【仕事・キャリア】 書籍『働き方の哲学』の紹介
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのnoteです。
今回は,仕事について多面的に書かれた本『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』について紹介します。この本は,T氏に濱塾に寄贈してもらった本です。
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本の概要
本のタイトル『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』からもわかるように,仕事について多方面のトピックを取り上げています。
パート1は,「仕事・キャリアについて」。仕事とは何か,どんな種類があるのか,職業選択についてなど,仕事そのものを対象にいろいろな視点で書かれています。
特に「仕事の3パターン」ということで,「増減」「変形・変質」「創出」という枠組みは,なるほどと思いました。これについては,下で詳しく紹介します。
パート2は,「主体性・成長について」。仕事というのは,仕事に就いてゴールではなく,そこからプロフェッショナルへと高めることが求められます。そのために必要な主体性・成長について書かれた章です。
この章では,「成長の3方向」ということと「失敗の捉え方」について,下で紹介します。
パート3は,「知識・能力について」。成長に関わってくるものですが,プロフェッショナルな仕事へとステップアップするために必要となる力について紹介しています。
パート4は,「働く意味について」。動機づけや目標設定について書かれています。これは既に仕事に就いている人が特に役立つ内容かなと思います。
一方でまだ仕事に就いていない10代でも,勉強や部活などの現在の取り組みにも応用できる内容だと思います。
この章では,「使命的動機が持つシャワー効果」ということについて面白かったので下で紹介します。
パート5では,「会社の中で働くことについて」。これは著者が組織・人事コンサルタントというだけあって,歴史的背景を含んだ深い内容です。
パート6は,「心の健康について」。メンタルヘルスやストレスに対してまとまっています。
以上のパート1〜6で構成されています。「仕事とは」というところから「メンタルヘルス」という多岐にわたっており,タイトルの「360度の視点で仕事を考える」という言葉に偽り無しだなと思いました。
以下は,私が特に興味深かったものについて,ざっと紹介します。
面白いトピック①:仕事の3パターン
仕事というのは,何かしらの価値が生まれたときに成り立ちます。では,行動によって価値が生まれるとはどういうことでしょうか?筆者は,以下の3つのパターンがあると述べています。
①増減(A→±A)
例えば「セールスによって売り上げを伸ばした。」や「不良品の数を減らせた。」などという量的な変化を生じたときに仕事として成り立ちます。コンピュータやロボットなどAI技術の発展は,この増減に寄与すると思います。
私の仕事を振り返ると,塾によってテストの点数が上がったということは,この領域に入るのかなと思います。
②変形・変質(A→B)
例えば「キャッチコピーをブラッシュアップした」や「あるものとあるものを組み合わせて新しいパッケージをつくった」などの質が変化したときに価値が生まれます。
塾によって勉強の姿勢が良くなったというのは,この領域に入るでしょう。
③創出(0→1)
発明や発見など,既存の枠を打ち破るアイデアを生み出すことなどが創出です。
濱塾独自のプロジェクトなどはここに入るかもしれませんが,基本的に教育分野で無から有を作ることは無いので,②③合わせることが多いかなと思います。
図1:3つのパターンの関係図(p.20)
この3パターンで人によって得意不得意があるでしょうし,職種や業種によっても重みが違うかもしれません。また,上の図でもあるように,それぞれが独立しているのではなく組み合わさって成り立っています。このように仕事を価値が生まれる3パターンで振り返ってみると面白いかもしれません。
また違う視点で,よく子どもに「こんなことをやっていても仕事にならない」と言う大人がいますが,その反論として3パターンを検討するのも良いかもしれません。
例えば,音楽を聴くのが好きな子に対して「音楽なんてただの趣味。仕事になんてならない」と言う大人がいるとしたら,飲食店のBGMを考える際に,食欲が増進したり,満足度が上がったりするような音楽を導入したいときに,さまざまな音楽を知っている経験が役立ったりするかもしれません(②変形・変質)。
