4年来
浜村凡平です。
友人から怖い話を聞きました。
『男は自分の住んでいるワンルームで夕食をとる大家族を見ていました。父親、母親、十歳、九歳、七歳、五歳、三歳、一歳になる六人の子供たち。
「吉田さんも遠慮せず食べてくださいよ!今日は母さん特製カレーですから!うまいですよー!」
自分の倍は横幅がある肉体労働をしている父親が言った。
「……はい。いただきます。」
(もう二ヶ月か。しかし狭い。狭さには全然慣れない。)
二ヶ月前。男はずっと並行世界、いわゆるパラレルワールドに興味がありました。今の生活に不満があるわけでもない。この世界から逃げ出したいわけでもない。ただなんとなく、もう少し良い人生があったんじゃないか?あの時ああしていたらどうなったんだろう?そんなことを考えて、もしあるとするなら行ってみたい。そう思っていました。
会社からの帰り道、突然視界が歪みました。
(なんだこれ?)
ほんの五秒くらいの出来事でした。
「パラレルワールドへ!ゴーゴーゴーゴー!」
ヘリウムガスを吸った時のようなかん高い声が頭の中に響き、視界が元に戻りました。
(なんだったんだ?)
周りを見ると全く変わらない風景。疲れてるだけか、と思いながら家の前まで行くと自分の部屋の電気がついていました。
(え?)
おそるおそる部屋のドアを開けるとそこには見知らぬ大家族が居ました。
「吉田さんおかえりなさい!」
「おかえりなさい。」
「おかえりー。」
「おかえりー。」
「おかえりー。」
「おかえりー。」
「おかえりー。」
「うーあー。」
「……(まさか本当にパラレルワールドなのか?)………。……ただいま。」
男はパラレルワールドに来ました。が何日間か生活して気づきました。
(元々いた世界と全くといっていいほど同じだ。違うのは自分のワンルームの部屋で見知らぬ大家族とルームシェアしていることだけだ。……なんだこの世界。全然楽しくない。家でも気が休まらない。で狭いんだよ。というかこの部屋一人で住むのしか駄目なんじゃなかったか?)
家族にどこに保管してあるかを聞いて、賃貸契約書を見てみるとその条件が書いてあった箇所が見当たりません。そして自分が家賃の四分の三を払っている事を知りました。
(なんでだよ。)
「吉田さん!いつもありがとうございます!吉田さんは私たちの恩人です!」
「いえいえ。いいんですよ。僕も助かってますから。(よくねえよ。せめて半分は払ってくれよ。)」
不満を溜めながらも生活していると、ご飯は出てくるし、子供たちにも情が湧いてきて、何より夫婦の人柄がいい。まあこの生活も悪くないか。とも思えてきました。二ヶ月が経ちました。
特製カレーをよそってもらい、受け取ると、先に食べ終わっていた三歳の次女が「トイレ行くー」と立ち上がりました。自分の手にぶつかりお気に入りのワイシャツに大量のカレーがかかりました。その瞬間、男の中で何かが崩れ落ちました。
(あ。やっぱダメだ。)
男は無言で立ち上がり、家を出ました。後から十歳の長女と九歳の長男が追いかけてきました。
「吉田さんごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「いや別にいいんだよ。ちょっと用事を思い出したからさ。」
「用事?その格好で?えりが失礼なことしてごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「いやいいんだよ。」
「吉田さん本当にごめんなさい。」
「吉田さん。……どっか行ったりしないよね?帰ってきてくれるよね?」
「……うん。すぐ帰るよ。まだカレー食べてないしね。」
男は二人を見送って、二ヶ月前に視界が歪んだ場所へ来ました。
(ごめん。みんなのことは好きだよ。でも…でもやっぱり……ワンルームに……六畳のワンルームに……九人は……俺には無理なんだ…。ごめん。)
男は眼を瞑り、歯を食い縛りました。そしてカッと眼を見開くと視界が歪み始めました。
ほんの五秒くらいの出来事でしたが、その間に色々な思い出が浮かび、歪んだ視界は涙でぼやけました。
「元の世界へ!バックバックバックバック!」
ヘリウムガスを吸った時のようなかん高い声が頭の中に響き、視界が元に戻りました。涙をぬぐってぼやけも消しました。
家に帰りました。
(広い。こんなに広かったのか。)
男は二ヶ月ぶりの自慰行為をしてから眠りにつきました。
何日間が過ぎました。ずっとこの世界にいたかのように生活にはなんの支障もありません。ただふとした時、大家族のことを考えてしまいます。その度に(元々はこっちの世界なんだから。不思議な体験ができてよかった。)男はそう考えるようにしていました。
ある日、男が会社から帰宅していると、家の電気がついていました。
(……!?…みんな!)
走っていきドアを開けました。
「………。」
そこには部屋を荒らしている外国人の男がいました。空き巣でした。二ヶ月鍵をかける生活をしていなかったからかその日は鍵をかけ忘れていました。
「……なにやってんだお前。」
「………。」
外国人はナイフを構えました。
「……誰だよ。みんなはどこだよ。会えると思ったのに。……そこは……そこは……えりちゃんの席だろうが!!!どけ!!!」
「…?」
男はナイフに怯むことなく掴みかかっていき、何ヵ所も刺されながらもナイフを奪い、外国人を刺し殺しました。
死体と部屋を眺めながら男はつぶやきました。
「二人でも…広すぎる。…さびしいな。なんで戻ってきちゃったんだろう。」
男は限界が近づき、動けなくなり外国人の死体の上に倒れ込みました。外国人の死体の臀部に顔がつきました。恐怖からか外国人は脱糞していました。その匂いで男は思い出しました。
「ああ…。特製カレー…食べたかったなぁ。」
今の人生を大切にしないといけないし、戸締まりをしっかりしないとこういうことになるよ。』
友人がゴーゴーゴーゴーカレーで出会った鍵職人二天王の一人から聞かされたらしいです。
うん。戸締まりは気をつけないといけないな。
あとカレーを食べるときにこの話は絶対に思い出さないようにしよう。
ん?ちょっと待てよ。この記事を書いてて気付いたんだけど、ゴーゴーゴーゴーカレーってなに?二個多いよ!ゴーゴーカレーだろ!あと鍵職人二天王って!今度は二個少ないよ!四天王だろ!んで鍵職人四天王でも!いないよ!多分!鍵業界のことはわからんけども!
うわ!騙された!くっそ~!
おい!白の竜っちゃんよ!どうせこのnoteも見てるんだろ!
次会ったら!しっぺでこぴんばばちょっぷ!だかんな!
♪銭がなけりゃ~君~銭がなけりゃ~