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庵野秀明と富野由悠季

 エヴァンゲリオンの庵野秀明が1993年に作った伝説の同人誌「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア友の会」が庵野本人により復刻出版されたので早速入手した。これは「逆シャア」をお題にした、庵野によるアニメ関係者との対談インタビューを中心に、文字がぎっちりつまった本だが、同人誌でありながら、押井守、鈴木敏夫、ゆうきまさみ、そして富野由悠季本人へのインタビューなど超豪華メンバーによる93年当時のアニメに対する生々しい制作話が読める貴重な資料となっている。庵野秀明が宮崎駿の弟子であることは有名だが、これを読むと庵野が宮崎駿に何を感じ、それに対し富野由悠季に何を見たのか、その影響の大きさがよく分かる。そして93年といえばTV版エヴァンゲリオン開始95年の前夜であり、攻殻機動隊の前夜でもある。庵野本人が復刻版に向けあとがきに記載しているように、この「逆シャア友の会」が基盤となりエヴァンゲリオン作成に至ったことがよくわかるので、そこらへん興味がある人は必見です。
 アニメがおもちゃのCMでしかなく、漫画家や画家や映画監督になれなかった人達が半ばしかたなく仕事としてアニメーションをつくっていた時代から、アニメで育ちアニメ好きでアニメしか見ずに好きなものだけを作る若手がでてきた時代の過渡期。庵野がアニメ制作業界に失望し、何かしなくてはと大志をいだいていた93年。大御所に対してもキレキレで自負とオタクっぷりと皆に一目置かれている感が伝わってくる若き庵野秀明、歯に衣着せぬ批評をしゃべりまくるあまりにも押井守な押井守。うさんくさいけど話がおもしろい鈴木敏夫、実直さと狂気が巧妙に入り交じる富野由悠季。30年たった現在もあまりこの並びもキャラクターも変わっていないことに気づかされ薄ら寒い気持ちにもなるが、皆健在なのは良いことだ。
 93年は映画「逆襲のシャア」公開から5年後であり、庵野は「逆襲のシャア」があまりにも語られていないことに憤っていた。この本は同人誌であり、好き放題に逆シャアについて話しているので、それはオタク仲間内での長い論評会のような様相を呈しており、語られる強度を持ったアニメーションは批評されるべきという気持ちが強く感じられる。そしてそれは、良くも悪くも論評を巻き起こしまくるエヴァンゲリオンにつながっていったのである。皆が共通にその作品を見ていて、その作者をある程度理解しており、語られる強度があるクオリティがあるものについて、深く語り明かすことは確かに楽しい。どんな語られ口があるか23人分「逆シャア 友の会」のなかには詰まっている。
 

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