所詮勝手な想像でしかないなら

ホラーは日常の中で突然降って湧いてくるからこそ怖さを感じるものかもしれない。

いつもと変わらない日常。仕事が終わって家路についていると自宅がほど近くなった時に見慣れた家並みが突如全く見知らぬ町に見えたりしたら・・・。

いつもと変わらず出勤してみたら、姿形は昨日と全く違わないのに、みんながみんな自分のことをあたかも見ず知らずの他人であるかのように全く認識してくれなくなってしまっていたら・・・。

フィクションの世界ではなく、私たちが生きている現実というものも、ある程度幻想であるとも言われる。目に映るもの、手に触れるものであっても、それらの形質、組成物等々をいちいち厳密に精査しているわけではないのだから、大なり小なりの思い込みが入り込まないわけがない。形あるものだってそうなのだから、日々出会う人々の性質であるとか考えていることとなればそれらが現実のものであるかどうかなんて到底厳密には判別できないだろう。それでも私たちはモノや人間について自分なりのイメージを作り、それらを扱いながら日々暮らす。

人間。特に日常的に関わり合う人々(家族や学友や同僚など)については、そうした個々が各々作り上げるイメージの齟齬が元で諍いなど経験しながら、それでもお互いを認識し合って生きている。

分かり切ったことだけれど、だからこそ落とし穴もある。

各々が作り上げるイメージでもってやり取りするしかないのは事実だけれど、それは実物が本当のところはどうかなんて気にしないでいいということではない。

実体を持った人間とやり取りしているんだから、実物を意識しないなんてことがあるわけがない。

果たしてそうだろうか?

昨今の人間模様を眺めていてとみに感じるのが、自分が作り上げるイメージは確かに実物に基づいているという自信が過剰なんじゃないか?ということ。人と人とが話をしているはずなのに、双方ともに自分が作り上げた相手に関するイメージに対して話をしていて、相手の言葉は即座に自分の側で作り上げたイメージに沿って(都合のいいように)翻訳される。全く実在の人間を相手にしているように見えない。対話が大事とは言うけれど、こんなことをしていて対話が成り立つわけがない。いくら実物に基づいていると主張したところで自分なりに加工したイメージでしかないのだから、これより他に正しく実物をとらえたイメージはない、なんてことをみんなが主張し合っていたら、良好な人間関係なんて築けるわけがない。

なるべく限定的にならないで、かつ本質を外さない。

非常に難しいことだけれど、作るしかないなら、せめてそういうイメージを心掛けたい。

言葉の大切さというものも忘れてはいけない。

イメージというと静止画像のようなものをイメージしてしまうかもしれないけれど、私たちはそれらをもって他者や外部世界と交流するわけだから、主に言語を用いてモノや人についてイメージを描いて伝え合う。言葉なので「語る」と言った方がいいかもしれない。

言葉が大事というと使い方というかマナーや技巧などに意識が行きがちだけれど、そういったカタチになって出てくるものよりも、自分自身のアレコレをよりよく知ることができるかどうか?という点に注意を向けたい。

言葉はその人の体を表すとか、言葉は心の鏡(鑑)という言葉もある。

既に散々言い古されたことだけれど、他者のイメージなんつったって所詮そのイメージを作るもんが考えることなのよね。

おっそろしい怪物みたいなイメージを作ろうが、神さま仏様のようなイメージを作ろうが、自由と言えば自由。けれども出来映えに関して責任を取れるのもイメージの作者以外にない。

特に怪物とか大悪党とかさ。。。それらのイメージを作れるからといってその人が怪物や大悪党であるとは言わないけれど、それらのイメージはあなたの世界から出てきたものである。そういうことは振り返って見てみた方がいい。

さらに、一旦作り上げてしまったものであっても、世間に対して大々的に表明するのか、いやいやこりゃあんまりいいとはいえんなと取り下げるのか。そうした場面でも個々のイメージ作者の判断力は試される。

イメージ作りのためには自分の外のものを観察するわけだけれど、作ったイメージに必ず反映されている自分自身の姿、どんな気持ちで作ったのか?出来映えは所期の目的・意図に照らして満足いくものか?などなど、自分自身のことも合わせて観察するよう心掛けたいものだ。

フィクションやイメージでしかコミュニケーションできない私たち。
いわゆる現実・現物に触れることができているのも私たち一人一人。
イメージが現実離れし過ぎないかどうか判断つくのも私たち一人一人。
嘘はつき始めると止められなくなるとも言われる。息抜きといって許容できる範囲ではあっても現実を歪めるようなイメージについては注意が向くようにしておきたいものだ。

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