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おとぎ鬼草子~学園篇~ 3

☆鬼が来た

(プロジェクターで映し出される鬼の絵)
(紙芝居的に絵はかわってゆく。茨木童子と酒呑童子の物語が展開されていく)

(舞台上手に茨木童子と酒呑童子)

茨木童子「俺は生まれたときには歯が生えそろっていたという。実の両親には疎まれて捨てられ、育ての親に育てられた」

茨木童子「やがて俺は鬼になった。愛されたい女のエゴと欲望のせいで」

茨木童子「誰からも疎まれ嫌われ彷徨ううちに、酒呑童子様と出会った」

酒呑童子「いばらき……身体がおかしいのだ。頭がぼうとする。苦しい、いばらき……」

茨木童子、ひょうたんの酒を飲ませる。

酒呑童子「(喜んで)酒か……」

茨木童子「まさに百薬の長。あなた様には酒がなによりの薬かと」

酒呑童子「ふふふ……はははは! 思い出すな! お前とはじめて会った時のことを!」

(舞台下手に楓と夜子)

楓「(電話をしている)うん。ごめんね遅くなって。きょうは滝川先輩のところに泊まるから」

(紙芝居画像、ガシャドクロにかわる、そして滝夜叉姫とガシャドクロの絵に変わる)

夜子「鬼たちは攻め滅ぼされた。しかし、この世に鬼はうまれかわり、目覚めてしまった」

夜子「ひとびとの欲を吸い、鬼は目覚めてしまった。そしてわたしも目を覚ました」

楓「せんぱい、先輩は一体……」

夜子「わたしは滝夜叉姫。妖怪たちを統べる者。ふつうの女の子、滝川夜子だったのにね。この世の欲望はふくれあがり、わたしたちは目覚めてしまった」

楓「そして……わたしが目覚める、って?」

(夜子、楓の髪をなでてやり)

夜子「いいのよ。剣が使えるくらいでいいの。無理に思い出さなくていいわ」

楓「でもちょっと気になる」

夜子「もっと混乱しちゃうでしょう?」

楓「見たものはまだ信じられないけど。でも」

夜子「(やさしく)いいから。わからなくてもいいことだから」

楓「はあ……」


酒呑童子「なあ茨木よ。思い出すなあ。都で暴れまわったときを」

茨木「楽しゅうございました。あなた様と」

酒呑童子「俺たちは女たちの勝手な想いでこんな姿になったわけだが……」

茨木「これはこれで。ふふふ、楽しいものです」


楓「それで? せんぱい?」

夜子「せんぱいはもうやめて。敬語もいらない。よるこでいいわ」

楓「よるこ……さん、それで鬼はどうして現れたの?」

夜子「酒呑童子も茨木童子も、もとはとてもきれいな男の子だったの。だから、彼らに恋をしてしまった女の子たちが、いくつもの恋文をよこした。でも彼らはあまりにたくさん手紙がきたものだから、大きな箱にしまって無視したの」

楓「モテすぎるのもつらいものですね」

夜子「さらに女の子たちは焦がれ死にしはじめた。あわてて箱を開けると女たちの欲が飛び出し、彼らをのみこんで……。酒呑童子や茨木童子という鬼のできあがり」

楓「鬼になって都を暴れまわって……結局成敗されて。でもよみがえって」

夜子「そうよ。わたしは彼らの敵、滝夜叉姫。冥界でも戦ったわ」

楓「冥界?」

夜子「地獄とでもいうのかしら? あの世、ね。そこでも彼らは死者を仲間に暴れたわ。そしてわたしとも戦った」

楓「その戦い、どちらが勝ったの?」
夜子「わたし。ふふ。でもおあいこだったかもね」

楓「ねえ、よるこさん、わたしは一体……」

夜子「もう遅いわ。寝ましょう」

楓「……はい」


酒呑童子「冥界でも派手にやったなあ。ただ、我はなにかを忘れておる」

茨木童子「わたしのことだけ覚えていればよいのですよ」

酒呑童子「そうだな。茨木。楽しいことだけ覚えていよう」

茨木童子「そう、楽しいことだけを」


暗転


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