【プロジェクト紹介】株式会社経営芸術研究所 『忘却と恍惚の方法論』フィールドワーク体験記~新たな試みで捉える地域~
全国・世界・地元から、福島県12市町村に、芸術家が集まり、滞在制作をするハマカルアートプロジェクト(経済産業省令和5年度地域経済政策推進事業(芸術家の中期滞在制作支援事業)。
採択者とその活動を紹介しています。
どのような人々が、どのようなアートを福島県東部の12市町村でつくろうとしているのでしょうか?
今回は、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムにて大熊町を中心に制作活動を行う株式会社経営芸術総合研究所の田島さんと佐々木さんが大熊町のKUMA・PREにて行った『忘却と恍惚の方法論』の2日目の様子をお届けします。
テクノ・フィールドワーク ~芸術家が情報と文脈から逃れるために~
このフィールドワークは今回の採択者である株式会社経営芸術総合研究所の田島悠史さんによる試みである。今回の制作ではパネル展示と撮影した動画放映が行われた。
「体系だったものではなく、あくまで着想段階であるため『試み』としている。」と田島さんはコメントしている。
田島さんが試みたフィールドワークは、大熊町内を爆音で音楽をかけながら、徒歩や車で移動するというアートだ。
田島さんはこの地域でアーティストとして活動をはじめたとき、「原発」や「東日本大震災」という情報を目の当たりにした。アーティストとしての完成に委ねるほど、その光景の背景から逃れることが難しいと感じた。また、「原発 / 震災というテーマは避けられないよ」とも言われたそうだ。
その一方で、アーティストが一律に同じテーマを扱うことに疑問を持っていた。自らの思考が閉じてきていると感じた田島さんはテクノミュージックを流しながらドライブに出かけた。
その時、土地の見え方が変わった。
街の電柱や太陽光パネルといった風景をしっかりと眺めることができた。
テクノミュージックによって田島さん自身が、そこにある風景や建造物、鍵盤、植物などあらゆるものに恍惚し、「原発」や「東日本大震災」という情報を一時的に忘却することで初めて本来の大熊町にピントが合った。
テクノ・フィールドワークが、これからどのように形作られていくのか、非常に興味深い試みであると感じた。
ポエティック・トリップ
このフィールドワークは、田島さんが招へいした佐々木樹さんによる試みである。佐々木さんは「詩的な何かをつかむためには、観察を通じた回顧・想像がどのような跳躍・潜在を通じた垂直的接近である」と考えている。
『ポエティック・トリップ(Poetic Trip)』は詩的な何かに繋がりにいこうとする取り組みで、様々な人の視点から大熊町を見つめ、感じたものを詩として書き起こす。
これまでポエティック・トリップに参加した参加者の制作した詩を最終的にヒントに佐々木さんが詩を制作するのが本プロジェクトの最終目標となる。
ポエティック・トリップは参加者がKUMA・PREから西に500mほどの範囲の中で自由に歩き回り、詩を制作する。
ルールとして、他の参加者と話してはならず、心の中の自分との対話をしたり、道に寝転んで空を眺めたり、自然と一体になったりなど、それぞれの方法で詩的な入口を見つけるということだ。
参加者はルール説明を受けた後、各々が思うままに歩きまわった。
30分間、各々が何感じた場所や物の写真を撮り、KUMA・PREに戻った後、その中の写真を一つ選び、そこから詩的に感じたものを詩に起こしていく。必ずしも詩の形にしないといけないわけではなく、箇条書きや一言、一文など形は問わない。参加者はそれぞれ自分が撮った写真で詩的に感じたものを書き起こしていた。
今回の2つの試みを通して、大熊町という場所を「原発」や「東日本大震災」という枠組みにとらわれず、アーティストとして作品を残し、それらの取り組みを継続していくことが、このプロジェクトの大きな目的である。
また、テクノ・フィールドワークやポエティック・トリップが今後、違う地域で行われた場合においても、例として大熊町の名前が出てくることになれば、大熊町という地域がアーティストが活動を行える場所として認知されることにも繋がるだろう。
田島さんと佐々木さんは今後も、大熊町に限らず12市町村全体に範囲を広げ、地域住民と連携しながら、アーティストが拠点として活動できる場所づくりと事業の継続を続けていく。
本プロジェクトで制作した作品は富岡町にある写真スタジオ『コススタ』にて展示されていました。
展示期間:2月20日(火)~3月3日(日) 10:00~19:00
展示場所:コススタ 福島県双葉郡富岡町小浜中央262
入場料 :無料