむ。
弟、初めて気付く。兄、暴力を振るう
女が慌てて上がってくる

女:やめてよ可愛そうでしょ?
兄:こいつが意味わからねぇからよ!
女:仕方無いじゃない、耳聞こえてないんだから!
兄:むかつくんだよ!
女:仕方ないじゃない、頭おかしいんだから。
兄:金にもならねぇもん描きやがって。黙らせろ。
女:自分の弟でしょ?

女、トンカチを取り上げる。

弟:?
兄:お前が面倒みるんだよ。この家にいたけりゃ。
女:、、、。
兄:よこせ、昨日のアガリ

女、金を出す。

兄:少ない。
女:、、ごめん。今日先生くる日だから
兄:あ?今日もくるのか。医者。
女:うん。週にいっぺん来てくれるって。
兄:勝手な事してんじゃねぇよ!
女:でも、治るかもって
兄:治らねぇよ!モグリの医者に何がわかる?
女:いいじゃん。あたしの稼いだお金なんだから。
兄:それもよこせ。軍資金だ。
女:、、、。
兄:なんか言いたげだな
女:、、賭け事ばっかり。
兄:仕事だ。
女:、、、。
兄:来い。

兄、女をベッドに連れていこうとする。

女:嫌だよ。
兄:客とは寝れて俺とは寝れねぇってのか?
女:下行こうよ。
兄:ここでいいんだよ。
女:でも、いるし。

女、弟を見る。

兄:ちっ、おい。
弟:(気付いてない)

なんか投げつける。

弟:?

兄、アルミボトルのウィスキーをちらつかせ、

弟:♪

兄、階段へ投げる。
ガコ、ガタガタ、ゴトン、
弟、それを取りに退場する。

兄:俺はしあわせにしてやるよ?
女:じゃー、結婚してくれる?
兄:1ヵ月前に転がり込んだ30過ぎの売春婦と?
女:、、、、、、、、、、、、、。
兄:おまえしだい
女:、、、、。

女、自分からベッドへ向かう。
二人、シーツをかぶる。

SEギィ、ギィ、ギィ、ギィ、ギィ。

弟、すぐに戻ってくる。
二人をまったく気にしない。
弟、ゆり椅子に座り、女の絵の続きを描く。

2★プロジェクターの続き
「あの子にであった。プレゼント探そう」

■3、昼

女、そのままベッドで寝ている。
絵をかき続けていた弟。
女の様子を見に行く。

弟:、、、、

さっき貰ったウィスキーの瓶を
水を飲むかのように飲む。

医者:いますかー。
上がりまーすよー。

弟、なににも気付かずにグビグビ飲む。
往診セットを持った白衣の医者上がってくる。

医者:あーーー!

医者、ウィスキーを取り上げる

医者:酒は駄目だって言ったろ。
弟:ヒック

医者、テキパキと脈、新音、舌を診る
そして、ペンライトで耳を覗き込み

医者:こっちはひどいな(左側)
弟:?
医者:こっちは、どうだろ。
弟:、、

医者、手帳を取り出す。
そこにアメリカンジョークが書いてある。

医者:アメリカンジョーク。
フセインが電話で言いました。
「この前のハリウッド映画に
アラブ系俳優が出てないのは差別じゃないか」
ブッシュはいいました。
「いいんだよ。あれは未来の話だから」
弟:、、、、
医者:アメリカンジョーク。
「やあジャガー君、そのノートは何だい?」
「やあレノン君、これは『うっぷんノート』さ。
どうしても我慢ならない奴に会った時、
悪口を書いてうっぷんを晴らすのさ」
「へぇそれはいいアイディアだ。で、今は何を書いてるんだい?」
弟:、、、、
医者:、、反応なし(手帳に書く)
弟:、、、
医者:売春婦は?売春婦(ジェスチャー)女の、、ひとー。、、駄目か。
弟:ヒック
医者:ああ、、しゃっくり。

見つめあう

医者:、、、、帰ろうかなぁ。

医者、タバコを吸おうとポケットから取り出す。
弟、飽きてパンの残りを食べだす。

医者:あ。またカビたパン喰ってる。貧乏っ。
弟:、、、、
医者:すっかり頭おかしくなっちゃって。
弟:(食べる?)
医者:(首をふる。)
弟:(食べる?)
医者:緑色じゃないか。

弟、女の絵をとりに行く。

医者:手くび、包帯増えてるし。
キチガイでも死にたくなるのかなぁ

絵とカナズチを持ち「隠し場所」に向かう。
医者、途中で奪う。

医者:どら。あ、まともじゃんこの絵だけ。誰この女?

