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ある日の話


私(ここでは「わたくし」と読んでほしい。「わたし」ではなく「わたくし」だ。面倒くさければ「わたし」でもいい)は夕方に散歩がてら駅前を歩いていた。   

駅といっても、最寄りではなくもう一つ奥の駅だ。

この駅は東西南北をつなぐ交通の心臓的な駅なので利用者が多い。

私(「わたくし」である)はここ数日他人に会っていなかったので、まるで電灯に群がる虫の如く、人が多い場所に向かってきた。

駅の近くの広場の椅子に腰かけて、人(ここでは「にんげん」と読んでほしい。「ひと」ではなく「にんげん」だ。面倒くさければ「ひと」でもいい)の流れを眺めていた。

多くの人が流れるものの知り合いは一人もいない。

「世界は広いもんだな」などと思いながらうちわをパタパタしていた。(すまない、うちわをずっと右手に持っていることを言うのを忘れていた。右手にうちわを持っている男を想像してほしい。面倒くさければ左手でもいい)

ふと自分の足下を見ると財布(ここでは長財布を想像してほしい。ポールスミスの¥25,000ぐらいするやつ。驚くほどほどポケットがあるタイプのやつ。面倒くさければガマ口の財布でも想像しといてくれ)が落ちているのに気づいた。

中を開けてみると、現金が¥16,000と小銭(やたらと10円玉が多いので持ち主はややがさつなのだろう)、カード、免許証、すき家のレシート等が入っていた。

こう見えても私はそこまで金には困っていないのだが、¥16,000にはさすがに心(「ハート」と読んで。面倒くさければ「こころ」でもいいんだけどさ)が揺らぐ。

するとどこからともなく綺麗な効果音(「キラキラ」みたいなやつを想像して。面倒くさければ「水の音」でも想像してろ)が聞こえてきた。

目の前に小さい天使(「エンジェル」。めんどいなら「てんし」とでも読めばいいじゃない)が現れた。

「それを落として困ってる人がいるのだからさっさと交番に届けなさい。わかる?」

最後の「わかる?」に引っかかったものの正しいことを言っているので従おうと思ったその時、またどこからともなく不穏な効果音(低ければ何でもいい。想像してくれ。面倒くさくてもこれぐらいは頑張れ)が聞こえてきた。

目の前に小さい悪魔(これは「あくま」と読め。「デビル」じゃない。勝手なことをするな)が現れた。

「خذ كل هذه الأموال وألقِ محفظتك في البالوعة」

何を言っているかわからなかった。

そんなこんなで財布を交番に届けた。

警察官に「この財布を拾った状況を詳しく教えてください」と言われたので、私は上記のことを一言一句違わず伝えた。

すなわち、「私(ここでは「わたくし」と〜〜(中略)〜〜交番に届けた。」というのを口で全部言った。

警察官は私に「ありがとうございます。この財布はこちらでお預かりします。それにしても、あなた面倒くさい人ですね」と言った。

「そうなんですかね?」と私は言って交番を去った。


ちょっと傷ついた。

帰りは電車で帰った。

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