お仕事依頼のメールの書き方(悪い例)
依頼はメールでもかまわない
浜村です。漫画の原作とか、村正みかどのマネージャーとか、もう20年以上やってます。その間にいろんなお仕事を引き受けることがありました。
依頼方法で一番多いのが、やっぱり過去に一緒に仕事をしたことがある人からの連絡です。特にアスキーとかエンターブレインにいた人たちとのつながりは長くて、電話一本で原稿料も聞かずに引き受けることも多くあります。こういうのは信用が大事ですね、おたがいに。
でも世の中コンピューターが浸透して、メールやネット会議が当たり前になってくると、ご新規のお仕事もメールやSNSからいただくことが増えてきます。これはこれで便利でして、特にPixivなどからのご依頼の場合は、ポートフォリオを出さなくてもこちらの絵とか過去の作品を知っていてくれるので、話が早くて助かることも多くなります。
ただしメールの場合は文章だけの挨拶になりますので、そのあと円満に仕事ができるか、引き受けるに値するか、そもそも冷やかしか、詐欺か、判断がつかなくて迷うこともありますよね。送る側も、初対面の漫画家に送る文面には気を使ってドキドキするんじゃないでしょうか。漫画家には気難しい人もいるかもしれませんしね。
そこで今回は、依頼を受ける側の漫画家(とそのマネジメント)が、どこを見て判断しているかをじゃーんとお教えしましょう。これから営業メールを送る出版社やゲーム会社、エージェントの方などは、どうぞ参考になさってください。
まず詐欺かバカだなと判断できる文面
よくX(Twitter)なんかでも話題になりますが、世の中にはゴロと呼ばれる連中が存在します。大手同人サークルや出版社、ゲーム会社などを名乗って、景気のいい誘い文句で仕事を依頼したいと言って、お金がほしい漫画家を騙すやつらです。
これは漫画業界の構造に問題があって、制作費は基本後払い、印税などロイヤリティ払いが多い、作家同士の横のつながりが希薄など、ゴロに漬け込まれやすい要素が多いのです。
こういうメールを受け取ったことがある漫画家、イラストレーターさんは多いんじゃないでしょうか? 我ながらよく書けたと思いますが、こういうメールは即ゴミ箱行きですね。
まず、ビジネスメールの体裁をしていない。つまりこれを仕事だと勘違いしてしまうような、経験の浅い人だけを釣るのが目的ですね。あと、こっちの名前を宛名にしていない。これもオレオレ詐欺と同じで、同じ文面をたくさんの作家に送っているからです。こんな手間を惜しむなんて、いったいどれだけ多くのメールを送っているのでしょうね。
それからサイトの名前を出してるのにURLを貼ってない。読まれたくないのか? 貼ってあればいいというものでもないですけどね。クリックしてはだめですよ? ブラウザを開いて検索してみるのがよいかと思います。
「でもまともな会社だったらどうするの?」
と思われるかもしれませんが、まともな会社はこういう文面を送りません。たまに海外の出版社とかで、日本語に不慣れな社員が送ってくることはありますが、それでも相手の名前を書かないことはありえません。
この手の書き方も多いですね。ゴロは基本的に提示する金額が安いです。世間知らずの人を騙す目的なので、そうなるのでしょう。また、ロイヤリティとインセンティブの区別もついていません。それから、当たったらすごいと言いたいのでしょうが、その比較対象が普通のサラリーマンというのも、なんだか貧乏くさいです。どうせ嘘なんだから、もっと景気のいい話してほしい。
この文面が僕が考えたものですが、本当に多いんです。詐欺のこともありますし、ゴロのこともあります。ゴロについては僕の漫画のエロゲの太陽でも書きましたが、本人に悪気がないことも多く、面倒くさいです。
そして話がややこしいのが、WEB漫画雑誌を始めるのは誰でもできるので、スタートアップ気取りの素人編集者もどきが、この手のメールをまじで書いてくることがあるのです。漫画家の多くは、そういう手合を非常に警戒しています。
(正直、どんなにデビューしたくて頑張ってる若手さんでも、あんまりこういう会社とは付き合わないほうがいいと思います。ちゃんとしたところへ持っていったほうが近道です。)
詐欺だと思われないために
じゃあ本当に仕事を依頼したい場合はどうしたらいいのか。警戒心の強い漫画家を騙す良好な関係で仕事を依頼するにはどうしたらいいのか。
いちばん簡単なのは、ちょっとした金を掴ませることです。カラーの小さいカットを3万円くらいで依頼して、前金で振り込んでしまうことです。たかだか3万円を前金でもらったくらいでトンズラするような漫画家なら、今後の仕事など依頼してはいけません。漫画家も前金を払う相手は信用します。うまく仕事になったら、そのカットは単行本のおまけにでも使ってしまいましょう。投資詐欺でも最初の何回かは配当金を振り込むものです。漫画家を騙したかったら、最低限そのくらいはしましょう。逆に言えば、その程度のこともしないで騙せるくらい、漫画家はちょろいと思われているのです。
おっと筆がすべりましたね。では逆に、「できるメール」を送ってくる人はどんな文面を書くのでしょうか?
