ダイアローグ 対話する組織(後編)

背景

前回は、対話とは、相手の意味づけのプロセスを理解できる(共感)ことで、協調的な行動を促す効果があることを理解した。

後半では、対話によってその集団(会社組織、学級、コミュニティ)にどのような影響を与えるのかをまとめる。具体的に、集団へ与える効果としては①協調的な問題解決が可能②知識の共有③組織の変革といわれている。以下、それぞれ、具体的に説明していく。

①協調的な問題解決が可能

イノベーションの活性化のためには、多様な専門性のメンバー同士でチームをつくる必要性が述べられている。しかし、このようなチームでは、多様性があるがゆえに、価値観や感情、専門性の違いによる人間的な対立が起こってしまう。そのため、このようなチームでは、議論よりも対話が重要であると考えられる。

議論:いくつかの選択肢について、各人の論を戦わせ、どれが正しいかを決めるという意識で臨む。この場合、唯一の解決策を決めるために、各選択肢の優劣、誰かの管理責任などに意識がいき、協調的な解決策へとは導かれにくい。

対話:これまでに述べたとおり、人は、客観的事実に各人それぞれの意味づけを行い、問題を認識している。つまり、驚くべきことに、各人の解くべき問題は往々にして、異なるのだ。よって、出発点は、「いかに解決策を導き出すか」ではなく、「何が問題なのか、合意のうえで決める」ことが出発点になるはずである(各人の登るべき山が違えば、登山ルートの優劣を議論することは無意味である)。そのためには、対話によって、意味づけのプロセスを理解して、共感することが重要なのである。


②知識の共有

情報技術の革新によって、ビジネス現場の「知」を広く、効率的に行き渡らせる試みがなされた(導通メタファー)。しかし、その結果、業務に影響の少ない「どうでもいい知識」ばかりが流通し、現場の知恵(暗黙知、実践知)が失われていった。では、現場の知恵を伝えるにはどうすればよいか?その正解を考えるための具体的な方法として、コピー機の修理士たちの例がある。彼らの方法とは(最も彼らは、それを意図したわけではないと思われるが)、研修やマニュアルといった、情報社会の中で良しとされてきた効率的な方法ではなく、驚くべきことに、各人の『個別すぎる修理の経験を半ば武勇伝的に語り合う』という行動なのである。この方法が効果を示すのには、2つの理由がある。

①ストーリーとして語ることで、出来事と出来事の間の意味づけ(各人の暗黙知実践知)を共有することができたという点。

②それぞれ全く異なる個別の知恵(暗黙知、実践知)を、無理に抽象化して、知識として共有する(whatの共有)のではなく、誰が何を知っているか、という情報を共有していた(who knows whatの共有)ことである。これは、たばこ部屋がなくなることで、イノベーションが減っていったという話(トランザクティブ・メモリー)とも共通する重要な観点である。

つまりビジネスにおいて、「重要な知の共有には」、情報だけの一方向のやりとりをやめ、個別の情報を交換し合う『対話』を行うことで、①暗黙知/実践知を流通させることができ、②それを個人ではなく、組織のネットワークの中にメモリーとして保存/継承することができるのである。(つまり、「昔は〇〇の時には、☐☐した先輩がいたらしいぞ」といった話の有効性については再検討する必要があるだろう。ただし、酒の席での場合を除く。)

③組織の変革

組織の持続的成長は、組織構造や命令系統(ハードの部分)だけではなく、企業文化・理念(もちろん人材)(ソフトの部分)においても重要である。しかし、企業文化や理念を社員やメンバーに伝えようとするのは、これまでの一方向的なコミュニケーション(導管メタファー)では、浸透させることはできない(共感できない)。では、組織において文化や理念を本当の意味で伝え、熟成していくには、どうすればよいのか?その一つの方法としては、構成メンバーの一人一人が組織の中で経験した客観的事実を語り、主体的な意味づけを共有するということ、つまり対話によって共感を促すことが必要である。さらに『変革』を促すためには、対話だけでは十分ではない(この現象は、社内研修を思い出してもらえれば、多くの方は納得がいくと思われる)。共感から実践への道は、さらに大きな溝があるのだ。本書籍にも解決の一例は記載されているが、ここは今後の課題であるとの認識なので、詳細は割愛する。

以上、前編から後編にかけて『対話』の効果について一冊の書籍をもとに紹介してきた。これまで、『対話』を実感として大事だと肌で感じていたことを学術的に説明してくれることから、多くの腹落ち感を感じることができ、今後も深みを増したオンラインでの対話活動が実施できると期待している。

ただし、今回ひとつ感じた大きな課題としては、『個人』の変容を『組織』の変容にどう繋げるかという観点である。上述した通り、社内研修後に、元の組織内での行動変容が起こるようなメンバーは、1%程度ではないだろうか?それでは、残り99%のメンバーが所属する組織を変えることは難しい。対話から実践へ、これは、自身が試行錯誤することで見えてくる答えなのだと信じたい。




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