このように,この枠組みを持っていることで今やっていることを否定してくるような人の言葉を鵜呑みにすることなく,自分の人生や仕事を見据えて考えることができるかなと思います。さらに言うと,絶対鵜呑みにしてはいけません。
なぜなら,10年後には今ある仕事の約半数が無くなり,今思ってもみないようなことが仕事となりうると言われています。例えばユーチューバーなどは10年前は考えられなかったでしょう。しかし,テレビには無い,より身近な・自分でやるまでのないコンテンツを提供するということで②③の視点から見ると価値があるものだと分かります。だから仕事として成り立っているのではないでしょうか。
②:成長の3方向
成長には3つの方向があります。それは自分を「①広げる」「②高める」「③深める」です。
①自分を広げるというのは,読書をしたり,セミナーに行ったりすることで,視野が広がったり,人脈が広がったりして経験の幅ができるという成長
②自分を高めるというのは,仕事に改良を加えたり,責任者などの視点からものを見たりという,1段階あがった視点を得るという成長
③自分を深めるというのは,専門知識を深く勉強したり,1つの習慣をしつこく続けたりという,今持っている自分自身の知識や性質を磨き上げるという成長
成長するというのは,この3つのどれかが関係してきます。
また成長について,筆者はこう述べています。
どの成長にせよ,成長するためにもっとも大事なものは,「好奇心」です。人は「成長するぞ」「成長しなくては」といって成長するわけではありません。成長は目的というより,結果的に得られる果実の様なものです。
何かの仕事や活動に夢中になって取り組んだ後に,振り替えれば「あ,成長したな」と気づくはずのものです。永遠に成長する人とは,永遠に好奇心を湧かし,それを行動に変換できる人と言ってもいいでしょう。
成長① 成長の3方向 p.76
成長するその原動力は「好奇心」であり,好奇心によってさまざまなことに夢中になって取り組む結果,成長が得られるということです。つまり,「好奇心」を原動力として夢中となって取り組んだことの評価として3方向は役立つといっています。
好奇心が前提となるということはその通りだなと思います。ただ,この3方向は,評価だけでなく取り組む前にも役立つと私は思います。
例えば,私は現在「統計」について深く知りたいと思い,勉強しています。なぜ統計を勉強するのかと考えた際に,この3方向をもとに理由づけをしています。
「統計を勉強することで,小中学校のデータの活用の内容を教えるときに大学レベルの視点で見ることができる(②自分を高める)」
「数学領域の統計領域を掘り下げることで中学校の統計の意義が分かる(②自分を高める+③自分を深める)」
「新しい学問を知る(①自分を広げる)」
勉強するときや本を読むときなどに,読む前に「どの方向の成長が得られるだろうか」と問いかけることは,学習を有意義なものにするときに役立つと思います。
③:失敗の捉え方
失敗の捉え方について,成功の反対は失敗ではなく「挑戦しなかったこと」と述べていて,本当にそうだなあと思います。このことについて,「勇者の登り階段」と「臆病者の下り階段」という言葉で説明しています。下の図2を見てください。
図2:挑戦するリスクとしないリスク(p.99)
成功や失敗というのは「挑戦する」ということがなければ存在しません。我々が避けなければいけないのは,この挑戦するの中にある失敗ではなく,そもそも挑戦しないことです。
どういうことかというと,勇気をもって行動を起こせば,成功するにしても失敗するにしても何らかの資産が必ず蓄積されます(獲得資産)。
それは,成功して得た成果だけでなく,成功・失敗どちらでも得られる経験知や人とのつながりなどもあります。そして,挑戦することで次の行動につながる「種」が生じ,さらに挑戦する。これを繰り返していくことで,どんどん資産を獲得していく。これを「勇者の上り階段」といっています(図2の上方向)。
この「勇者の上り階段」は是非とも覚えていてほしい考え方です。成長マインドセットとも大きく関係していると思います。(成長マインドセットについては,最下部のリンクからどうぞ)
さらに面白いのは,「挑戦しない」リスクがあると言っている部分です。挑戦しないことで失敗するという恐れはなくなるかもしれませんが,逆に「機会損失」ということで後悔やその後悔による時間消費が生まれるというリスクがあります。これを「臆病者の下り階段」といっています。
