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挽肉と米のマーケティングトレース

■基本情報(2022年12月時点)

会社名 俺カンパニー、LAMP、POOL inc
業界 外食・レストラン・フードサービス
ビジョン・理念 挽きたて、焼きたて、炊きたて
売上 非公開
トレースの目的 挽肉と米の盛り上がりの背景にはどんなマーケティング戦略が合ったのか掘り下げて理解する

3社からなるジョイントベンチャーからなる、カンブリア宮殿でも取り上げられた「挽肉と米」をトレースしていきます。

■市場分析

Politics

 Go To Eatキャンペーン(2021年6月30日)公表、コロナ禍の新しい生活様式に基づいた外食の楽しみ方として飲食店を応援する農水省の取り組み。
また、観光庁が2022年10月11日より全国旅行支援として旅行客を後押しした施策を発表。

外食市場規模の話

「国内外食市場規模推移と予測」矢野経済研究所調べ

2021年の市場規模は前年度比5.8%増の27兆412億円(持ち帰り弁当・惣菜専門店等の中食業態含む)前年度からのコロナ禍での休業や営業時間短縮などが緩和された。

テイクアウトやデリバリー営業の好調に加え、店内飲食も増えたことでプラスに。ファミリーレストランは大量閉店や業態転換など大きな戦略転換の影響もあり、テイクアウト、デリバリー営業の立ち上げが遅れたが、徐々に回復に向かった。

健康志向の高まり、商品開発が活発化。低糖質、低カロリー、低アレルゲン合成添加物未使用など健康に配慮したメニューを継続的に投入し、健康志向を強く打ち出す外食企業が増えている原材料の生産、加工、出荷する過程にも反映。

国産にこだわり、提携農家が育てた素材のトレーサビリティシステムや農場を運営する関連会社が旬の野菜を生産、出荷する体制などを導入。食の安全管理を徹底。

「外食市場に関する調査を実施(2022年)」矢野経済研究所調べ

Economy

円安による飼料輸入額の増加によって値段を上げる企業が続出。反面、コロナ禍で抑圧された生活を余儀なくされた生活者の反動需要が見込める状況。

中食から外食への動きが復活。これまでの鬱憤を晴らすかのように海外旅行などのイベント、外食などへのレジャー支出が増えていく。またインバウンド需要も見込める(2019年の訪日外国人旅行消費額のうち飲食費は21.6%:1兆4000億円)。

「予想される2022年外食業界を取り巻く変化と課題」NEC

外食実施率は54.2%で前年比2.2%増、外食頻度は月3.44回で前年比-0.08回、外食単価は2,387円で前年比-1.1%。

「コロナ禍3年目、外食市場と消費者ニーズの変化」ホットペッパーグルメ外食総研2022レポート

Society

外食の落ち込みと中食の充実、さらに冷凍技術の革新(GAS冷凍、プロトン冷凍、不凍タンパク質)によってデリバリーやECなどでも手軽に美味しいものを食べられるようになった。そんな中で「外食をする意義」を考えるようになった。「何を食べるか、どうやって食べるか」を意識する機会が増えた。

Technology

冷凍技術の革新。急速冷凍や精肉や惣菜でもドリップしない(=細胞の組織を破壊しない)技術が出現。食品に限らず臓器移植などの医療業界、航空業界の分野でも広がりを見せている

■5Force分析

業界構造理解のため5Force分析をしてみます

売り手の交渉力

売り手は外食店舗。自社で挽肉をつくり米を炊き、焼き立てを提供するシンプルなオペレーション。

買い手の交渉力

買い手は個人生活者。メニューが1つのみでハンバーグ3つ+味噌汁+ご飯のみ。そこにいかなければ食べられないので、買い手の交渉力は低い。

新規参入者の驚異

目の前で焼きたてのハンバーグを炊きたてのご飯に乗せる、ということに関して言えば参入障壁は低いが、毎朝挽肉を作る、米を15分置きに炊く、店舗デザイン、立地、予約不可のオペレーションなど調味料に至るまでの細やかな設計は新規参入者には難しい。

