見出し画像

宗教と医学⑦牧師・チャプレンとして経験したこと

皆さん、こんにちは!

メンタルヘルスナビゲーターのK・HAMANOです(^^♪

今回、シリーズでお届けしている「日本統合医療学会」会誌2021年5月号の中から、有賀誠一氏の論文「宗教と医学」について引用させていただき、皆様と「ホリスティック医学」の概念と、「統合医療」について共有を図りたく、御紹介しています。シリーズも、後半に入りました。

今回は「XⅢ.牧師・チャプレンとして経験したこと」について、御紹介させていただきます。

XⅢ.牧師・チャプレンとして経験したこと

人の死に出会うことは、牧師にとっても悲しいことですが、「安らかな最期だった」と確信できたこともたくさんありました。そのいくつかを紹介させていただきます。「幸せな最期」についてお考えになるときの参考になれば幸いです。

1.孤独な老人の安らかな最期

私が牧師になって最初に赴任した教会は、カナダ西部の山の中にある人口千人足らずの村でした。赴任して間もなく、村の保健婦さんが牧師館に来られて、「先生、余命幾許もない孤独な老人が、なぜか呻き続けておられますので、来ていただけませんか」と言われるのです。それで、保健婦さんの案内でその老人を訪問したのですが、家とは名ばかりの掘っ立て小屋の中に積み上げた布団の上で、なにやら呟いたり唸ったりしておられました。

保健婦さんが「牧師さんが来られましたよ」と言っても、虚ろな目で私を見るだけで、体を捩って呻き続けておられます。私は牧師になりたてでしたし、まだ英語力も不十分でしたが、心の中でお祈りをしながら、勇気を出して話しかけました。少しですが、聖書の言葉も引用しました。それでも、しばらくは虚ろな目をあらぬ方向に向けて呻いておられましたが、そのうちに呻き声が小さくなり、虚ろな目にも生気が戻ってきたように見えました。

そして、静かに眠り始められたので、あとは保健婦さんに任せて帰宅しました。

それから3~4時間経って、また保健婦さんが来られ、「あの後、ご老人は静かに眠り続けられて、つい先刻亡くなりました。安らかな最期でした。ありがとうございました」と報告してくださいました。

この老人の過去については想像するしかありませんが、あまり幸せな人生ではなかったでしょうね。それでも、亡くなる数時間前に私が訪問したことで、安らかな最期を迎えられたことは、とても印象深いことでした。

2.棺桶を自作して最期に備えたがん患者

この村に、ものしずかな、それでいて、いつも明るい顔をした一人暮らしの男性がおられました。頭は「つるはげ」でしたが、ほとんど毎日曜日に教会に来ておられましたので、その方が末期のがん患者だということには全き気がつきませんでした。木工細工が趣味だということでしたので、作品を見せていただくために私がその御宅をお訪ねしたときには、何か大きな箱のようなものを作っておられました。

ところが、ある日突然教会の役員さんからその方のお葬式を会うるようにと言われて、本当にびっくりしました。

カナダでは土葬が普通です。それで、墓地で埋葬式をするときになって初めて、その方のお棺が、私がお訪ねした時に目にした「大きな箱」であることに気がつきました。ご自分の病気について不平一つ言わず、ご自分の人生の安らかな最期を迎えるための準備をしっかりなさっておられたことに、深い感動を覚えました。

3.継母を殺して自殺した青年の葬儀

これは、本当に悲しい出来事でした。

ある日、他の教会のメンバーである知人から電話がかかってきました。「私と同じ教会に来ていた青年が母親を殺して自殺したのですが、ご遺族は二人一緒のお葬式を望んでおられるのです。ところが私の教会の牧師は「人殺しの葬式などできない」とおっしゃるのです。有賀さんなら、してくださいますか?」と言われるのです。私にとっても初めてのことでしたが、「ご遺族がお望みなら、もちろん二人一緒のお葬式をしますよ」と答えました。

結局、その教会の役員さんたちが牧師さんを説得して、「その親子の死因には一切ふれない」という条件でお葬式を引き受けられましたので、私の出番はありませんでしたが、お葬式には出席いたしました。かなり大きな教会でしたが、礼拝堂は満杯でした。

2つの棺を前にして、遺族を代表して弔辞を読まれた娘さんは自殺した青年に、「お兄さん、あなたは苦しかったのでしょうね。私たちはあなたを憎んだりしていませんし、お母さんもあなたを赦しておられると思います。だから、安らかに眠ってください」と語りかけられました。今思い出しても、とても悲しい、それでいたなぜか心の温まる、感動的なお葬式でした。

(次回へ続く)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


よろしければサポートお願い致します。あなたにふさわしい、クオリティの高い記事をご提供するための、研鑽費に使わせていただきます。