弟、気にせず取り返し、隠す。

医者:おまえ、先に治すの頭だろ。耳よりも。

タバコに戻ろうとすると、寝言が聞こえる。

女:「誰だ、授業中に居眠りしてる奴は」
「やーい、先生が寝言いってらぁ」
医者:、、、、、、という寝言か?
女:花に嵐のたとえもあるさ、
さよならだけが、、、なんとかだ。いいな。
医者:良くないよ。人生だよ。なんだ、居たのか、、、、。
女:スピースピー
医者:(弟に「しー」のジェスチャー)
弟:?

医者、起こさないようにシーツを持ち上げ、
足元からじょじょに覗く。
弟、手をすべらせてカナヅチを落とす。
ゴン!

医者:なんで!!

女、起きる

女:なんだ!!
医者:別に!別になにも!異常なし。
女:あ、先生っ!ごめん、寝てた。
起こしてくれれば良かったのに。
医者:いやいや、チャンスだと思って。
女:え?
医者:間違った。せっかくだからと思って。
いやいやちょっと見せろと思って。
女:なに言ってんですか
医者:ほんとうに、なに言ってんだろうね。
女:あの、治療ってもう終わったんですか?
医者:あ、うん。
女:どうですか?
医者:どうってことないよ。
女:え?なんですかそれ。
医者:ま、ちょっと落ち着こう。心臓。僕の。
女:あ、じゃ、なんか飲みますか?
医者:あ、じゃぁ、お茶を。
女:あ、お茶ないや。
医者:あ、じゃぁ、聞かないで。
女:あ、お湯なら
医者:あ、じゃぁ、お湯。お湯?

お湯をポットからいれる。湯気。
少しその様子を眺める医者。

女:あ、どうぞどうぞ。

椅子をすすめる。

医者:あ、どうも。
女:さいきんずっと寝不足で。昨日も遅かったから、仕事。
医者:、、ああ、夜の仕事だもんね。
女:夜じゃなきゃ無理。もう年だから。
ただでさえお客さんつかないのに
昼だったら小ジワでバレちゃう。
医者:いやいや、そんな年でもないでしょうに。
女:わー、お世辞でもうれしい。
じゃ、買う?今なら安くしとくけど。さ、脱いだ!
時間外営業ってことで。こんくらい。いや、こんくらい
(指で金を提示。どんどん安くなる。)さ、買った!
医者:あの、そんなに自分を叩かない方が。
女:プライドが無いって事には自信があるの。
医者:あるんだか無いんだかだね。

弟、ベッドに向かう。

医者:あ。

弟、寝る。

医者:寝た。朝なのに。
女:夜の方が好きみたい。はい。
医者:ひきこもりの典型だな。あつっ!
女:お湯だから。
医者:お湯っつーか熱湯だねこれ。
女:片付けるチャンス。

女、部屋を片付けている。

医者:大変だね。
女:起きてる時片付けられるの嫌いみたい。
医者:嫌にならないの?
女:え?
医者:赤の他人の弟にそこまでしてやる事あるのかなぁって。
女:あたしが面倒みる係だから。
医者:昼はつんぼの世話、夜は娼婦。
あいつ、その金巻上げてスっちゃうわけでしょ。
この街に来て、奴と出会ってまだ1ヵ月でしょ?
いいのそんなんで。
女:いいの。家に、置いて貰ってるし。
医者:即答なんだ。
女:いろんなとこ渡りあるくのも疲れたし。
そろそろ落ち着きたいし。
先生、ずーっとこのへんに住んでんでしょ?
同じ所にずっといるのって嫌にならない?
医者:嫌になるよ。でもたまに面白い事もある。
女:面白いこと?
医者:まさか、おばけ屋敷に週一で通うことになるとは思わなかったし。
女:あ、ここ?
医者:今でもおばけ屋敷って呼ばれてるよ。
色街にこんな屋敷って変でしょ?夜とか怖かったんだー。
エロいネオンに古い屋敷がぼやっと照らされてさ。
女:そうなんだー。
医者:小学校ん時は相当イジめられてたらしいよ、奴。
この家に住んでるってだけで。
女:あの人、昔、どんな感じだった?
医者:どんなって。
女:一緒にここで育ったんでしょ?
医者:ああ、今と変わらない。
女:いくつ違い?
医者:3つか4つ
女:そっかぁ(嬉しそう)
医者:嬉しそうだね。
女:だって好きな人のこと、知りたいでしょ

