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庵野セレクション4K『ウルトラマン』は昭和感が面白すぎた

子供の頃から動物が好きだった。動物図鑑は何度も読み返し、飼ってもいないのにペット飼育本を読みあさり、いつかドリトル先生のように動物たちと会話が出来るようになるのだと夢想していたものである。

だから怪獣と戦うウルトラマンシリーズはあまり好きではなかった。
ワンパンマンで言うならガロウのようなものだけれど、彼ほど拗らせてはいない。単純に動物のように見える形態の怪獣が好きだったからだ。

祭りの出店のおもちゃ屋では、恐竜のような怪獣のソフビを買ってもらって喜んでいた。
中でもお気に入りだったのはアンキロサウルスのように四つ足歩行でボディサイドにギザギザがついていた怪獣だった。

https://www.jurassicworld.jp/より


このように怪獣よりだから、シンウルトラマンは楽しめるのかと心配だった。結論を言うと、とても面白かった。まず怪獣に感情移入するほど、怪獣が描かれていなかった。ネタバレになってしまうが、出てくるのは映画の冒頭だけである。メフィラスとザラブは怪獣ではなく星人カテゴリーなので除外。

ヒューマンドラマの延長として見ることができたし、ウルトラマンがかっこよかった。

しかし、シンウルトラマンのウルトラマンであるところの外星人リピアはどうして人間を好きになったのか。子供を庇って死んだ神永の行動に感銘を受け、もっと人間を理解したくて融合した…というのがどうも腑に落ちない

ゾーフィーとの会話から、リピアが地球の監視者であったことが判るのだけれど、地球を見ていたら自己犠牲の場面は何度も目にすることがあっただろうに。なぜ、神永の行為だけが彼の心を動かしたのか。

巻き込んでしまったことにたいしての罪悪感があるとも言えるが、ゾーフィーを見ていると光の国の星人たちは、地球人に対して同等の存在としての感情を持つように思えない。そもそも彼らにとって外星人である地球人に対して罪の意識を持つのかどうかが疑わしい。なぜならゾーフィーは…おっとこれは重大な映画シンウルトラマンのネタバレなので控えるとしよう。

リピア神永が人間神永の遺体を無表情で眺めているシーンがあまりにも印象的だ。見ている側に多くの想像をさせる場面だが、わたしにはリピアが何を考えているのかさっぱりわからなかった。想像力放棄!!

納得できないリピアと神永の融合理由を、要領が悪く山ダさんに説明していたら、山ダさんはあっさりと答えを出した。

ウルトラマンは神永に一目惚れしたから融合したのじゃない?
神永の遺体を消滅させずに眺めていたのは好きだったからだよ!

と言われてしまうと、あの場面は無表情ではなく悲痛をにじませていたのか?えぇぇぇ……と思いつつも、否定できない。確かにそうかも…そう見えるかも。流されやすいわたしは、一目惚れ説を検証するためにもう一度シンウルトラマンを見に行くことにした。

山ダさんがネットでチケットをとってくれた。
今は映画館でチケット発見作業をしなくても、入口でQRコードのスマホ画面を見せるだけで入れるようになっている。

山ダさんはわたしの分のQRコードをスマホに送るよと言ってくれたが、面倒なので全て任せ、山ダさんのスマホで二人入場した。

古い旧作のようなオープニングが始まる。
シンウルトラマンのオープニングはこうだったっけ?

手書き風のスタッフクレジット。古ぼけたフィルム風に加工された映像と音声。おどろおどろしいマーブル模様がぐるぐると回転しウルトラQと表示される、その後続いてウルトラマンのタイトルがオレンジ色の制服を着た科学特捜隊が出てきたぞ。

凝っているなぁ。庵野さんもしかして最初のシーンを差し替えてきた?いつ本編が始まるのかしらとドキドキして見ていたら、

隣の山ダさんが小さくつぶやいた

ごめん…これ庵野セレクト「ウルトラマン」だ

映像を古く見せる加工なんてしていなかった。本当に古い映像データだった。

ええええええ……

シアタールームに入って始まるまで、目的の映画では無いことに気付かなかった…。

わたしは一体何を見せられているのだろうかと最初はものすごく戸惑った。一本目は「遊星から来た兄弟」、ザラブ星人の登場回だ。ザラブ星人はシンウルトラマンにも出演しているから、旧作ではどんなストーリーだったか比較を楽しみながら鑑賞してください、なんだなと趣旨を勝手に理解した。