挑戦しないということもリスクを生じているというのも,行動することに勇気をもらえますね。
④:使命的動機が持つシャワー効果
仕事をする動機について,5つの段階があると述べられています。
まずは「お金」を得るという動機です。これは言わずもがなですね。お金が得られないと仕事とは言いがたいですね。
次に「承認」を得ること。認められたい,承認欲求と呼ばれたりします。より多くのお金や物を所有してよく見られたいですとか,社会的地位の高い職種や身分になりたいといった動機です。
3つ目は「成長」。能力が伸びることでもっとその仕事がやってみたくなるというのは,この成長的動機を刺激しているからだといわれています。
4つ目は「共振」。あまりなじみのない言葉ですが,共に振るうということから「能動的に,濃密に他者と結びつき,他者と共有する目的に向かって動こうとする態度」(p.178)です。これは自分(利己的)な動機ではなく,他者や社会(利他的)な動機へと変容してきます。
5つ目は「使命」。「自分が見出した『おおいなる意味』を満たすために,文字通り,”命を使って”まで没頭したい何かがあるとき,それは『使命的』動機を抱いている状態あるといえます」(p.178)。
やる気を維持するためには,この5つの段階を重層的に持つことが良いとされています。というのは,もし仮に一つの動機が失われても,他の動機が補うこととなり,働く意欲を全体として維持できるからです。
そのときに,ためになる考え方は「使命的動機が持つシャワー効果」です。
図3:使命的動機が持つシャワー効果(p.179)
上の図のように,使命的動機というのは,他の動機を生まれる力となる万能薬です。
使命的テーマに邁進するとそのテーマに共振する仲間・支援者との出会いが生まれ深いつながりができます。(④共振)
そして,そのテーマを成し遂げるための能力発揮・能力習得・能力再編成が起こります。(③成長)
そのテーマの仕事がやがて人々の耳目を集めだします。(②承認)
気がつくと必要なお金が得られており,生活が経済的にきちんと回っていた。(①お金)
この「使命的動機が持つシャワー効果」は自分にとって最適な仕事を考える際にとても役立つ考え方だと思います。
濱塾の生徒さんの感想
濱塾生の一人がこの本を読んで,クエスチョニングを書いてもらったので,その一部を紹介します。
本のクエスチョニングとは,その本に対する問い(例えば,「自分はこの本で何を学んだか」など)に答えることで,自分が本から学んだ事をまとめられるという活動です。要約などは観点を自分で決めなくてはいけないので難しいですが,これは答えていけば良いので,本から学ぶということが実感しやすいと思っています。
この本のクエスチョニングの一部を紹介することで,この本の内容が少しでもつかめると思います。
この生徒さんのクエスチョニングは,最後までじっくりと読んだことが分かるものなので,私も読んでいて幸せになりました。
Q:作者は読者に言いたかったことは何か。そして,どう感じて欲しいのか。
A:将来の生き方を大きく左右する存在について,深く考えることが重要
Q:この本のタイトル『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』は適切か。
A:とても適切 哲学とは何か詳しくは知らなかったけど,だいたい理解できたのがすごかった
Q:自分の心に一番グサッと刺さった部分(パワーフレーズ)はどこか。
A:天才とは,蝶を追っていつの間にか山頂に登っている少年である。(ジョン・スタインベック)
A:夢中でやって振り返れば底には成長した自分がいる。「成長しなくては」といって成長するわけではない。夢中になって進み続ければ「あ,成長したな」と気づくはずのものである。
Q:オススメの1つの章をあげて要約しよう。
A:「キャリア④登山型」…山の登頂を目指すタイプと山の回遊を楽しむタイプが分かれているのに納得。自分は山の回遊を楽しむタイプ。
Q:イラストからどんな種類の情報を得られたのか。
A:人間に例えているのが人影で,シンプルに。わかりやすかったと思います。
多方面から仕事について書かれているので,どんな人にも1つや2つは学ぶものが有るのではないかと思います。是非読んでみてください。
参考資料
成長マインドセットについて
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2021年3月から長泉町にある個別指導の学習塾「濱塾」を経営している高濱と申します。教育に関する情報を発信していきます。