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【声色ききみみずきん】#18 タモリさんの声は、愛ある上司&ジャズコミュニケーション

2014年3月末、32年の歴史に幕をおろした「笑っていいとも!」。移り変わりの早いテレビの世界で、32年間も番組が続くというのは、驚異的だと思う。

でもタモリさん、「いいとも」だけじゃない。
深夜番組「タモリ倶楽部」は、37年(継続中)。
歌番組「ミュージックステーション」の司会は、33年(継続中)。
ドラマ「世にも奇妙な物語」の出演は、29年(時々継続中)。

タモリさんの仕事は、どうしてこんなに続くんだろう…?
タモリさんの声を聴きながら、長く愛される理由を考えてみた。

◆◆◆

タモリさんの声の最も大きな特徴は、「構えがない」ということ。

人は時折、相手の立場で発声を変えてしまう場合がある。
自分より、立場が上か下か。
年齢が上か下か。
有名か無名か等々・・・

それは、嫌われたくないとか、認めてもらいたいとか、うわ~!緊張する!!ってことが、身体に出るため。すると、意識的にでも無意識にでも、音質が変わってしまう。

ところが、タモリさんにはそれがない。まったくない。

首相でも、ハリウッドの有名俳優でも、一般人でも、若手芸人でも発声は同じ。たぶん、子どもや高齢者に対しても、同じトーンで話されると思う。

懐を広くして、相手をひとりの人間として受け入れていながら、いつも同じ「私」でいる。

これ、実は、すごいことだと思う。
「構えがない」声で話されると、受け取る相手は、どうなるか?
もう、構えられない。無抵抗。つまり、余計な「構え」が、取れてしまう。不思議なくらい自然体でいられるし、安心して心を開くことができる。

ご自分の番組では、ゲスト・レギュラー陣・お客さん、全て同じ目線で同じトーン。たぶん誰もが、タモリさんの前では、素直なひとりの人間に戻れるのではないだろうか。

この懐の深さ穏やかさは、相当なご苦労を経て開花した、タモリさんの才能のひとつだと、私は思う。

あともう一つ感じるのは、タモリさんのコミュニケーションのベースにあるのは、ジャズの要素。それもフリージャズ。

予定調和を嫌い、ふっと外して意外性や緊張感を出し、面白く融合させて遊ぶ。ジャズの下地があるからこその、コミュニケーション術だと思う。このコミュニケーション術があれば、関係の中に、いつも新鮮な躍動感がある。

私は、たぶん30年以上も番組が長く続いたのは、この構えのなさと新鮮さがあったからだと思う。
同じことを続けているようでいて、タモリさん自身が、まったく飽きずに新鮮な気持ちで、身構えず楽しんでいたということ。相当な努力も必要だと思うけれど、タモリさんはきっと、ひょうひょうと乗り越えて来られたのだと思う。

ところでタモリさんは、まだタクシーを使って移動していた頃、タクシーの運転手さんを相手に、「なりすまし芸」を磨いたのだそうだ。新聞を読んで情報を収集し、医者や大学教授・弁護士・ビジネスマンなどになりすまし、運転手さんと話す。

「いいとも」も始まっていた頃なので、顔も有名だったのだけれど、サングラスを外して素顔で話した結果、一度もばれなかったとか。きっと、声が、安心させるのだと思う。そして、すっと人の心に入って行けるので、相手も、つい信じてしまう。

悪い方向に使うと、人をだますことができる声でもあるな。きっと。

◆◆◆

私はタモリさんの声の中に、幼い頃のタモリさんの影を感じるときがある。才能が有るが故に、同世代の友人にあまり理解されず、孤独でシャイな少年時代を過ごした影が、色濃く残っているような気がするのだ。

怪我で失った右眼の光も、タモリさんの人格形成には、大きな影響を与えているのだろうし。でもそれが、人間の本質を見抜く感覚や、ある種の諦念、したたかな観察眼、シニカルな笑いの土台になったのではないかと推察する。

そして、構えのない声は、寄る辺のない寂しさも含んでいる。でも、根本には言いようのない愛嬌もある。それが、タモリさんの独特の存在感を形成しているように思う。

タモリさんの影は、同じように才能があって、孤独でシャイな少年時代を過ごしたアーティストたちと、強烈に共鳴したのではないだろうか。タモリさんを見出したのは、多くのミュージシャンやアーティストだから。

中でも、漫画家の赤塚不二夫さんは、物心両面でタモリさんを支え、世に送り出した人でもある。赤塚さんとタモリさんには、強烈に響き合う何かがあったのだろう。赤塚さんは、タモリさんの類まれな才能を見出し、育て、深く深く愛して世に送り出した。他者ではわからないくらい、濃く強い結びつきだったのだと感じる。

私が思うに、「いいとも!」でタモリさんが続けて来られたことは、赤塚さんからのご恩送り。若手を愛情いっぱいに育てる場と、チャンスを創り援助し続けた。赤塚さんや周囲のアーティストたちからいただいた恩義を、感謝を込めて次世代に贈ったのだと思う。

タモリさんと話した人は、さりげない優しさが感じられて、タモリさんのことが、大好きになるのだそうだ。

「構えのない声」「愛される声」は「相手を構えさせず」「相手を愛し育てる」ための声でもある。

だからこそ、長く長く続く番組の中心にいられる。
タモリさんの在り方、そして声は、管理職の方や、プロジェクトリーダ、そして私たち大人世代が真摯に学ぶべき声だと思う。

お手本にして、私も懐深く…
む、難しい…

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