宗教と医学⑧XⅢ牧師・チャプレンとして経験したこと(後半)

皆さん、こんにちは!メンタルヘルスナビゲーターのK・HAMANOです(^^♪

「日本統合医療学会」会報誌2021年5月号の中から、有賀誠一氏の論文で「宗教と医学」について引用し、シリーズでお届けしてまいりました。

「ホリスティック医学」と「統合医療」の意義を共有いたしたく、御紹介させていただいてきたこのシリーズは、今回が最終話になります。

数多ある、補完代替療法の療法士様や各種クリエイターの方々に於いて、クライアント様のメンタルケアやスピリチュアルケアも含めて大切なメッセージか込められている論文であると思う為、どうか最後までご高覧下さい。

XⅢ.牧師・チャプレンとして経験したこと(続編)

4.生命維持装置取り外しに立ち会う

3万人以上の学生がいる州立大学の学生担当チャプレンをしていた時のことです。大学病院から「脳死と判定された患者さんの生命維持装置を外すのですが、病院のチャプレンが不在なので、すみませんが立ち会っていただけませんか?」という電話がかかってきました。

生命維持装置を外すときには、チャプレンの立ち合いが義務付けられているとのことでした。

もう午後8時を過ぎていましたが、病院に駆けつけました。患者のベットの脇には、娘さんが付き添っておられました。まもなく看護師が来て生命維持装置を外し、モルヒネの投与量を増やしてモニターの作動を確認し、無表情に「あと2~30分で呼吸も心拍も止まりますから」と言って、さっさと部屋を出ていきました。

後の残された私は娘さんとお話をしながら、モニターの信号がフラットになるのを待っていたのですが、2時間たっても3時間経ってもフラットになりません。娘さんが「わざわざ来てくださってありがとうございました。もう、お帰り頂いて結構です」と言ってくださったので、お言葉に甘えて帰らせてもらいました。自宅に戻ったときは、もう夜半を過ぎていました。

私は学生担当のチャプレンで、病院のチャプレンではなかったので、その時点で私の役目は終わったと思っていたのですが、3日後に娘さんから電話があり、「母は昨夜まで生き延びましたが、とうとう亡くなりました。それで、お葬式をしていただけませんか?」と言われるのです。病室ではスピリチュアルなことは何もお話されませんでしたし、教会に行っておられるような雰囲気も全くありませんでしたが、母親の死を直面してスピリチュアルなものに目覚められたのかもしれません。お葬式は、もちろんお引き受けしました。

亡くなられた母親ご自身が幸せな最期を迎えられたかどうかは、私には分かりませんが、私がお葬式を引き受けたことで、少しでも娘さんの心が安らかになったのなら感謝です。

5.ホスピスからの最後のメール

私は教会の牧師を隠退してから数年間、隣も町にある大学の特任教授をしていました。そのときの同僚で、私が常々尊敬していた老教授ががんに侵され、抗がん剤による治療の効果が出ないままに、日一日とやせ細っていかれました。最後にお訪ねしたときに先生は、「有賀さん、私はね、Try will be donel(神様の御心のままに!)という気持ちになっていますから、ご心配なく」とおっしゃいました。

それから1週間ほど経って先生から、「まもなくホスピスに入ります。『死ぬため』です。皆様、どうかお幸せな生涯をお送りください」というメールをいただきました。そして、数日後にお亡くなりになりました。とても悲しかったです。でも、教会でのお葬式に出席して元の同僚たちと、「先生はほんとに『安らかな最期』を迎えられてよかったね」と話し合えたことで、私の心も慰められました。

6.宗教を超えた平安

数年前のことです。私の訪日を知った遠縁の女性(M)が、「入院中の義父を見舞ってほしい」と頼んできました。義父様にはお会いしたこともなく、お名前も思い出せなかったのですが、ともかく彼女らの住む遠方の町にある病院に行きました。

死期も間近いと診断された義父様は顔色も悪く、目を瞑ってむっつりとベットに横たわっておられました。ところがMが私を紹介し、「誠一さんは牧師さんなの」と言った途端に義父様の顔がパッと明るくなり、眼を開けてニッコリされたのです。私よりもMのほうが驚嘆しました。

義父様は仏教徒だとのことでしたので、ごく普通のお見舞いの言葉だけで失礼するつもりでしたが、Mが、「ねえ、お父さま、誠一さんにお祈りしてもらったら?」というと、ものを言うこともできないほどに衰えた義父様がこっくりと頷かれましたので、短いお祈りを捧げて退室いたしました。義父様は数日後に亡くなられましたが、安らかな最後だったそうです。Mにはとても感謝されましたが、私は義父様のために祈る機会を与えられたことを今も感謝しております。

★著者略歴★

有賀誠一

1939年京都に生まれる。同志社大学工学部卒業。日本、ドイツ、カナダでプラズマ物理学・核融合研究者(理学博士)、心理カウンセラー(心理学博士)、カナダ合同教会の牧師またチャプレンとして働き、カナダで隠退、地元のオーケストラの首席フルーティストとしての活動は続けている。

(完)

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