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オンライン座談会第2回〜「未曾有」の挑戦〜

取材日:2020年5月17日

成城学園前駅から徒歩3分、アートホール&カフェギャラリーとして2017年9月にオープンした「アトリエ第Q藝術」。
今回は、アトリエ第Q藝術チーフディレクターの早川誠司氏とチーフマネージャーの高山なおき氏のお二人にオンラインで取材を行い、コロナ禍に小劇場から「発信」を続ける背景に迫りました。

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(撮影:HAMA project 竹中梓)


早川誠司/HAYAKAWA Seiji
照明家
アートディレクター
1976年 11月2日生まれ
1996年-2016年 キッドアイラックアートホール&ギャラリー企画運営
舞台や美術展の裏方、ステージ照明も数多く手がける
2017年 アトリエ第Q藝術開館、チーフディレクターに就任

高山なおき/TAKAYAMA Naoki
脚本家
ダブルエッジ 作家
1969年 7月6日生まれ
1991年 テレビドラマ『鞍馬天狗』(テレビ東京)にて脚本家デビュー
1998年 田辺日太と演劇ユニット『ダブルエッジ』旗揚げ
2016年 ダブルエッジで漫才を始める
2017年 アトリエ第Q藝術開館、チーフマネージャーに就任
コント配信中 https://www.youtube.com/channel/UCeu8R9LUIE5epyhAEXLl2iw

アトリエ第Q藝術
HP:https://www.seijoatelierq.com
You Tubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCTLVwQs-NWWVOP2e0zGbECw 

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左:高山なおき氏、右:早川誠司氏(提供:アトリエ第Q藝術)

語り手
アトリエ第Q藝術チーフディレクター 早川誠司 氏
アトリエ第Q藝術チーフマネージャー 高山なおき 氏
聴き手
オペラ企画HAMA project演出 吉野良祐
書記
オペラ企画HAMA project代表 竹中梓
編集長
オペラ企画HAMA project   岩舩利佳


――本日はオンライン座談会第2回〜「未曾有」の挑戦〜と題して、早川誠司さん、高山なおきさんのお二人にお話を伺います。この企画は、アトリエ第Q藝術さんのYouTubeでの発信を受けたことに加え、我々オペラ企画HAMA projectが2020年5月12日に公演を行う予定だったご縁もあり実現いたしました。

配信に至った経緯と背景

――第Q藝術さんは、今年3月末に休館の告知の後、4月22日にYouTubeでメッセージを公開していらっしゃいます。このような状況下でも熱意を失うことなく、社会の変化に応じて今できることを続けていらっしゃるとのことでしたが、休館を決定した経緯や、こうした発信に至った背景についてお聞かせください。

高山:休館を決断した理由は単純で、ただ「使う人がいなくなってしまったから」というだけです。様々な劇団やアーティストの方々が、コロナの影響を受けて本番の中止や延期を決断されていきました。第Q藝術は私設の貸しホールなので、使う人がいなければ休館するほかはないのです。

早川:日に日に増えていくキャンセルを目の当たりにして、今後どうなるんだろう、どうしたらいいんだろうと考えるようになりました。いま休館するのは仕方がない、だけどこれから先はどうする?再開したときはどうなる?と。たとえコロナが収束したとしても、元の世界に戻るということは、おそらくあり得ないと思うんです。そうしたときに、新しいことを考えていかなければいけないんじゃないかと思ったのが、YouTubeでメッセージを発信しようと思ったきっかけです。

――現在、第Q藝術さんのYouTubeチャンネルには、過去に第Q藝術で行われた演劇などの映像が投稿されています。こうした試みは今後も続けていかれますか。

高山:はい、そのつもりです。現在公開しているものは、記録用として撮影していた映像のみですが、今後は「配信のために撮影した映像」も公開していけたらと思っています。

早川:直近ですと、5月20日(水)にオンライン生配信『未曾有mizou 』@アトリエ第Q藝術というライブ配信を予定しています。この公演ではアトリエ第Q藝術という場を活かした配信が出来ればと思っています。有料での配信になりますが、お金を払う価値のある作品を生み出す挑戦の一歩です。

高山:もっとも、オンラインでの取り組み自体まだ模索段階なので、かなりチャレンジングな部分もありますが……。

――なるほど、第Q藝術というフィールドを使って、作品をライブ配信するというわけですね。そうした取り組みについて、劇場側はどういったアプローチをしているのでしょうか。

