馬花 98 MOTHER
おじゃまします
面目躍如、誇らしげな表情でウサポが子供たちを引き入れた
娘がいる
この両腕の届く位置にいるのは、
赤子の時、
3ヶ月で手放してしまった
10年の月日が経っていた
あのヒトリボッチの男に娘を託した
私が執りなした決定なのに
なのに
アイツを恨んでしまった
私はいつも、うまくいかない
ミコルENからは
ミコルの他に
4天王からイシス
20団員の1人プルマ
そして
ミコルの左腕ロオド
右腕にはHANAがいるが
ツッパリスタイルで子供たちが怖がるといけないので遠慮してもらった
コワモテの見かけによらずスーパーが好きで、新鮮な野菜や鮮魚を見たりすることが趣味だった
しかし、いつもじゃがりこを買ってくる
「い、いはっしゃい」
声が震えた
いつも毅然とした態度のミコルが動揺した
四天王の中でも、あらゆる面において能力最上位のイシスがフォローする
「どうぞこちらへ」
3人の子供たちはリビングへ招かれた
「うわぁ」
お淑やかを決め込んでいたアユラが、本当の声を発した
そこは、ヨーロッパ調の家具、とりわけ北欧ブランドで揃えられたような煌びやかな世界だった
「うわぁ」
アユラのあとにユーリが続いた、声はユーリが視線した大きなスタンド鏡に反響して部屋を包むようだった
ルチカは注意深く部屋の中を見回した
(よく来たわね)
うまく声が出ない
ミコルは明らかな己の変調に焦りを感じた
「どうぞこちらへ」
イシスが場を取り持って、3人掛けのダークブラウンのソファへと誘う
大所帯のミコルENにはレトロ感を醸し出す木目のテーブルを中心に3人掛けのソファが4つ置かれている
子供たちがソファを背にして、左からユーリ、アユラ、ルチカの順番に座る
対面のソファに左からミコル、イシス、プルマが座った
ミコルの前にはルチカ
アユラの前にイシス
ユーリの前にはプルマ
ミコルは避けた
あの娘の正面に腰を据えてしまっては、私の尻は大量のボンドを罰ゲームで仕掛けられたようにベッタリとソファと一体になって、全ての行動を奪ってしまうだろう
ミコルが平常心を失っている様を自然と察知して
左腕のロオドがウサポの耳と耳の間を撫でた
「よくやりましたね」
「シッシ^_^」
早くミコルに褒めてもらいたい
プロタゴ軍団 20名
四天王 4名
ロオドとHANA
ミコル
もう一人ヨーロッパに修行中の人間が1人いる
計28名
世界の片隅の存在の者たちは皆がフォロー仕合い
生きている
・・・・
心情察知能力
プルマが震えている
心、とりわけその場にいる最も上位の者の心の状況が連動して出てしまう
プラマはそんな能力があって、この場ではミコルの心が伝わる
ミコルは緊張を必死で隠し取り繕うが、プルマが震えてしまう
ミコルENの民はプルマの様子を確認して、ミコルを知る
喜びも隠せない
・・・・
「ウサポの友達でしたね」
イシス
「うん、私のクラスに転校してきて。ね、ウサポ!」
「うん、アユラちゃん!」
上機嫌に跳ねた
「そちらのお嬢さんは」
「こっちはユーリで4年生、こっちがルチカ5年生」
真ん中に座っている2人が言葉を交差する
「そうですか。ウサポから聞いておりますが、皆さんハミルENのお子さんということで」
「そうそう、私たちはみんな生まれた時から一緒だから」
アユラが落ち着いてきて、少しばかりの余裕が生まれた。質問を返す
「みんなは?」
「うん、そうですね。私たちはみんなバラバラでしてね。そちらのミコルさんが我々を救ってくださってね」
「ふーん、そうなんだ」
ミコルがまだ落ち着かぬ面持ちで、左の口角を引き攣り上げた
「救うって」
言葉が刺す
「えっ」
ミコルは虚を突かれた
「えぇ救うっていうのは、我々は寂しい存在だったんですよ。それを1つにしてくれたんですよ。1人ずつが集まれば集合体になって寂しさは解消されるのは当然なんですけど。言うのは簡単で。実際にそれを実行する人間が必要なんです。我々には、なんて言いますかね、指導力とか推進力とか言いますかな、持ち合わせてないから可能ではないんです。
可能かつ事を為せる人物と出会えるかと言う」
イシスが落ちかけた我々を掬い上げた女の解釈を講じた
「優しさだろ」
えっ
「根底にあるのは優しさだ。リーダーシップとか主導力なんか言うのは二の次の筈だ。企業とか組織ならそういう資質が問われるだろうけど、此処が築こうとしているのは家族だから、優しさであり、MOTHERの器で皆が乗れる受け皿になること」
この子
ミコルは正面座る、少年を見つめた
少しこの子は危険かも知れない
・・・・
1年と半年が経った
令和6年に暦が移り
街は少しばかり樹木の葉が色を変えて
枯れ葉の趣きと長袖の腕まくりが散見される
季節は移り変わり
ルチカ!
アユラが追いかける
6年生になったルチカが
振り返る
あゝ、アユラか
もうすぐ中学生だ
・・・・
「親なんていらないし
私を捨てた。
ハミルENのみんながいるし
私は幸せ
妹のユリリが私の唯一の
家族だし」
あの日
流れ流れ着いた
会話でユーリは話した
ミコルは微笑を浮かべ、訊いた
プルマの涙が止まることはなかった
・・・・・
ひさかたに
再会したり
このははは
葉は枯れようとも
涙は枯れぬ