医者、不満気。

医者:まさか屋根裏があるとはしらんかったなぁ。
ちょうど下から見えないんだ、その窓。
その屋根裏に「芸術家」の息子さんが
何年も居たとはね。
てっきり死んだと思ってたよ。弟も。
ごちそうさま。
女:あ、お金。

女、コップを受け取り作業台におく

医者:父親も「芸術家」だったんだよ。

女、医者に背を向けて靴を脱いでいる。

医者:近所じゃ有名人だったんだよ。変人で。
屋敷残して自殺したんだ。

医者、女の足を見ている。

医者:自殺の原因は女。

女、ボロい靴の中からお金を出す

女:ちょっと足りないけど、
来週まとめて払うから。
医者:先週も聞いたな。
女:大丈夫、あたし今週金運いいの。
医者:占いなんか信じてんの?
女:うん。

医者受け取り
帰り支度をしながら。

医者:悪いお知らせ。弟の耳の手術はかなりお金がかかる。
いい知らせ。手術すれば右の耳だけ聞こえる。
女:、、ほんと?
医者:モグリだけど医者だから。どうする?

女、考える。

女:治ったら嬉しいよね?
医者:誰が。
女:あの人。
医者:さぁ、嬉しいんじゃない?

女、医者の手をとる。

女:お願いします!ぜひ!
医者:うれしそうだね。
女:好きな人が喜ぶのって嬉しいじゃない?
医者:まだ全然知らない奴なのに?
女:運命の人だから。
医者:運命?
女:うん。
医者:それも占い?
女:、、、、
医者:お金あんの?

医者、女の手にのせる。

女:?
医者:僕でよけりゃ、相談のろっか?
女:なんか、怒ってる?

医者、メモ帳を出しサラサラと金額を書く。
やぶって渡す。

医者:少なく見積もっても、これくらい。

結構な額。

医者:無理でしょ。

医者ツカツカと退場しかけ、

医者:あ、医者の息子から金を巻上げるような不良だったよ。
女:え?

医者、鼻を指差し

医者:殴られすぎて軟骨なくなったんだ。鼻。
何年経ってもたまにうずく。
国家試験落ちたのはそのせい。
女:、、、、

階段をおりていく。

女:あ、どうもありがとうございました!

女、慌てて手すり越しに挨拶。

女:、、、、。

部屋に飾ってある額縁に行く。
裏から出てくる、
ゴムで止められた札束がビニール袋に入ってる。
それを作業台に並べて数える。
頭が悪いので、
全部並べてみないと数えられない。

女:いち、にい、さん、し、ご、

日本円を赤で印刷した不思議なお札
女、再びメモに目を落とし、

女:、、あ、、あとちょっとだ。

弟を見る。寝てる。

女:治るって。喜ぶよね。

金額縁に戻し

女:さ、仕事仕事。

弟、起き上がりテレビをつける。
テレビのノイズ。
音は聞こえない。
画面に食い入るようにテレビを見てる。
たまに酒を飲む。
日がかたむき、夕方になる。

■夕方。

医者、あがってくる。

医者:忘れ物して、、、

弟に気付く。
タバコをみつけてポッケにしまう。

医者:なに見てんだ?

医者近寄る。
弟、酒を飲もうとする。
医者、乱暴に酒を奪う。

医者:だから飲むなって。

弟、構わずテレビを見てる

医者:あたまに来る奴らだ。

医者、その酒を飲み、テレビを見る。
固まったようにそのままの二人

兄があがってくる。

兄:なんでいるんだよ。
医者:あどうも、忘れ物しちゃって。帰ります。

医者、テレビを消す。

医者:こんど、目悪くするよ?目!それじゃ。
兄:今日いいっつったろ。金ねぇんだよ。
医者:あ、いただきました。
兄:あ?
医者:女の方から。
兄:どっかに溜めこんでんな。あいつ。
医者:ままま、あまり詮索しない事ですて。
女に体売らせてるんだから。
兄:モグリの医者がうるせぇよ。
医者:はいはい。退散退散。
兄:おい。
医者:、、、