高山:機材やノウハウを提供することに加え、YouTubeチャンネルを開設することで、ホームベース作りもしていきたいと考えています。

早川:もちろん、僕らの劇場の名前を使って全ての公演を配信してほしいということではないですよ。受け皿としてこういうものがある、ということ知ってもらえたら嬉しいですね。

――なるほど、実際の劇場という「場」と、YouTubeチャンネルというバーチャルな意味での「場」の二つを提供するということですね。

早川:そうそう。第Q藝術の新しい使い方として、お客さんを入れずに撮影・配信だけを行う、という利用方法も検討しています。「配信の場としての劇場」という道を先導していきたいですね。


『未曾有mizou 』@アトリエ第Q藝術

――“配信の場としての劇場”について、『未曾有mizou』がまさにその第一歩となるわけですね。今はその準備段階だと思いますが、準備の段階で感じていることはありますか?

早川:いやもう、素直に「面白いな」と(笑)。僕が言うのもなんですが、本当に面白い取り組みになるんじゃないかと感じています。

高山:撮影の仕方も、うちのアトリエのサイズ感とマッチしててね。面白いことになると思いますよ。

早川:もちろん、実際に配信を見たお客さんの中には、「やっぱり芝居は劇場で観た方がいい」「生で観たい」と思う方もいらっしゃるとは思いますが、僕はそういう反応も肯定的に捉えているんです。そういう気持ちは、生の演劇ダンスの価値が上がることへ繋がっていくじゃないですか。それもまた、配信を行うことの一つの成果だと考えています。

高山:『未曾有mizou』はライブ配信ですから、「今」を共有するという意味においては、作られた映像を流すことに比べると「生」の感覚が残っているように思います。


――早川さんがおっしゃったように、オンラインでの配信を生の公演の下位互換のように感じている人も少なくないと思います。オンラインの配信が生の公演と並び立つことはあるんでしょうか?

早川:そればかりは、社会が何を求めるかに尽きると思いますね。もちろん、劇場が近くにない人でもボタン一つで公演を観ることができるという点では、物理的な距離を縮められるという意味から考えるとオンラインは圧倒的に優位ですが、それが浸透していくかどうかは社会がどう受け入れていくかに依るんじゃないでしょうか。

高山:現時点では評価は分かれるかもしれないけれど、根本の部分ではどっちが上位でどっちが下位ということもないんじゃないかな。それにオンラインでの試みはまだ出始めたばっかりだから、これからどんどん進化していくと思いますよ。そういう変化の手助けをしていけたらと思っています。

早川:『未曾有mizou』も、準備を進めるうちにカメラアングルなどがどんどん変化していきましたからね。

高山:これ以上はネタバレになっちゃうから、あとは実際に配信を観て感想を教えてください。(笑)

――配信によって得られるあらゆる反応が、取り組みを行う上での成果として積み上げられていくんですね。公演、楽しみにしています。

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セラールーム(提供:アトリエ第Q藝術)


小劇場の歴史とこれから

高山:実は小劇場文化の歴史って、そこまで古いものじゃないんですよ。狭いところにギュッと人をいれて劇をやるというスタイルは、長い長い演劇文化の中ではかなり最近になってから出来上がったスタイルなんです。

早川:小劇場というものを初めて知った人は、この凝縮された空間の異様さに多分驚くんじゃないかな。(笑)

高山:小劇場のあり方ははたして一般的なのか、文化的にこれから長く続いていくものなのか、という点は考えていかなければならないと思っています。

――コロナ禍を受けて、小劇場という文化自体が今までのあり方から変化していく、ということですか?