業界内の直接競合

既存のハンバーグ店をはじめ、外食店、チェーン店。多様なメニューと豊富な食材、前菜からデザートまで何でも揃っている。幅広い年代の客層がそれぞれの目的を持って食事をする。あまり「食べる体験」を意識させるような設計になっていないのではないか。逆に個人経営の店舗や隠れ家的な寿司屋など口コミで拡がっていくような業態をとっている飲食店は強豪になりうる。

代替品の驚異

ひき肉マニア、ひき肉クラブ、米とデミグラス、極味など模倣店が多く出てきた。訴訟になるレベルの模倣もあるが、基本は焼きたてのハンバーグをご飯に乗せる、というオペレーションはやりやすい。だがどこも驚異とはなっていない。商標権の登録が完了していたため被害を食い止めている

■3C分析

Company

特徴1:海外を視野にいれた、ハンバーグに特化した合弁会社(株式会社挽肉と米)。海外にはハンバーグの文化がない。ハンバーガー。
※先行して商標登録を済ませ模倣店への対策も事前に対応(オペレーションは特許取得不可…)

特徴2:1商品のみのメニュー構成のため注文時のオペレーションは不要でキッチン業務に集約。常に目の前で焼き立て、炊きたてを提供できる環境。エンターテインメント感も演出

特徴3:予約は直接店舗のみ(一部オンライン可)。不便な面もあるかもしれないが、渋谷、吉祥寺、京都と人通りも多くアクセスも良い立地。隠れ家的な物件もエンターテインメント性を高めている。渋谷店のみ+1000円で予約が可能(ジュウジュウシート:座席数10席程度)

Customer

30-40代がコアターゲット。女性、20代も多数。行列は若い人が多い。美味しいハンバーグとご飯を友人と楽しく食べたい、というウォンツに応えている。

Competitor

ハンバーグカテゴリ(どれも一定レベル以上で美味しいので競合というより共生か…)
・ ハンバーグウィル
・さわやか
・ミート矢澤
・モンブラン
・山本のハンバーグ(同社)

周辺カテゴリ(焼き立てをそのまま / シンプルメニューをスピーディに)
・パン屋
・すき家、吉野家、松屋など特徴的な商品に特化した回転重視の店舗

続いてSTP分析でマーケティングの基本戦略を整理します

■STP分析

Segmentation

人口動態:20-30代男女(ファミリー層ではない)
地域性:首都圏
嗜好性:焼きたてのハンバーグと炊きたてのご飯を友人と楽しく食べる
行動特性:話題の店舗に行く人、SNSで接点を持つことが多い。

Targeting

味も楽しさも妥協したくない。食事をエンターテインメントして味わいたい
並んだり記帳したりと不便な点もあるけどそれを超えて食べられる経験。
味わって静かに食べる食事とは違い、ライブ感ある楽しい食事。誰かを誘って行きたくなる。

Persona

今日は待ちに待った「挽肉と米」渋谷店に行くため、8:30から始まる記帳に間に合うようにいつもより早く家を出る。友人と待ち合わせて店舗に行く。
記帳したあとはショッピングしたりカフェに行ったり。店舗が都心にあるので便利だ。時間になったので店舗に戻り、目の前で焼かれたハンバーグを御飯の上に乗せて好きな調味料をかけて食べた。(1人1500円)ハンバーグは何度も食べているけどいつもと違って何かのイベントに参加したような楽しい気分になった。

Positioning

挽肉と米は楽しさと美味しさを兼ね備えたしくみで、その楽しさや美味しさはひとりで楽しんだり噛み締めたりするものではなく、友人と分かち合いたい。1食を大切にしながら美味しさを楽しむ時間を提供する、独自のポジションを築いている。
・ハンバーグという日本人には慣れ親しんだ食べ物
・メニューが1つという単純さと素材の質の高さ
・一人で食べるより誰かと食べたいと思わせるエンターテインメント性
・目のまえで焼かれる。調味料が多い。予約ができない。隠れ家的な立地。