医者、嫌な予感がする。
兄、トランプをみせる。

兄:勝負。イカサマ無しだ。
医者:また。
兄:友達だろ。

■4、夜

暗の中、
ゆっくりとはだか電球がつく。
二人、トランプをしている。
弟、同じ場所にいる。すでに手首を切っているが、
光りを背にしているのでよく見えない。

兄:くそっ。もっかい。
医者:もうスカンピンじゃないですか。

医者、賭け金らしきものを総取りする

医者:吸います?リラックスリラックス
兄:それより、薬持ってねぇか?
医者:どっか悪いんですか
兄:イラつくんだよ。
医者:ああ、

カードを配り、賭け事の続き

医者:安定剤なら。安い奴。

錠剤の小ビン

兄:よこせよ。
医者:(ひっこめる)予算かかってますからいちお。

兄、足もとの弟の絵を渡す。

兄:ほら、芸術。これで勝負。
医者:芸術ですかこれ?
兄:同情しろ。つんぼの描いた絵だ。
医者:あー、そういう見方もあるか。
兄:どういう見方よ。
医者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ?
兄:誰だよそれ。
医者:ルードヴォヒ・B・ベートーヴェン
兄:なんだよ
医者:大昔の芸術家。と並べるには価値ないか。
兄:一枚につきひとつぶでいい。
医者:ま、いいですよ。価値の無いもの同士。

配りはじめる。
弟、テレビをつける。
画面に赤いもの。弟の血。
テレビのノイズは聞こえない。

兄:うるせぇよ!ったく、、キチガイが。
医者:なに見てんですかアレ
兄:知るか。

トランプを見ていて気付かない二人。

兄:ほら、勝負だ。

絵をテーブルに足す。

医者:強気ですねぇ。
兄:いいか?あけるぞ。
医者:はい、また勝ちです。
兄:もっかいだ。

テレビのノイズ、
薄れる意識とともにフェードイン
SEサァアアアアアアアアアアアアア
ゆり椅子にゆっくりと持たれかかる弟。
はだか電球の灯りが消えていく。
テレビの明りを残す。

3★プロジェクターの続き。
「せかいを旅した。いろんな色がある」

■5、夜中

夜中になる。ネオンの明り。
包帯を持った女が駆けこんでくる
テレビの前でぐったりしてる弟

女:、、何考えてんの

血のついたテレビを見る。

女:、、、

テレビを消す。
ゆり椅子に座らせる。
手首の包帯を取り替えながら、

女:死にたいってこと?ねぇ?
そういうこと?生きてくのつらいってこと?
弟:、、、、、
女:じゃ、殺してあげようか?
弟:(力なく笑う)

女、平手うち。

女:、、笑わないで。
弟:、、、、、、
女:バカにしないで。
あたしだって生きてる意味しらないけど。
価値ないけど。
あたしなんか死んでも
誰も気付かないって思うけど。
これでもいっしょけんめい生きてんだから、
、、バカにしないで。

兄、よっぱらって帰ってきた。

兄:おう!あるじが帰ってきたぞ!
祝杯だ祝杯!酒!
なんだ?電気つけろよ電気!
ケチケチしねぇでよぉ。
女:それどころじゃないって!

兄、電気をつける。

女:またやったよ。
兄:え?
女:手首。
兄:死ぬ?
女:、、大丈夫。血止まってたから。
兄:あ、ならいいか。
女:今日居たんじゃないの?
兄:あー、気付かなかった。
女:たまに様子見に来てあげなよ。
兄:おめえが面倒みる係だろ。
女:もうちょっと深かったら死んでんだよ?
兄:死ななかったんだろ?
女:死んでもいいの?!弟でしょ?!
兄:まぁそう怒るな。セーフだったんだから。
女:心配じゃないの?
兄:なに怒ってんだよぉ。
女:、、、、
兄:機嫌治せ、おっかながってんだろー弟もよぉ。
女:、、、、

女、今日のアガリを渡す。

女:、、今日のアガリ。少ないんだけど。
兄:あ、あーあーいらんいらん、そんなはした金。
女:え?
兄:それどころかよ。

ポケットから香水のビン。リボンつき。

兄:つけろ。いい匂いだ。
女:、、どしたのこれ、、
兄:どら。

兄、突然手首をひっぱり電球の下へ

兄:おお、つんぼできちがいのリストカットか。
いいぞいいぞ。思う存分切りまくれ。
女:?
兄:おまえ、頭おかしいのに死にてえとか思うんだろ?
それを世間は芸術と呼ぶわけよ。

