多くの人が関わるということ。
今回は #丸編み生地製造の勉強 シリーズで時々取り上げる工場との関係性の作り方です。新たにブランドを始めようと考えている人たちに向けて参考にしてもらえたら嬉しいです。
夢を胸いっぱいに詰め込んで、アパレルブランドを立ち上げて商売しようと考える人は少なくありません。それ自体は、僕も非常に良いことだと思います。同時に、色々な側面で『甘さ』を感じざるを得ません。それはこの業界独特の「ユルさ」でもあるので、新規参入者が悪いという訳ではないのかもしれませんが、「ユルい」くせに案外「厳しい」です。その「厳しさ」を甘く見てしまわないように、そして飲み込まれて折れてしまわないように、今回はその厳しさの裏にある『多くの人が関わる』ということの意味を考えていきたいと思います。
『与信枠(よしんわく)』という壁
ブランドを始めてすぐぶつかる問題として、工場探しがあります。工場探しというか、仕入先探しですね。そして方々当たり、ようやく話を聞いてもらえる仕入先を見つけても、すぐに『与信枠(よしんわく)』という聞きなれない言葉で満足な金額のお取引させてもらえないという現実を突きつけられます。
みんな最初は「どうして新しく商売できるのに取引させてくれないのか?」と疑問に思うんです。僕も前職時代にはあり得なかった状況でしたが、独立してからは少なからず直接お取引していただけない仕入先さんがありました。事前根回しの詰めの甘さもありましたが、根本はそういうことではなく、会社としての『与信』というのが関係しています。
『与信枠』というのは、その字のごとく「あなたにこのくらいの枠の金額を貸す信用を与えます」ということです。
『モノを作る』ということは、「一定期間あなたのことを信用して先にお金を立て替えて商品を作りますよ」という善意前提の約束です。商品が納められて、あなたが代金を支払いを終えるまで、あなたは仕入先に借金をして物を作っていることになります。
お金を払い終えることで初めてあなたの信用が認められます。一度ではなく、何度も積み重ねていくことでようやくブランドが仕入先に認められたことになります。これが『与信』です。
おそらくどの会社も、小規模なブランドや新設会社に対して、新規取引はどんなに大きくても月100万円までが与信枠の限度額でしょう。案外多いと思いますか?
実は月100万では『与信枠』を拡大していくほど仕入先にとってメリットが出てくるスケールの仕事は出来ません。彼らは年に数千万円の取引先を何軒も抱えています。
月100万ということは、初めての月に100万円仕入れたら、お金を払い終わるまで次の仕事に取りかかれないということです。月末締めて翌月末に支払ったとしても年間で600万円回すのが最大ということになります。仕掛かり時期(物を作っている期間)も考えると、恒常的に製造依頼をかけられたとして1/3~1/4くらいの年間300万くらいの取引金額になります。正直な話、そのクラスの取引先をまともに相手するほど一般的な仕入先は暇じゃありません。薄情なようですが、彼らも営業成績が出さなければ会社が苦しくなってしまいます。
これは人格を否定するものではなく、単純に実績の問題です。実績が無いのは当たり前なので、当然個人の人格も見られます。ビジネスライクに押し通せない情緒的な香りがするのはこういう部分だと個人的には思っています。
社員の家族にまで責任がある
ではなぜ仕入先は『与信』をそこまで厳しくしていかなければならないのでしょうか?
これは会社や社員を守るためです。「注文貰っていざ作って納めたらブランドが続かなくてお金を払ってもらえなかった…」これは、売上見込みのお金がもらえなかったから提案や製造にかかった運動量が0になってしまった以上に、作ってしまった物に掛かった費用までもが無駄になるので、実質金額の二倍損を与える事になります。
その支払われなかった物を作るために掛かった期間を他の取引先の仕事で埋めて売上を伸ばすことが出来たという機会損失を含めると、感覚的には二倍どころか三倍の損失です。
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