高山:そうです。そもそも藝術は、時代によって常に姿を変えてきたんですよね。僕らはたまたまこのコロナ時代に生きていて、たまたま大きな変わり目を目の当たりにしているだけで。

早川:コロナが落ち着いて自粛体制が緩和されたとしても、今までのようにぎゅうぎゅうに人を詰め込むようなあり方はもう再開されないかもしれませんよね。例えば、劇場には限定で30人だけ入れて、他の人はオンライン生配信で観る、というスタイルがスタンダードになることも十分に考えられます。

――わたしは、早川さんが第Q芸術を立ち上げる前に支配人をなさっていたキッド・アイラック・アート・ホール(*1)にも通っており、毎年大晦日に行われる「除夜舞」というイベントにも参加したことがあります。むせかえるような小さな空間で出演者もお客さんも区別なく踊り明かす、それはそれは生々しい体験でした。現在は第Q藝術に場所を変えて行われているそうですが、今年は実施できるのでしょうか。

早川:多分やるでしょうね。(笑)ただ、除夜舞はもともとは横浜が発祥のものなんです。屋外でやっていたものが明大前のキッド・アイラックに移ってきて、その後成城学園の第Q藝術に移り……という流れがあり、さらに今年はこのような状況ですから、新しい流れとして「オンライン」での実施になる可能性もあり得ますね。

――比較的新しい小劇場文化だからこそ、時代の流れに反応して変化していけるのかもしれませんね。

早川:それもありますし、僕らみたいな私設のアトリエは、大劇場のように公的な機関と繋がりがあるわけではないので、僕らの独断でなんでも進められちゃうんですよ。小劇場にはそういうフットワークの軽さもあるんじゃないでしょうか。

*1  キッド・アイラック・アート・ホールは、明大前にあった小劇場&ギャラリー。2016年末に閉館。


クローズドな小劇場とオープンなネット

――小劇場はこれまで、良くも悪くも、極めてクローズドな環境・文化であったと思います。それが「内輪感」「排他性」に繋がってしまうこともありますが、クローズドだからこそ熟成していったものもあるんじゃないかと思います。そういう意味で、どこでも誰でも観ることができる開かれたネットというフィールドに小劇場が進むことは、サロン性のようなものも失われてしまうんじゃないでしょうか。

高山:よく、ネットはオープンな場だって言う人がいるけど、実際ネットってそんなに開かれてるかな。僕はネットって、実はそんなにオープンな環境じゃないんじゃないかと思うんですよ。テレビみたいに垂れ流されている情報と違って、ネットは「検索」という能動的な操作をしなければどこにもアクセスできません。やろうと思って初めて繋がることができるという意味では、足を運ぼうと思って初めて扉を開けることのできる劇場と、実は大差ないんじゃないでしょうか。

早川:僕も、その点はあまり心配していません。ゾーニングが崩れるというわけではなくむしろ、行きたいけれども物理的に行けない人に対して、ネットは寄り添ってくれるんじゃないでしょうか。

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ホール(提供:アトリエ第Q藝術)


法律の壁

――演劇ではBGMとして様々な楽曲が使用されています。バレエやオペラのようなクラシック音楽と比べると、演劇はそうした権利上の問題が配信の障壁になってしまうのではないでしょうか。

早川:そうですね、小劇場では、楽曲使用についてはグレーゾーンとして扱われてきましたが、これから配信が増えていけばそうした問題も明るみに出ていくでしょうね。

――新国立劇場では過去公演の映像をネット上に多数公開していますが、クラシック音楽を扱うオペラやバレエの配信は沢山あるものの、戯曲や演劇などについては権利上の問題から映像配信ができないようですね。

早川:もちろん、あらゆる作品に対してその権利は守られるべきだと思いますが、その上で、今はとりあえずやってみるのが大事だと思っています。やってみて、その問題が明るみに出て、それをどうしてくか考えていく、という試行錯誤が必要なんじゃないかな。

――グレーだからこそ敢えてやってみるということですね。それを受けて、法律やルールの方が変わっていくこともあるかもしれません。

高山:そうそう。ニコニコ動画とJASRACの例がまさにそうですよね。初期のニコニコ動画では、個人ユーザーが無断で楽曲を使用して動画などを作成・投稿していましたが、その文化が定着した(してしまった)ことによって、ニコ動の運営側がJASRAC管理楽曲の二次利用を包括許諾する契約(*2)を結びました。JASRACが管理する音楽著作物を使用した動画を、自由に投稿できるようになったわけです。このように、先に文化が出来て、後から法律やルールの方が発展するということが演劇業界でも起こり得るかもしれません。

*2  https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20080401/297727/ (日経)

――世の中の流れを見ていると、例えば消毒液を買う、マスクを着けるなど今をしのぐための対応は多く見受けられますが、「次のステップ」へ向かう取り組みのようなものは、まだ何が正解なのかが見えない状況ですよね。