戸惑いつつも、シンウルトラマンを見ることが出来なかったという不満で粗探し的な見方をしてしまった。

特撮技術とCG技術を比べてしまったのだ。これはよくない。完全に愚挙である。

街が突如、放射能スモッグに覆われた。特捜隊のヘルメットのサンバイザー的を下ろしてボタンを押せば放射能も除去できるし宇宙にだっていけるのだと説明のあと、調査に特捜隊が出撃する。

なんでここで宇宙の説明?と思ったら、後半比喩でも何でも無く、本当にハヤタ隊員は宇宙に行って宇宙遊泳を披露してしまう。宇宙服ではなく特捜隊の制服のままでだ。

遊泳感を出すためにフワフワと体をゆっくり上下に動かして宇宙空間を進んでいくハヤタ隊員。科学特捜隊の謎の技術力がすごい。

ザラブ星人が地球人とコミュニケーションを取るために携帯型の自動翻訳機になるミニチュアコンピューターを自作するところも面白い。

今でこそスマホサイズに納まっているが、ウルトラマン放映当時のコンピューターはこれである

演算器の本体は後ろにずらっと並んだ箱



二本目のオープニングが始まる頃は無駄な比較をやめて、別の楽しみ方をするようになっていた。

『怪獣殿下 前編』に登場するのは怪獣大好きなオサム少年。怪獣なんていないよー変な奴ーって同級生の男の子達からからかわれるシーンがあるのだが、少年達の使い古された鞄が渋くていいのだ。傷だらけで、蓋がしっかり閉められて折らず、パカパカとしている。教科書が入って無さそうなところが悪ガキ感が出ててよい。

オサム少年は団地住まいだ。
1960年代から1970年代は日本の高度成長期。住宅不足を解消するため、政府が集合住宅を大建築した時代だ。線路を敷いて、駅をつくり、駅周辺に巨大団地ニュータウンを作る。団地の分譲住宅には申し込みが殺到したそうだ。オサム少年一家はこの申し込みで勝ち抜いた、運が良い一家なのだ。

団地の入り口で買い物に行こうとしたヌーベルボブヘアの母親と鉢合わせする。母が手にもつのは編み込んで作られた籠バッグ。サザエさんが持っているあの籠だ。
当時の世相や、生活感、ノスタルジー感じる背景や、人物を見るのが楽しくなってきた。
オサム少年の友達が乗っていた自転車も、今ならプレミアがつく逸品だ。

この話の敵対怪獣はゴモラである。

古代恐竜ゴモラが生息しているらしいという島で、調査隊が地中から目覚めたゴモラと遭遇する。怪獣を大阪万博の展示にすることを思いついてしまった調査隊教授の無茶振り依頼を受けた科学特捜隊が、科特隊の戦闘機(ビートル)で大阪に運ぶのだ。

苦しいときの闇の組織(小説で犯行に使う銃の入手経路を、判りやすく一言で説明できて、疑問に思わない便利な呪文)のように、アメリカが開発した(と言えば、誰も疑問が思わない便利な呪文)という怪獣専用の麻酔弾を急遽入手して、怪獣を眠らせて、ワイラーで吊って運搬する。