僕たちはSNS経由で新規の仕事を受けたことが何回かありますが、そのうちひとつは、なんと小学館でした。いい仕事をしていれば、大手からもスカウトはくるものですね。もっともコミケやコミティアでも普通にスカウトしまくっているのが今では普通なので、僕たちのコミケブースを◯社とか◯出版の担当が素通りしていったことは忘れることにします。
直接引用するのは憚られるので、僕たちが信用できると思ったポイントを紹介しましょう。
所属を明らかにした
そのメールでは、どの部署の、どの雑誌を担当していて、どんな内容の雑誌なのか簡潔に説明されていました。そしてリンクが張ってあり、すぐに確認できました。また、担当個人の経歴も明らかにして、過去に担当してヒットした作品などを列挙してありました。これもネットで検索すればすぐに裏が取れます。
雑誌によっては、編集プロダクションなどの外部に制作の一部を任せたり、編集者が学生のバイトだったりすることもあります。スカウトがきたと喜んで話を聞いてみたら、これから編集部に売り込みをかけたいのでコンペ用の漫画を書いてくれ、という内容だったりすることもあるのです。実際にありました。お前、編集部の人間じゃないんかい!
メールでのやり取りですから、誰がメールを送っているのか、明らかにする手間を惜しんではいけません。その際も、自分を大きく見せようとしてはいけません。漫画家は嘘のプロです。他人が話を盛ってる空気を敏感に察知します。(欲に目がくらむこともあります)
特に海外からの依頼は、エージェントがコンペにかけたいだけで、平気でポートフォリオやコンペ用原稿を要求してきます。そのさい、ギャラは出ません。少なくとも、こっちから請求しないかぎり払うつもりはありません。
誰にものを言っている?
小学館からのメールで好感だったのが、僕たちがすでに漫画家として活動していて、単行本も出していることを知っていたことです。もちろんPixivを見れば書いてあるのですけど、それさえ確認しないでメールしてくる人は、けっこういます。
そのうえで、今まで書かれた漫画の経験を、うちの雑誌でも活かしてほしい、というスタンスで書かれていました。こちらの何を評価して、何を依頼したいのかがはっきりしている内容です。
絵柄が売れると思ったので、とか、うちの雑誌のカラーに合うと思ったので、とかいうフワフワした言い方では、いまいち信用できません。
「ははーん、みんなに同じこと言ってるな?」って思われたら、営業メールの効果は半減です。嘘でもいいから、前からファンでした、と言っておいて、半日でもいいから、その作家のことを調べましょう。就職活動のときと似てるかもしれませんね。
ついでに、その小学館のかたは「打ち合わせにおいで頂けるとのことで恐縮です、弊社、小学館というのですが、場所をご説明しますと……」と後の電話で話し出して、思わず「いや、漫画家で小学館の場所知らない人はいないでしょ!」と突っ込んでしまいました。知ってますよ、集英社の隣でしょ? Dr.スランプに書いてあったもん!
うちは特殊な例ですが、媒体によってペンネームを変えたりしながら20年以上も漫画だの記事だの書いてきましたので、ちょっと調べただけでは、どんな仕事ができるかわかりません。あと海外の仕事も多いので、他の漫画家よりは、すこし鼻がきくかもしれません。たとえば……
・原稿料を明記している会社としていない会社、どっちがいい?
・雑談が混じってるメールと、混じってないメール、どっちがいい?
・業界のルールに慣れてるメールと、慣れてないメールどっちがいい?
このへんについては、うちに来た仕事で、受けてよかったもの、受けなくてよかったもの、受けなきゃよかったものなどを紹介したいのですが、なにぶん悪口になってしまうので、不特定多数への公開は差し控えます。
浜村との友達の人はメールくれたら記事をプレゼントしますので、連絡ください。
原稿料をはっきり提示する(危険度小)
あきらかな詐欺メール、バカメールの場合は金額をぼかしていることも多いですが、これより先はそういうメールのことは忘れて、
「依頼してる方はマジっぽいんだけど、この仕事先、大丈夫なのかなあ?」
という判定についての経験を語ります。
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