高山:消毒液を買うのはね、すぐにできることなんですよ。でもそれって、根本の部分の解決にはならないんじゃないかなと思って。僕らは、これからのルールを作るっていう、時間と手間のかかる部分に着手していくべきだと思っています。

早川:場当たり的な対応じゃなくて、これからの小劇場文化、新しい演劇文化を作っていくことがやりたいんだよね。

劇場と劇団の関係

――今、第Q藝術さんは新しい上演の形を提供しようと取り組んでいらっしゃいますが、劇場側からアプローチをする例は少ないんじゃないでしょうか。劇場と劇団の関係性はこれまで、劇団が劇場を使う、劇団がそれに応える、という関係性が主だったと思いますが、そうした関係性は今後変わっていくと思いますか?

高山:演劇における劇団と劇場の関係性は概ねおっしゃる通りなんですが、「演じ手」と「ハコ」の関係性というのは、実はジャンルによって全然違うんですよ。例えば音楽系のライブハウス(=ハコ)は、ライブハウス側がアーティストを呼んでライブを組んだりします。ジャンルが違えば、ハコが主催的な立場を担うことも多いんです。

――なるほど、たしかにそうですね。第Q藝術さんはさまざまなジャンルのアーティストに利用されていると聞きましたが、コロナへの対応についてジャンルごとの違いを感じることはありましたか?

早川:僕の所感では、一番反応が早かったのはミュージシャンでしたね。音楽系のアーティストたちは、無観客上演やライブ配信などに切り替える動きが早かったと思います。次にダンサー、最後に演劇、という感じです。もしかしたら、演劇はまだ動き出せていないんじゃないかとさえ思います。やはり、演者だけでなくスタッフもいますから、身軽に動けないんじゃないでしょうか。一人芝居ならまだしも人数が多いと、どうしても難しいところがあるのでしょう。

高山:さっきジャンルという話になったけれど、僕はこれから新しいジャンルの区切り方が生まれるかもしれないと思っています。従来の区分の越境というか。新しい「藝術」が生まれるんじゃないかと感じています。


――まさに、様々な芸術が集まって互いに刺激し合い、新たなQ番目の芸術を生み出していくための“第Q藝術”の出現というわけですね。

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ホール(提供:アトリエ第Q藝術)


再開に向けて

――本日(5月17日)、都の感染者数が1桁になったという報道がありました。今後も予断を許さない状況が続くとは思いますが、実際の「場」の提供の再開が見えてきたのではないでしょうか。

高山:僕らは貸しホールなので、利用者さんが利用したいと思っていただいて初めて動くことができます。我々から「再開します」と先に宣言するというよりは、利用者さん・主催者さんの意向次第で再開に乗り出すことになります。

早川:いざ主催側が動こうとしたときは、こちらの準備が万全にできている状態でありたいですね。利用したいと言ってくれたときに、僕らの側ではすでに配信のノウハウや機材・上演の整備がなされているという安心感を与えたいです。

――劇場側から劇団に対して、なにか思うところはありますか?

早川:今後の劇場からのアプローチに注目していただけたらと思います。

高山:一口に劇団と言ってもそれぞれが抱えている事情は様々ですから、一概には言えません。ですからむしろみんな、自分たちでいろいろ考えてみて欲しいなと思います。失敗することがあっても、それも学びとして活かせばいいんですから。そして、誰かがうまいことをやったら、それに乗っかってみんなで続けばいいんですよ。

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セラールーム(提供:アトリエ第Q藝術)


5/20オンライン生配信
『未曾有mizou 』@アトリエ第Q藝術
Dance : 加賀谷 香 / ナオミミリアン
Music : 坂出雅海
Space Design : 日下部泰生
Cinematographer : 石田英範
Cooperation: 早川誠司(アトリエ第Q藝術)

Facebookイベントページ:
https://facebook.com/events/s/%E6%9C%AA%E6%9B%BE%E6%9C%89-mizou/2536996823184252/?ti=icl

チケットURL:
https://igostudio.zaiko.io/_item/326124

★公開された映像は、72時間保存されて閲覧可能なので、ライブ配信を見逃して、これからご覧になりたい方は、5/23 20:30までチケット購入可能です。5/23 22:00までご覧いただけます。



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