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【声色ききみみずきん】#25 大泉洋さんの声は、周囲との関わりで変幻自在。感度抜群のセンサーと柔軟な筋肉から生み出されている

ある芸人さんが言っていました。
芸能界で生き残れる人の、第一条件。
それは、「かわいげ」。

かわいげのない人は、どんなに実力があっても、生き残れないのだそうです。
私、「かわいげ」という言葉で、思い浮かぶ人がいます。
40代後半の男性なんですけどね・・・

◆◆◆

北海道が生んだ、超人気者。
大泉洋さん(48歳)。

大学在学中に、北海道テレビの深夜番組に出演し、ブレイク!
2005年の東京進出で、一躍全国区に躍り出ました。

現在、NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、源頼朝を熱演中。
不思議な味わいのある方です。

さて、声もとっても個性的。

芯の感じられない、ひょうひょうとした音声と語り口は、顔の骨格や歯並びの影響もあります。
面長ですしね。

面長だと口の奥が広くなるので、前に出すエネルギーが控えめな時は、声がこもり気味になります。
そして、鼻にかかっていて平たい。

それが、気弱さや優柔不断さや、ずるがしこさや、情けない感じを醸し出す時には、とても良い味わいになるんです。

それでいて、テンションが高めの演技の時は、唇を前につき出しノドの奥も開いて、声帯周辺の筋肉もかなり柔軟。
前に押し出す(伝えようとする)力も、強く感じられます。
抑揚のある音声表現も、得意な人です。

さらに・・・

頭の回転が速く、軽妙な受け答えのセンスも抜群。
天才的。
一見、前に出てうるさくしゃべっているようだけど、かなり受け身でもあるんですよね。
これは、相手役との関わりで芝居をつくる、舞台経験が豊富な俳優さんだから、なのでしょうね。

とてつもなく繊細に、相手の気持ちや、周囲の空気が読める人なのだと思います。
これは、持って生まれたセンサーが高性能な方なのでしょう。

人を身構えさせる威圧感もなく、相手のふところにするっと飛び込めるし、この場を確実に盛り上げてくれるという信頼度も高い。
発信力が高い人は、実は受信力も高いのです。

だから周囲の人たちから、かわいがられて愛されるんですね。
ぼやいていても、かわいげがありますし。

大泉さん以外の人が、大泉さんの真似をして表現をすると、たぶん、うるさがられて嫌われてしまいます。
大泉さんのような立ち位置で芝居が出来る俳優さんは、他にはいません。

◆◆◆

かつて、喜劇俳優と呼ばれる人たちがいました。

寅さんを演じた渥美清さんを筆頭に、古くは榎本健一さん。
森繁久弥さん、三木のり平さん、フランキー堺さん、藤山寛美さん・・・
重厚な演技も、人を笑わせる喜劇も自在に演じることが出来る人たち。

人を泣かせて笑わせることが出来る表現力を持つ人たちは、人間の感情に徹底して向き合っています。

面白おかしく演じていても、そこはかとなく哀愁が漂います。
生きることは、苦しいし哀しいし、難しい。
でも、笑う。
困ったように、笑ってしまう。
笑わせる。

哀しみと、表裏一体の笑いです。

私は、もしかしたら大泉さんは、そんな流れを継承できる現代の俳優さんなのではないかと思っています。

今、ふと思い出したのは、ユースケ・サンタマリアさん。
大泉さんと同世代の俳優さんで、バラエティでもドラマでもご活躍です。
ユースケさんも、哀愁を感じますよね。

ただ、ユースケさんの哀愁は、冷たくダークで重さもあり、ちょっと狂気も含まれています。
それもステキですけどね。

一方、大泉さんの哀愁は、優しくて温かい色合いで、軽くて、なおかつ寂しげ
落語みたい。
庶民が持っている哀愁。
そんなイメージです。

今度、大泉さん出演のドラマを観る時は、セリフのちょっとした「」や「仕草」、受け身の芝居の時の、「たたずまい」などを注目してみて下さいね。

他の人にはけっして真似できない、独特な雰囲気がありますし色気もある。
この独特の存在感も、愛される要因のひとつだと思います。
きっと、素の大泉さんは繊細で思慮深い、静かな人なのでは。

かわいげがあり、愛される男性の声は、周囲との関わりで化学反応をおこし、変幻自在な表現を生み出す出色のコメディアンボイスでした。

あなたも、大泉洋さんの声に聴きみみを立ててみて下さいね。

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