兄、ぞんざいに再びゆり椅子に座らせて
絵の道具をてきとーに揃える。

兄:ほらほら、酒も飲め飲め。グっといけ。

新しい酒をのませる。

兄:薬もいるか?あ、いらねぇか。
まともになられると困るんだった。
さぁお絵描きしろ。芸術は金になる。

兄、札束を渡す。

女:どうしたのこんなに?
兄:字かけるよな?
女:いちお、、
兄:こいつの絵にお前こいつの名前サインしろ。
その金で額縁買ってこい額縁。
そんでこいつの絵全部いれろ、ていねいに扱えよ?
ま、破けててもいいか。

兄、ゴミ箱の絵も拾っている

女:ねぇ、どしたの?ちゃんと説明してよっ
兄:、、、売れたのよ!
女:、、、売れた?
兄:医者よ医者。こいつの絵をよ、
あいつの知り合いのディーラーに見せたらよ。
売れたのよ!はやいとこそいつにごっそり渡すんだよ。
そんな金じゃすまねぇぞ?
早く行け!近くの画材屋、叩き起こせ。
なにぼけっとしてんだよ。
もっと嬉しそうな顔しろよ。
女:これ売れるの?!
兄:だからそうだって言ってんだろバカ
女:価値あるの?
兄:値段聞いたらおまえ目ん玉飛び出すぞ?

女、弟に寄り。

女:価値あるって!わかる?!
弟:?
兄:いやー金持ちの趣味はわからねぇ。
こんなもん1枚でその金だぞ?大金持ちだ!
女:大金持ちだって!
兄:やっぱ人生がバクチなんだよなぁ
チャンスをモノにする男なんだよ俺は。
女:ねぇわかる?これ、価値あるんだって。
兄:おまえも売春婦なんて足洗え!
女:ほんと?
兄:ちゃんと考えてんだよ俺は。
女:すてき!
男:その年じゃお前も落ち目だろ?
春売ってんだか冬売ってんだかわかんなくなる前によ!
あ、俺うまいこと言ったなぁ!
女:ムカつく!けどすてき!!
兄:幸せになるチャンスだ!!
女:しあわせ
兄:俺は幸せにするって言ったろ?
女:、、、

音楽聞こえてくる。
女、兄に抱きつく。
弟、にこにこそれを見ている。

女:良かったね!
価値あるんだって!
だからもう、死のうとしなくていいからね!
これで、みんな幸せになれるね!

4★プロジェクターの続き。
「ぼくは、たくさんの色を手にした」

音楽のなか。
医者が出てきて、
お金を持ってきて
それをうけとって、
また絵を渡したりして
金をパラパラ落としたりして、
それを拾ったりして、
皆、大喜び。

明り、弟を照らす。

幸せそうに絵を描いている。
ふと、彼女へのプレゼントを思いだし、
カギを花瓶の下から取りだし、
台になっていた宝箱を開ける。
彼女へのプレゼントの絵。
絵を描き始める。

舞台暗

■6、雨

テレビのSEかと思いきや、雨音
ザアアアアアアアアアアア
医者、たばこを消した所。
女、また掃除をしている。
弟がいない。

医者:雨は夜更け過ぎに、雪へと変わるそうですよ
女:え?なんですか?
医者:雪ふるって話。
女:お茶いれましょーか?
医者:あ、どーも。

医者、お茶を入れる女を眺める。

医者:変われば変わるもんですね。
女:なんですか?
医者:物腰というか。立ち振るまいというか。
なんかますますいいなぁ。
女:あ、あたし?
医者:お金って必要なんですね。
女:ええ、そりゃもう。喧嘩もしなくなっちゃって。
医者:宝くじ当たったら人生変わるってほんとだね。
たった一週間で激変。
女:どうぞ。
医者:どうも。

医者、お茶を飲む。

女:先生のおかげで絵も順調に売れて。
ここも引き払うって。

女、降り返ると、少し強まる雨音
少しまたたく、はだか電球。

医者:次は運命の人と結婚。
女:それは、まだ。
医者:?
女:、、ほら、今赤ちゃん出来たら誰の子か怪しいし。
医者:ああ、売春婦だもんね。一週間前まで。
女:あたし、親子とかよくわかんないから、ちゃんとしたくて。
医者:でも、夢はふくらむねぇ
女:あ。