■4P分析

Product

ハンバーグ1つに絞って素材(肉と米)にこだわる、ライブ感のある楽しい食事。

Price

1500円 / 1食(90gハンバーグx3 = 270g)
都心1プレートの価格イメージで、背伸びをせずに食べられる価格帯

Place

素材にこだわり、都心の隠れ家的立地。店舗に出向いて記帳し時間になったら来店、食事。周辺地域でも行列が話題に。
仕入れ:素材にこだわる
売り場:調理場と座席が一体。都心の隠れ家的立地
仕組み:メニューは1品のみで目の前で焼かれたハンバーグをすぐ食べられる。誰が焼いても同じクオリティになるように座学研修やOJTで細かく指導する。

Promotion

店舗オープン前からインスタをメインに発信し続けた。オープン当日から行列に。店舗や食事にかける思いや立地について発信を続け、五感に訴えかけた。

挽肉と米の収益ドライバーは、来店客数を増加させることです。1度行っただけでは満足せずに何度も足を運んでくれるように、新規顧客・リピート顧客をどのように増やすかということが重要です。

■成功要因の言語化

ユーザー視点で考えると以下のようなことが挙げられると思います。

  1. 普段から親しみのあるハンバーグにこだわり、1つに絞ったメニュー構成

  2. 焼き場とお客様の距離の近さ、ライブ感を演出する店舗デザイン

  3. SNSでのオープン前からの定期的な発信

  4. 素材に変化をもたせることで飽きさせない工夫

■もし自分が「挽肉と米」のCMOだったら

あなたが考える打ち手は何か

  1. 赤身肉ハンバーグを限定販売

  2. 夜のメニューを充実(あとで)

競合と比較したときの差別化ポイントは何か

脂質、糖質が気になる方向けに健康的に旨いハンバーグを提供。
もともと健康系をテーマにした店舗ではない限り見かけないメニュー。

ターゲットは誰で、その人のどんな課題を解決するのか

脂質が多く食べたくても食べられないトレーニーや健康を意識している人、脂質がきつい人などに向けて、安心して食べてもらえてしかも美味しい赤身ハンバーグを提供。

マーケティングミックスで工夫する点は何か

Product視点:普段と異なる顧客層向けの健康系メニューをいかに美味しく食べてもらえるようにするか。赤身肉特有のパサつきを、焼き方や肉の種類でどこまで改善できるか。
Price視点:1800円程度にして通常メニューとあまり差異が無いようにする。
Place視点:店舗内で通常メニューとの分類、焼き方のオペレーションコストが課題
Promotion視点:SNSで健康系、トレーニー系向けメニューであることを印象づける仕掛けを入れる

収益インパクトはどれくらい出せそうか

通常時は1日200-250人(渋谷店)。1店舗あたり30人の新規顧客獲得を見込む。
1800円x30人x30日x12ヶ月=19,440,000円x3店舗
参考:健康に関する意識調査「脂質・糖質のとりすぎに気をつける(15%)」

■終わり

挽肉と米は山本社長念願の「ハンバーグ」を突き詰めたお店です。強い情熱とマーケティングが融合した食の楽しさを改めて感じさせてくれるお店でした。外食アワードを受賞したり、模倣されるところからも業界に新風を吹かせたと言っても過言ではありません。

■挽肉と米のマーケティングトレースからの学び

  1. 計算しつくされた単純さをSTP分析や4P分析などをすることで明らかにすることができる

  2. 同じように引き算によって同じ業界内でも新しいことはできるのではないか。

  3. CMO視点の打ち手はとてもよいトレーニングになった。またこの記事もアップデートさせたい。


ここまで見てくださってありがとうございました。
長くなってしまいましたがとてもよいトレーニングになりました。

筋トレも続けることが大事なので、引き続き、気になる企業、バズった企画などをトレースしていきたいと思います!

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