当然途中でゴモラは目覚めて大暴れ。
科特隊は墜落を恐れて、ワイヤーを切ることにした。

ゴモラにしたら良い迷惑である。
島で気持ちよく寝ていた所を、起こされ、強制的に眠らされ、次に目が覚めたらなんと上空1,000メートルの空中。

そりゃパニックにもなるでしょう。

で落とされるとか…。なんたる悲劇。普通なら地面にたたきつけられて木っ端みじんになるところ、そこは怪獣なので基本ノーダメ。

そもそもこんな怪獣をどうやって展示するつもりだったのか博士は生きたままの展示を諦め、剥製にすると言い出すし。

ウルトラマンがやってくるけれど、どうにも歯が立たず時間切れ。地中に逃げたゴモラを見つめてウルトラマンはあっさりと去って行った。

えっこのあとどうなってしまうの?戸惑う視聴者であるところのわたしと山ダさんを置いてけぼりにして、次の話が始まってしまう。

後編はやらんのかーーーい。

三本目は怪獣ダダ登場。

初めてダダを見た。これがうわさのダダか。地球人の人体標本を6体作ってこいと言われて日本の山奥の研究所にやってきたダダ271号。研究員を順調に標本化していたのだが、標本途中の人間に逃げられてしまう。予定外の人間(キャップ)が研究所にやって来ちゃうし、そのせいで悪事がウルトラマンにもばれちゃうし、ウルトラマンを倒すぞーと飛び出しても、対した技があるわけではないダダ271号はスペシウム光線で大やけどを負わされてしまう。ウルトラマン強すぎますと泣き言を通信装置で上司に訴えても、無能上司は標本作れと繰り返すだけ。

ダダ271号が持てる力を振り絞り任務を遂行しようとするサラリーマン悲哀を感じる物語だった。

最後の四本目は『空からの贈り物』

これは出だしがひど…凄かった。

外出中、突然の雨に見舞われたキャップ(特捜隊のリーダー役職名)は傘を持ってこいと通信装置を使って本部の部下に命令する。ハヤタ隊員は戦闘機(ビートル)に乗って届けにいく。もう嫌な予感しかしない。おもむろに扉を開け、傘を空から落とすハヤタそれを地上でナイスキャッチするキャップ。飛行禁止空域とか乱用、パワハラ…などなどいろいろな単語が頭をよぎる。

ビルの屋上で柵を乗り越えたサラリーマンの場面が映りその後は墓場の場面に変わる。ここで流れるナレーションがシュールだ

雨の日、傘も空から降ってきたらどんなにいいだろう……だがしかし、空からはとんでもないものも降ってくる人間だって降ってくるとかく東京の空は危険であるいつなんどき、なにが降ってくるかわからないのだ

ウルトラマン 34話

人間落ちちゃったんだ。

そして空から超重量を誇る怪獣スカイドンが意味不明に落ちてくる。

このスカイドン。見た瞬間にあっと思い出す。わたしが持っていたソフビの怪獣だ。頭の角は覚えていないが、体の横のギザギザは一緒だった。

落ちてきた怪獣は退治するのも大変だから、宇宙に送り返す作戦を科学特捜隊は立案した。
が、そのどれもが科学のようなそうでないような冗談のような作戦なのだ。
シンゴジラだったらこれもかっこよく現代的にアレンジできたのだろうか。

過去の怪獣撃退作戦で成功した、ロケットをぶつけて、ロケットの射出の勢いで怪獣も一緒に飛ばす作戦。スカイドンが重すぎて、上半身しか持ち上がらず、ロケットに押されてコミカルにダンスのように走り回るのだ。

この動きがとにかく可愛い。そうだ、だから小さい頃のわたしはこの怪獣が好きだったのだ。たしか最後は、風船のようにフワフワと空に飛んでいって消えたはず。そんな退治方法も可愛かったなぁと懐かしさを感じながら見ていると、

わたしは遠くに記憶の彼方にロストしていた真の物語の結末を知ってしまった。

超便利アイテムの怪獣睡眠薬で矯正睡眠状態に陥ったスカイドンの尻から大量の水素ガスを送り込んで膨らまし…フワフワと浮いて、可愛く飛んで…終わりでは無かったのだ。

科学特捜隊の作戦を知らなかった自衛隊戦闘機が空高く上昇していくスカイドンを発見して打ち落としてしまったのだ。

東京に再落下していくスケルトンに、変身したウルトラマンが垂直に衝突し、その後大爆発

スケルトン…寝たまま……爆発四散……

メリーポピンズのように空に飛んで消えたと思ったのにな。


真実は残酷だ。可愛い想い出のままにしたかったな。あーあ。




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