女、額縁の裏から札束を取り出す

女:よろしくお願いします。(礼)
医者:、、娼婦やりながらコツコツためたお金。
奴の弟の治療なんかに使っていいの?
女:使っちゃいたいの。
もう過去の事にしたいの。
医者:、、、、
女:いいの。結婚したら、あたしの弟だし。

医者、いちお受け取る

医者:彼、最近帰ってきてる?
女:忙しいみたい。お仕事。
医者:なにしてるって?
女:夜は、絵の値段交渉してるって。
医者:じゃ、気付いてないでしょ?
弟が、昨日からいないこと。
女:そうなの!にぶいよね。
でもチャンス。
帰ってきて、耳聞こえるようになってたら
おどろくねきっと。
医者:、、そりゃ、おどろくと思うよ。かなり。
女:そして、喜ぶね、きっと。
医者:喜ぶかなぁ。
女:、、え?
医者:右耳の後ろに血溜まりがあって、
それが脳を圧迫してるから、
その血を抜けば、脳味噌もまともになるかもしれない。
女:ほんと?
医者:うん。
女:すごい!
医者:どういう事かわかってる?
女:普通になるんでしょ?
医者:そう、普通になるんだよ。
女:すごい!先生天才!
あの人もおお喜びすると思う!
医者:バカだ君は!
女:、、、え?
医者:治すよ。いんだね?
女:、、、、はい。
医者:どうなってもしらないよ?

医者、札束を懐にいれる。

女:あの、、どういう意味ですか?
医者:言ったろ。普通の人になる。

兄、上がってくる。

兄:雨はふるわ、傘はねぇわで散々だ。
、、なんでいるんだよ。
医者:おじゃましました。

医者、退場する。
兄、それを見てる。

兄:なんだあいつ。
女:おかえり。早かったね。
兄:あのよ。金あるか?絵でもいいや。
女:お金?
兄:ちょっと入り用でな。
女:、、また賭け事?
兄:仕事仕事。
女:ないよ、お金。
兄:じゃ、絵でいいや。
女:絵もないよ。
兄:なに?最近あいつ描いてないの?
女:なんか気付かない?
兄:なに?
女:なんか、変わったこと気付かない?
兄:別に。汚ねぇ屋根裏だ。
女:誰かいなくない?
兄:、、あ、芸術家の愛しの弟がいない。
女:どこ行ったでしょうー。
兄:トイレか?風呂?なんだかくれんぼか?
女:いひひひ
兄:もったいぶらないで教えろよ。
そんで一枚てきとーにかかせろ。
女:知りたい?
兄:知りたい知りたい。急いでんだよ。
女:実は、検査入院してるんだよ。
兄:え?

雷。ピカッ、ゴロゴロゴロ
再びまたたく、はだか電球。
強くなる雨。ザアアアアアアアアアア

少し、光りが弱まる

兄:、、なんだって?
女:耳、聞こえるようになるんだよ。
兄:、、、
女:先生が言うには、
耳んとこに血のかたまりがあって、
それ取ると、頭もまともになるんだって!
すごいでしょ?
あたしのヘソクリで治すの。
びっくりした?
うれしい?!ねぇ!

暴力

女:!!
兄:なに勝手な事してんだよ!
女:なんで怒ってるの?!
兄:おまえにはわかんねぇ!
女:、、よくわかんない。ごめん、
教えて?なんで怒ってるの?
兄:バカにはわかんねぇ!

作業台を蹴る。目の前にカナヅチ
兄、錠剤をかみくだく。

女:なに飲んでるの?
兄:、、、、、、あ。
女:なに?
兄:、、なんであいつ止めねぇ。

兄、カナヅチを持つ。

女:え?
兄:あの医者がそそのかしたのか?
女:、、、え。
兄:あの医者に何言われた。
女:何も言われてない。

作業台をカナヅチで叩く。ガン!!

女:!!
兄:嘘つくな
女:うそなんかついてない
兄:鼻のうらみか?
女:、、はな?
兄:そういうことか?
女:ねぇ、どういうこと?

作業台をカナヅチで叩く。ガン!!

女:!
兄:俺がきいてんだ。
女:、、、ごめん
兄:何言われた?
女:だから何も言われてないよ。
兄:全部きいたのか昔のことも。
女:昔?昔ってなに?
兄:おやじの自殺のことも?
逃げたおふくろのことか?
弟の右の耳のこともか?
俺の事も?
女:ねぇなんの話!?

