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コンセプトやアイテムから生地を考える。

当たり前と言えば当たり前ですが、面白い服を見つけたので今回はこのテーマで書いてみます。きっかけはこれです。

デザイナーズ系のブランドさんは今でもこの方法が多いと思います。僕個人的にも商品をビルドアップしていく過程で、『生地ありき』で進むより、『服ありき』もしくは『全体のバランスありき』で構築されていく要素の一つに、テキスタイルをカスタマイズする方法で仕事が進む流れが好きです。なんというか、楽しいです。あくまで個人的な考え方ですが。
もちろん生地屋さんがクリエイティブなテキスタイルを開発してそれを披露していくのは全然良いことだと思うのですが、これが行き過ぎると「すごいけど、何にしたらいいの?」という状態になるので、出来れば作ったものは陽の目を見て欲しいから、素材が誇示するような技術の盛込みには少し違和感を感じているのです。主役はあくまでブランドですからね。

ブランドのファンは生地の性能を買うのでしょうか?もしくは衝動買いをするときに必要な要素とはなんでしょうか?
僕は単純にブランドのファンとしてそのアイテムが自分と馴染みそうな時、もしくはその服がもたらしてくれるであろう着用時の高揚感や着用イメージを今後の場面を想定して「その時に着たい!」と思った服を購入していると、自分の購買行動を振り返ってみて感じました。
テキスタイルのスペックは総合的にそのアイテムを彩る一つの要素だと考えている僕にとっては、過剰な要素を盛り込んだテキスタイルが市場価値になり得るとは思っていなくて、後から実感としてその価値があったと判断してもらえた時に初めて意味を成すことだと思っています。

冒頭のTwitterで紹介したアイテムは、店員さんは「二枚の生地を張り合わせたもの」と言い張っていましたが、これは完全に編み柄で表現された商品です。テキスタイルのテクニックをアイテムの発想から落とし込んだわかりやすい例です。

技術的な側面から、このアイテムを少し掘ってみます。

アイテムのイメージをテクニックで表現できるか

このTシャツを普通に説明しろと言われたら、知識が無い人に対しては「張り合わせ」と言った方が理解しやすいと思います。だから店員さんの「張り合わせ」押しは、その商品をわかりやすくする上では良かったかも知れません。でも張り合わせでは、僕なら経年劣化で剥離する事を想像してしまいます。
デザイナーの意図は商品から汲み取るしかありませんが、僕は単純にこの商品に心地よい違和感を覚え、手にとって確かめ、どう考えても面倒な発想を形から生地に落とし込んでいる所に興味を持ちました。縫い代を外表で縫い合わせても表現できない着用時に出てくる輪郭を~接着ではなく編みで表現している~これは丸編み組織の知識を理解していないと表現できません。
とっかかりはアイテムとして総合的に成立している状態から、後々じわるスルメ的なテクニックで完成されているところに、その生地をわざわざ作る意味があるのかもしれません。僕の憶測の範囲を出ませんが、「こうしたい」という完成形のイメージから逆算してテキスタイルワークに落とし込んでいる究極かつシンプルな例です。

少しテクニックを解説します。

ダブル編みの性質を理解していると表現の可能性が広がる

全体像としてはぱっと見で普通のデザインTですが、向かって左に裾が流れているのに気付くと思います。
これは生地が時計回りの螺旋状に出来上がる丸編みの特徴です。この商品自体は地の目が横で取られているので、生地幅に対して二枚出来上がるはずです。
丸編みが螺旋だということを解説している記事はこれなので、参考にしてみてください。

図解するとこんな感じで設計された事が読み取れます。

両サイドの縦線が生地の耳で、⇔の形状になっている線の部分が両面編みこみになっていて組織としては結合している部分になります。それ以外の部分は表裏が“ふらし”になっていて、編みこまれた周囲をカットして、最後に真中を裁断すると二枚の商品が出来上がります。

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