作業台をカナヅチで叩く。ガン!!

女:!!
兄:あ、今怯えた。
女:どうしたの?
兄:こいつ頭がおかしいと思った。
女:思ってない。
兄:おかしいと思ってる
女:思ってないよ
兄:幸せにするって。
信じてねぇのかお前も。
女:信じてるよ。
兄:信じてない。信じてたら俺を見て怯えない。

作業台を叩く、ガン!!

女:!!(ビク!)
兄:おびえた
女:ちがうよ?
兄:検査入院って事は、
まだ手術してないんだよな。
女:耳、治った方嬉しいでしょ?
兄:うるせぇ!!
女:だから、、どうして怒ってるの?
兄:絵が売れなくなるんだよ!!
女:、、どういう意味?

★5プロジェクター
「怖い絵、怖い絵、怖い絵、」

ザアアアアアアアアアアアアアア
雨が再び、強くなる。
雷。
ピカッ、ゴロゴロゴロ

停電。暗。

女:、、あ、、、停電、、、
なんか、灯り、、

暗の中、医者の声。

医者:そんな事だろうと思って。
女:、、、先生?
医者:聞くとこに聞いたらこれがまた有名でさ。
2代続いてるキチガイ画家。
それでディーラーとわたりがついたわけ。
女:、、?
医者:あー、やっぱまだ飲み込めてない?
じゃあいつがなんで弟の耳治したくないか教えてあげる。

ジッポの火。

医者、絵を一枚持ってる。

医者:これ、どう思う?
女:え?
医者:価値ある?
女:価値とかそういうのわからないけど、いいと思う。

絵をぐしゃぐしゃにする。

医者:どこがいいんだよ。
女:でも、でもね。よくみるとね。それ、物語になってるんだよ
医者:こいつの兄貴はそれバラバラにして売っぱらってるけど?
女:、、、、、、
医者:絵にも物語にも価値は無し。
じゃなんで金持ちに売れるか。
つんぼでキチガイのの絵だから、
金持ちが面白がって買うわけさ。
もっぱらの噂は、絵の評価なんかじゃない。
キチガイは遺伝するかって話題だ。
女:、、、
医者:やっと飲み込んだ?
こいつの耳と頭治したら、金入ってこなくなるんだよ。
女:、、、
医者:残念だね。
女:、、、そっか。
医者:どうする?
なおっちゃうよ?
なおったら逆戻り。
女:、、そっか。
医者:そっかってなに?
女:でも、治るんでしょ?
医者:、、え?
女:、、、じゃ、治った方いいよ。
医者:それで?金は?
女:あたし、体売る。
医者:、、、、それも運命の人のため?
女:うん。

火を消す。

椅子を蹴る音。ガン!!!

女:!!
医者:いい加減にしろよ!

じょじょに目がなれてくる

女:、、、、
医者:人がせっかく助けてやろうってのに、なんだ。
そろそろ目さませよ。
あんな奴のどこがいいんだ。
女:だって、、
医者:あんたどこまでバカなんだよ
悲劇のヒロインきどってんの
じゃやっぱ同情してんの?
同情してっからそんなに我慢強いの?
ずっとそやって生きてく気か?
こんな屋敷じゃ幸せになんかならない
理由はいくらでもある。
面白い話がある。
変人画家の親父さんは手首切ったの。
屋根裏のゆり椅子の上で。

雨音、しずかに聞こえてくる。
サアアアアアアアアアアアアア

医者:でも、おかしんだよ。
その時居たんだってよ。息子ふたり。
想像してよ。自分の親父が目の前で手首切って血ながして
死ぬの黙って見てたって事だよ。おかしいだろ?!
普通だったら止めるだろ?
やっぱきちがいは遺伝すんだ。
兄貴も頭がおかしいんだよ。
女:そんな事ない!
医者:あいつずーっとクスリやってんのしってる?
クスリ喰ってる時が機嫌いい時で、
機嫌悪い時はまたクスリ喰うの!
たぶんそうしないと頭おかしいから保てねぇんだよ。
女:違う!
医者:だってあいつの仕事はトランプだよ?
トランプって子供の遊びだろ?
近所のやつら不憫に思ってガキの遊びに
つきあってやってるだけだから
女:もう悪く言わないで。
医者:悪くなんて言ってねぇよ。事実を言ってんの
女:ききたくない。

女耳をふさぐ。
医者、その手を無理やりはがす。

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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。